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樹里ちゃん、自己陶酔型推理作家に挑戦される

 御徒町樹里は、日本で有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里の出産予定日の九月十二日まで二週間を切りました。


 見習いメイドの赤城はるなも、すっかり引き継ぎが進み、いつでも一人でできるほどになりました。


「もう今日にでも樹里さんが出産しても大丈夫ですよ」


 はるなは庭掃除を完了したのを樹里に玄関で報告しながら言いました。


「そうなんですか」


 樹里は何故か寂しそうです。


「あれ、どうしたんですか、樹里さん?」


 はるなが驚いて尋ねました。


「はるなさんは私の事が嫌いになったのですね」


 樹里は目を潤ませています。


「えええ!? ち、違いますよ! 何言ってるんですか、もう」


 はるなは慌てて言いました。樹里はニコッとして、


「そうなんですか。良かったです」


「当たり前じゃないですか! 私、樹里さんの事が大好きですよ」


 その言葉は、はるなの正体である怪盗ドロントの部下のキャビーの言葉でもあります。


 彼女は、五反田邸で樹里と一緒に働くうちに、本当に樹里の事が好きになっていました。


「ありがとうございます、キャ……」


 樹里が言いかけます。はるなは慌てますが、


(いつもそこで引っかかるんだから、今日は何も言わないでおこう)


と思い、樹里の言葉を待ちます。


「ありがとうございます、キャビーさん」


 ストレートでした。はるなは思い切りコケました。


 今日は警備員さんは見ていません。


 すると玄関の車寄せに上から目線のリムジンが入って来ました。


 言うまでもなく、推理作家の大村美紗の車です。


「いらっしゃいませ」


 樹里とはるなは素早く反応し、降りて来た美紗に頭を下げます。


「ご機嫌よう、樹里さん、はるな愛さん」


 美紗はまだ名前を覚えてくれないようです。


「いらっしゃいませ、大村様。私は赤城はるなです」


 はるなは引きつり笑顔で言いました。


「そうなの。ごめんなさいね、愛さん」


 はるなは項垂れそうになりますが、グッと堪えます。


(クソババア!)


 心の中で思いっきり罵るはるなです。


「大村様を応接間にお通ししてください」


 樹里が言いました。


「はい」


 はるなは美紗を応接間に案内して退室しようとしました。すると美紗が、


「お待ちなさい、はるなさん」


「はい」


 微妙な名前の呼び方に苦笑いするはるなです。


(どっちのつもりで呼んでるんだろう?)


 つい、気になってしまいます。


「貴女、樹里さんが産休の間、ここで働くの?」


 ソファに上から目線で寛ぎ、美紗が尋ねます。


「はい。そのように申しつかっております」


 はるなは頭を下げて答えました。


「そう。務まるかしらね、貴女なんかに」


 美紗は勝ち誇ったような顔で言います。


「鋭意努力致す所存です」


 はるなは掴み掛かりたいのを堪え、頭を下げて退室しました。


 それと入れ違いに樹里が紅茶のポットとカップをトレイに載せて入って来ました。


「今日こそ、当てるわよ。中国のキーマンね」


 美紗が自己陶酔したように言いました。


「いえ、本日はキーマンが終わってしまいましたので、ダージリンです」


 樹里は笑顔全開で言いました。美紗はそれを聞くとムッとして、


「わかっていたわよ。貴女に花を持たせたのよ。ありがたく思いなさい」


 相変わらず上から目線で負けず嫌いです。生まれはどこでしょうか?


「ありがとうございます、大村様」


 樹里は笑顔全開でお辞儀をしました。そして、紅茶を淹れ、美紗に出します。


「いい香りね」


 美紗はカップを持って紅茶の香りを楽しみます。


「そうそう、忘れるところだったわ」


 美紗は今時二時間ドラマでもしないようなオーバーなリアクションをして、バッグの中からハードカバーの本を取り出します。


「新作が刊行されるので、誰よりも早く、貴女に差し上げるのよ。ありがたく受け取りなさい」


 美紗は樹里にその本を突き出します。


「ありがとうございます」


 樹里はその本を受け取りました。


「解決編はじ込んであります。犯人を推理して、もし当たっていたら、その本の印税の半分を貴女に差し上げるわ」


 美紗は自信満々で言いました。


(絶対に犯人はわからないわ。登場人物一覧の癖は気をつけたし、名前は全員ありふれたものにしたわ)


 美紗は悪い魔女より悪い顔をしてニヤリとします。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で本を開き、パラパラとページを捲ります。


「そんなところで立ち読みしないで、家に帰ってじっくり読みなさい。でないと、犯人はわからないわよ」


 美紗は鼻で笑って言います。すると樹里は、


「読み終わりました」


「嘘おっしゃい! まだ三分も経たないわよ!」


 美紗は怒りの余り立ち上がりました。


「速読術を習ったのです」


 樹里は笑顔全開言います。


「な、な、な……」


 美紗はあんぐりと口を開いてしまいます。


「犯人は、神村律子さんです」


「な、な、な……」


 美紗は驚愕の余り、声が出ません。


 そしてそこから樹里の推理が始まりますが、美紗には全く聞こえていませんでした。


「印税が、印税がああ!」


 そしてとうとう、美紗は驚愕と怒りでソファに倒れてしまいました。


「大村様、大丈夫ですか?」


 樹里が声をかけます。


 そんなやり取りを、ドアの隙間から市原○子のように覗くはるなです。


(ざまあ見ろ)


 美紗の様子を見て喜ぶはるなでした。

 

 


 めでたし、めでたし。

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