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樹里ちゃん、左京を親戚に紹介する

 御徒町樹里は、日本で五指に入る大富豪の五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も、見習いメイドの赤城はるなに引き継ぎをしています。


「旦那様がお使いのタオルは、柔軟剤は使わず、奥様とお嬢様のタオルには無香料の柔軟剤を使ってください」


 樹里は笑顔全開で言います。それを一生懸命メモするはるなです。


(このまま、ここで働くのも悪くないかも)


 そんな事を思い始めているはるなは、本当は怪盗ドロントの部下のキャビーです。


 しかし、ドロントは、ほとぼりが冷めたらまた泥棒稼業に戻るつもりです。


(首領には恩があるからなあ)


 ドロントを裏切る事はできません。溜息を吐くはるなです。


「どうしましたか、キャ……」


 樹里が言いかけたので、はるなはすかさず、


「私ははるなです、樹里さん」


と言いました。すると樹里は、


「キャンディが欲しいのですか?」


と意味不明な事を言いました。項垂れるはるなです。


「いえ、欲しくないです」


(本当は私をからかってるんでしょ、樹里ちゃん!?)


 心の中で号泣するはるなです。


 その時、樹里の携帯が鳴りました。


「はい」


 樹里ははるなから離れて話し始めます。


(何だろう?)


 気になるはるなは、こっそり話を聞こうと思って樹里に近づきます。


「はい、はい」


 樹里は真剣な表情で頷いています。何やら、深刻な話のようです。


 相手の声が聞き取れないので、はるなが更に樹里に近づくと、樹里は携帯を切りました。


「間違い電話でした」


 樹里に笑顔全開で言われ、唖然とするはるなです。


 


 その頃、すっかり不甲斐ないキャラになってしまった杉下左京は、いつものように事務所の机に突っ伏していました。


「暇だなあ。つまんないなあ」


 グウタラ所員の宮部ありさが言います。


 いつもなら怒り出す左京ですが、今日はそんな気力すらありません。


「ねえ、左京」


 急に色っぽい声でありさが言ったので、左京はビクッとして顔を上げます。


 ありさは妖艶な笑みを浮かべ、モンローウォークで左京に近づいて来ます。


「まだ日も高いけど、する?」


「な!?」


 ありさのトンデモ発言に驚愕する左京です。思わず机から離れます。


「ば、バカヤロウ、そんな事は暇だからするものじゃねえだろ! それに俺には妻がいるんだぞ!」


 左京は声を震わせてありさに言いました。ありさはキョトンとして、


「はあ? 何言ってるのよ、左京ったら。酒盛りは、奥さんいても問題ないでしょ?」


「え?」


 自分の早とちりに気づき、赤面する左京です。するとそれに気づいたありさが、


「あー、左京ってば、エッチな事考えてたでしょ?」


と嬉しそうに尋ねます。


「ち、違うよ!」


 左京は動揺しながらも否定しました。その時、左京の携帯が鳴ります。


 樹里からです。更に狼狽える左京です。


「はい!」


 直立不動で電話に出る左京です。


「はい、はい」


 まるで取引先からのクレームを聞いているような表情で返事をしています。


(樹里ちゃんに出産日離婚を言い渡されたのかしら?)


 妙に嬉しそうに左京を見るありさです。


「今日は早じまいだ。俺は出かけなければならない」


 左京は携帯をジーパンのポケットに入れると言いました。


「わーい、酒盛りィ!」


 ありさが喜ぶと、


「酒盛りはしない。樹里の親戚の人と会うんだよ」


「え?」


 ありさはギクッとしました。


「離婚の慰謝料を決めるの?」


 ありさの妄想が暴走しています。


「訳のわからない事を言うなよ。熱でもあるのか?」


 左京はありさがおかしくなったと思いました。ありさは元々おかしいですよ。


「何だと!?」


 ありさは地の文に切れました。


 


 左京は、意味不明なありさを事務所から追い出し、鍵を締めました。


(親戚が集まったから来て欲しいって、何だかドキドキするな)


 指定されたのは、某高級ホテルの広間です。


(一体何人集まってるんだ?)


 左京は一度アパートに戻り、礼服に着替えてホテルに向かいました。


 


 ホテルに着くと、左京はフロントの人に声をかけました。


「あの、杉下と言いますが、御徒町さんのお部屋はどちらですか?」


 するとフロントの人は何故か酷く驚いて、


「ああ、こちらでございます、杉下様」


と五人も連れ立って案内してくれます。


(どういう事だ、一体?)


 左京は怖くなって来ました。


「こちらです」


 五人のうちの一人が大きな観音開きの扉を開きました。


 中に入ってみると、千人は収容できる大広間です。


 そこに老若男女がたくさんいて、歓談していました。


「……」


 左京は唖然としました。


「あ、左京ちゃん、こっちこっち」


 少しせり出し始めたお腹をした義理の母親の由里が手招きします。居酒屋の店長も一緒です。


「ああ、お義母かあさん」


 知った人を見つけて、ホッとする左京です。


「お義母さんだなんて、やめてよ、左京ちゃん。由里って呼んで」


 妙に色っぽい声で言う由里です。左京は苦笑いして誤魔化しました。


「それから、この子が樹里の従妹いとこ鶯谷うぐいすだにみどりちゃん」


 由里が紹介してくれたのは、よく見ないと樹里と見分けがつかないほどよく似ている子です。


「初めまして、杉下さん。翠です。樹里お姉ちゃんの代理で居酒屋で働いています」


 翠は樹里と寸分違わぬ笑顔で挨拶しました。


「は、初めまして、翠さん」


 左京は狼狽えながら応じます。左京は以前居酒屋で翠を見かけたのをすっかり忘れています。


「で、こっちが樹里の従姉いとこの代々木つかさちゃんよ」


「初めまして、杉下さん。樹里ちゃんの代理で、新聞配達をしています」


 つかさも樹里と瓜二つで、笑顔全開です。だんだん怖くなる左京です。


「わーい、杉ちゃん、おひさー!」


 樹里の妹の真里まり希里きり絵里えりが左京に飛びつきます。


「おう、久しぶりだな。少し大きくなったか?」


「うん!」


 三人の妹達は、嬉しそうに左京にじゃれます。


「左京さんが困ってるでしょ、やめなさい」


 そこへ、最近左京が傾きかけていると噂の義理の姉の璃里が夫の竹之内一豊氏とやって来ました。


「誰が傾きかけてるんだよ!」


 左京が地の文の噂話に切れました。


「左京さん、申し訳ありません。お仕事中だったのに」


 そこへ樹里が大きなお腹をさすりながら現れました。左京は複雑な表情で、


「いや、平気だよ、樹里。それにしても、親戚、多いな」


「はい。全国に一万人くらいいますよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「い、一万人?」


 左京は仰天して周囲を見渡します。


 女性は全員樹里とそっくりで、男性は皆違う顔をしています。


(父親のDNAは受け継がれないのか? しかも、子供は全員女の子だ……)


 恐るべし、御徒町一族。日本最強かも知れません。


 


 めでたし、めでたし。

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