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樹里ちゃん、赤城はるなに仕事を引き継ぐ

 御徒町樹里は、日本で五本の指に入る大企業の代表である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 出産予定日である九月十二日まで一ヶ月を切ったので、樹里はメイドの仕事を見習いメイドの赤城はるなに引き継ぐように五反田氏に言われました。


「御徒町さん、無理しないようにね」


 五反田氏が会社に出かける前に樹里に言いました。


「ありがとうございます、旦那様」


 樹里は深々とお辞儀をします。


「樹里さん、そんなに頭を下げたら倒れてしまうわよ」


 五反田氏の奥さんの澄子さんが言います。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じます。


「麻耶も、自分でできる事は樹里さんに頼らないようにしてね」


 澄子さんは一人娘の麻耶に言います。麻耶は大きく頷き、


「もちろんよ。私はもう四年生よ。何でも自分でできなくちゃ。有栖川先生にもそう言われているし」


「偉いわ、麻耶」


 澄子さんは麻耶を優しく抱きしめました。


「ありがとうございます、奥様、お嬢様」


 樹里はまた深々とお辞儀をしました。


「だから、それが危ないのよ、樹里さん」


 また慌てる澄子さんです。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 


 やがて樹里はキッチンに行き、はるなに料理の引き継ぎをします。


「カロリーと栄養のバランス、並びにご家族の皆様の好みを全て把握して、一週間の献立を決めてください」


 樹里は笑顔全開で言います。


「はい」


 はるなは真剣な表情でメモを取っています。


「食材の購入先のリストはここに書かれています。定休日を正確に覚えて、購入サイクルを組み立ててください」


 樹里は更に笑顔全開でファイルを渡します。


「樹里さんが今まで組んで来た献立を参考にしたいので、見せていただけませんか?」


 はるなが言いました。すると樹里は笑顔全開で、


「それはできません」


「ええ!? そんな意地悪言わないでくださいよ、樹里さん」


 はるなは思ってもみない樹里の言葉に驚愕しました。


「献立を書いたものはありません」


 樹里はそれでも笑顔全開です。はるなは訳がわからなくなりそうです。


「全部捨てちゃったんですか?」


 泣きそうな顔で尋ねるはるなです。樹里は、


「違いますよ。書いた事がないんです」


「え?」


 はるなは更に驚愕しました。


(献立を全部頭の中だけで組み立てていたの、樹里ちゃん?)


 尊敬の眼差しで樹里を見つめるはるなです。


「私にはとても無理なので、これに書いてください」


 はるなはメモ帳を樹里に手渡しました。


「いいですよ」


 樹里は笑顔全開でサラサラと献立を書き込みます。


「げ」


 はるなは顎が外れそうなくらい驚きました。


 一週間の献立は、全部で百品以上です。さすが、五反田邸です。


(でも、ご家族は三人しかいないのよね?)


「一食五品、一日三回、それを七日間ですから、それくらいにはなりますよ」


 樹里が言いました。それだけ必要な五反田家もすごいですが、それを記憶している樹里も尋常ではない記憶力です。


(それにしては、私の名前をなかなか覚えてくれなかった……)


 何となく悲しくなるはるなです。


「そう言えば、料理も全部樹里さんが作っていたんですか?」


「はい」


 はるなは怖くなって来ました。


「私に務まるでしょうか? 不安になって来ました」


「大丈夫ですよ。私も一人でこなしていましたから」


 樹里は案外あっさりと厳しい事を言います。


「それはそうなんですけど……」


 はるなはますます不安になって来ました。


「私が手伝いましょう。栄養学は専門ですから」


 そこへ出番が少ない女医の黒川くろかわ真理沙まりさがやって来て言いました。


「……」


 気にしている事を言う地の文に落ち込む真理沙です。


「ありがとうございます、真理沙さん!」


 はるなは大喜びしました。


「良かったですね、キャ……」


 樹里が言いかけると、


「私ははるなです、樹里さん!」


 はるなは素早く突っ込みました。


「キャビアもありますから、たくさん使ってくださいね」


 はるなはスッテンとコケました。唖然としている真理沙です。


「じゃあ、私も手伝おうかしら?」


 麻耶の家庭教師の有栖川倫子が現れて言いました。するとはるなと真理沙が、


「ご遠慮ください」


と口を揃えて言いました。


「何でよ!?」


 ムッとする倫子です。実は怪盗ドロントの倫子は、料理が下手なのです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


 


 こうして、はるなは樹里からの様々な引き継ぎを終えていきました。


「はるなさんも、私がいなくてももう安心ですね」


 樹里がそう言うと、はるなは涙ぐんでしまいます。


「早く戻って来てくださいね、樹里さん。寂しいですから」


「寂しくないですよ、はるなさん。ヌー……」


 樹里が言いかけます。


「私は真理沙です、樹里さん」


 真理沙が慌てて言います。


「ヌーの大移動のDVDを観て元気を出してください」


 樹里ははるなにDVDのセットを渡しました。


 スルンと滑って転ぶ真理沙と倫子です。


 


 めでたし、めでたし。

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