樹里ちゃん、なぎさに恋人を紹介される
御徒町樹里は、日本有数の大富豪の五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
出産予定日まであと二週間程になりました。
「御徒町さん、本当に出産日の前日まで働くのですか?」
邸の警備員さんが大きなお腹の樹里に心配そうに尋ねます。
「そうですよ」
樹里は笑顔全開で言いました。
「御徒町さんは細いから、難産になりそうですね」
もう一人の警備員さんが言います。
「そうなんですか」
でも樹里は笑顔全開です。
「樹里さーん」
そこへ見習いメイドの赤城はるなが走って来ます。
「どうしたのですか、キャ……」
樹里が言いかけると、はるなは慌てて、
「私ははるなです、樹里さん」
と言います。警備員さんが疑惑の目をはるなに注ぎ、嫌な汗がたんまりと出て来るはるなです。
「キャットフードはキッチンの端の戸棚に入っているはずですよ、はるなさん」
樹里の長い長ーいボケにスッテンコロリンと倒れるはるなです。
「おお」
その時、警備員さん達がはるなのパンツを見てしまったのは内緒です。
「船越なぎさ様がお見えです。応接間にお通ししました」
はるなは腰をさすりながら言いました。
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。
「庭掃除は私が代わりますので」
はるなは樹里からほうきを受け取ります。
なぎさに関わるくらいだったら、溶鉱炉に落ちた方がマシだと思うはるなです。
樹里はなぎさが待つ応接間に行きました。
「いらっしゃいませ、なぎささん」
樹里は深々とお辞儀をしました。
「久しぶりね、樹里」
ふと見ると、なぎさは男性と一緒です。二人はソファから立ち上がりました。
なぎさの連れの男性は身長が高くて、イケメンで、お金持ちそうです。
「紹介するわね。私の彼の片平栄一郎君よ」
なぎさは笑顔全開で言いました。
「片平です。どうぞよろしく」
栄一郎はキラッと歯を光らせて言いました。
「よろしくお願いします」
樹里はまた深々とお辞儀をしました。
「樹里が結婚して、妊娠までしたから、私も焦っちゃって、猛アタックしたんだから」
頬を赤くしながら説明するなぎさです。
「あー、いやいや、アタックしたのは僕の方ですよ、なぎささん」
栄一郎も赤くなって言います。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開です。なぎさはキョトンとして、
「あれ、そうだっけ?」
と首を傾げます。そして、
「それにね、栄一郎君は、イギリスのバーモント大学を飛び石連休で卒業したの」
なぎさの紹介は意味不明です。
「あー、いやいや、僕はアメリカのハーバード大学を飛び級で卒業したんですよ」
全然違いました。さすが、なぎさです。
「そうなんですか。カレーが好きなのですか?」
樹里が笑顔全開で会心のボケです。
「ハハハ、バーモントから離れてください」
栄一郎は歯をキラキラさせて言いました。天然に耐性があるようです。
三人はしばらくお茶をしながら歓談しました。
「あ、私、ちょっとおしっこ」
なぎさは恥ずかしそうに応接間を出て行きます。「おしっこ」と言わなくてもいいと思うのですが。
「樹里さんはなぎささんの親友だから、彼女の事はよくご存知かと思いますが、ちょっと不思議な人ですよね」
栄一郎は爽やかな笑顔で言います。
「そうなんですか? なぎささんはいい人ですよ」
樹里は笑顔全開で応じます。すると栄一郎は慌てたように、
「あー、いやいや、そういうつもりで言ったのではないんです。僕、実はまだ十五歳なんです」
さすがの樹里もそれにはビックリしたようです。
「犯罪になりますか?」
樹里が尋ねました。
「あー、いやいや、犯罪になるような事はしていませんよ」
栄一郎は爽やかな笑顔で、
「なぎささんは、僕の知らない事をたくさん知っていて、とっても楽しい人です。何年先になるかわからないけど、僕はなぎささんと結婚したいと思います」
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で言いました。するとそこになぎさが戻って来ました。
「じ、時間かかったのはトイレの場所がわからなかったからよ! おしっこしただけなんだから!」
何故か赤くなって弁解するなぎさです。「○んこ」疑惑をかけられたと思ったのでしょうか?
それにしても、また「おしっこ」と言わなくてもいいと思います。
「ね、樹里さん、なぎささんていい人でしょ?」
栄一郎がクスクス笑いながら言います。
「そうですね」
樹里は笑顔全開で言いました。なぎさはキョトンとして、
「何が楽しいのよ、二人共?」
と首を傾げます。
そんな三人の様子をこっそり覗いていたはるなは、
(関わりたくねえ)
と思いました。
めでたし、めでたし。