樹里ちゃん、家族を紹介する
私は亀島馨。警視庁特別捜査班の刑事。
肩書きは立派だが、実は仕事がない状態だ。
今の時代の流れだと、近い将来退職させられるかも知れない。
クビにされる前に転職先を探した方がいいかも。
そんなある日。
私は非番で、あの偏屈な杉下左京さんと顔を合わせることのない一日を過ごしていた。
自己中な杉下さんと行動していると、本当に疲れるのだ。
先日も「殺人予告状」が届いたせいで、遠く群馬までつき合わされた。
本当に「お騒がせ」な人だ。
私の事を陰で、「ガラッパチ」と呼んでいるらしいが。
どちらが騒がしいのかは一目瞭然だろう。
私は新宿を歩いていた。
恥ずかしい話だが、非番の日になると、私は彼女の行方を追っていた。
その子の名は、「御徒町樹里」。
美人で、性格は穏やか。一つ難を言えば、天然の度が通常の人とかけ離れている。
でも、私は彼女の事が好きでどうしようもない。
杉下さんも好きらしいのだが、何があってもあの人にだけは負けたくない。
そして、杉下さんには彼女を好きな事を知られたくない。
私は今日も繁華街を歩き、彼女の情報を求めていた。
「え?」
うそ? いた。彼女だ。遂に巡り会えた。一体何日ぶりだろう。
私は路地の先に立っている彼女に向かって走った。
「御徒町さん!」
彼女は私の声に反応して、こちらを見た。
え? 何か違う?
「誰だよ、あんた?」
顔は御徒町さんなのだが、言葉遣いが違う。それに何、この殺気?
「何の用だい?」
その人は凄みのある顔と声で言った。人違いだったのか……。
言われてみれば、彼女はこれほど派手な服装ではない。
「も、申し訳ない。知り合いに似ていたので……」
するとその人は驚愕の言葉を口にした。
「知ってるよ、あんた。亀島馨だろ?」
「え?」
完全に意表を突かれた。誰だ、この女は?
「何だい、その顔は? そんなに私の事が不思議かい?」
「……」
驚き過ぎて言葉が出ない。
「ついて来な」
その女は私にアゴで指図し、歩き出した。
私は何が何だかわからないまま、女の後を追った。
女はどんどん狭い路地に入って行き、遂に袋小路に出た。
「樹里!」
女が大声で言った。え? どういう事?
「はーい」
袋小路の一角の店の扉が開き、今度こそ間違いなく、あの御徒町さんが現れた。
「ああ、亀島さん。お久しぶりです。どうされたのですか?」
私は嬉しくて涙ぐんでしまった。
「ああ、御徒町さん、会いたかった」
「そうなんですか」
御徒町さんはいつもの笑顔で応じてくれた。
それにしても、ここに連れて来てくれた女、御徒町さんにそっくりだ。
「で、この方は?」
私はさっきからの疑問をぶつけてみた。
「母です」
「よろしく」
相変わらず、目つきが鋭い。
私はアゴが落ちそうなくらい驚いた。てっきり双子の姉妹かと思ったのに!
「お姉ちゃん、誰か来たの?」
御徒町さんの背後から現れたミニ御徒町さん三人。彼女達もそっくりだ。
「私の妹達です」
御徒町さんが笑顔で言う。同じ顔が五人……。
ここは「御徒町パラダイス」?
よし、杉下さんには御徒町さんのお母さんを紹介してあげよう。
私は冷静な思考ができなくなって、意味不明な事を考えていた。
でも、幸せだ。たくさんの御徒町さんに囲まれて……。