樹里ちゃん、あの美少女とコラボする?
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里は五反田氏と共にG県を訪れ、偶然にも出くわした殺人事件を解決しました。
その時現場に来ていたG県警の鑑識課員の一人が、樹里にサインをもらいました。
「妹が貴女の大ファンなんです」
その鑑識課員は若くてイケメンだったので、一緒にいた夫の杉下左京は酷く動揺しました。
(あの男、妹にかこつけて樹里に近づくつもりじゃないだろうな?)
そんな時までヘボ探偵の左京です。
「誰がヘボ探偵だ!」
左京は地の文に切れました。
「折角だから、二人で観光でもして行きなさい」
五反田氏の粋な計らいで、左京と樹里はG県観光をする事になりました。
しかも、五反田氏は左京に五万円渡したのです。
「君の奥さんのお陰で私は心置きなく仕事ができる。これで美味しいものを食べて、服でも買ってあげなさい」
五反田氏の優しさに左京は泣いてしまいました。
「ありがとうございます」
しかも、五反田氏は、お金を渡した事を樹里には内緒にするようにと言ってくれました。
(一生ついて行きます)
左京は心の中で思いました。
一生ついて来られても、五反田氏も迷惑でしょうけど。
「行こうか、樹里」
「はい、左京さん」
二人はT駅でR毛線に乗り換え、県庁所在地のM市に行きました。
「懐かしいな、この風景」
左京は、M署の副署長時代を思い出しました。
そして、樹里が妹達と警察の寮に来た事も思い出しました。
危うく鼻血を垂らしそうです。(樹里達がお風呂に入った事も思い出したようです)
二人は新M駅で降り、タクシーでG県名物の焼きまんじゅうの名店に行きました。
「いい匂いだなあ」
左京は妊娠している樹里をエスコートして、お店に入ります。
するとそこには中学生らしき子供達がいました。
「おお!」
そのうちの男子達が、樹里を見て鼻の下を伸ばします。
(どうだ!)
何故かドヤ顔の左京です。
「江原耕司君、後でお話があります」
彼女らしい女の子が、鼻の下が一番伸びている男の子に言いました。
「可愛いですね、あの子達」
樹里が言いました。
「あの男共、樹里を見てヘラヘラしてたんだぞ」
左京は呆れ気味に言います。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で言いました。
「い!」
すると何故かさっき男の子に怒っていた女の子が叫び声をあげました。
「変な子だな」
左京は焼きまんじゅうにかぶりつきながら言います。その時です。
「おお!」
お店に「ボン、キュッ、ボン」と音がしそうなスタイルの女性が入って来ました。
黒のスカートスーツを着て、黒縁眼鏡をかけていて、利発そうな顔をしています。
「あ!」
鼻の下を伸ばしかけた左京はハッとして樹里を見ます。
「はい、左京さん」
樹里は焼きまんじゅうを取り分けていたようで、気づいていません。
「お、おう」
樹里に「アーン」をしてもらい、左京は至福の一時です。
「あの人、子供みたい」
左京は、中学生達がヒソヒソ話しながら、自分を笑っているのに気づいていません。
「遅れちゃったな」
そこに、何とあのイケメン鑑識課員とベテラン鑑識課員が現れました。
「遅いよ、お兄ちゃん! 私達、お金持ってないんだからね」
さっきの変な女の子が言います。
「え?」
左京は女の子の言葉にハッとしました。
(そうか、あの変な子が、あの鑑識課員の妹なのか)
「あ!」
すると、イケメン鑑識課員も樹里達に気づきました。
「奇遇ですね、御徒町さん。お父さんとご旅行ですか?」
イケメン課員の心ない一言が左京を切れさせます。
「誰がお父さんだ!」
すると樹里は笑顔全開で、
「いえ、左京さんは夫です」
「夫?」
イケメン課員は一瞬、眩暈を起こしたようです。しかし、すぐに立ち直り、
「おい、まどか、この女性がお前の大好きな御徒町樹里さんだぞ」
と言いました。
「ええ!?」
まどかと呼ばれた女の子ばかりでなく、そこにいた中学生全員が驚愕したようです。
そして、しばらく樹里はサイン攻めです。
実は、樹里はネットユーザーには超有名なのです。本人は全く知りませんが。
しかし、どうした事か、イケメン課員の妹は、気絶してしまいました。
「すみません、好き過ぎて気を失ったようです」
イケメン課員が頭を掻きながら言います。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「樹里さん、オーラが凄いですね。私のお師匠様よりレベルが上かも知れません」
黒縁眼鏡の女性が言いました。
「そうなんですか」
樹里はその女性にも笑顔全開です。
「今度、お手合わせをお願いします」
黒縁眼鏡の女性が言いました。
「いいですよ」
樹里は何の事なのかよくわからないまま、返事をしました。
「是非、立ち合わせてください」
イケメン課員以下、そこにいた男子中学生が真剣な顔で懇願します。
「あんた達、いい加減にしなさいよ!」
気絶したイケメン課員の妹を看ていた女子が呆れ顔で言いました。
ベテラン課員は、気絶している子をジッと見ています。ちょっと危ない目です。
「全く、男って奴は……」
もう一人の女の子も軽蔑の眼差しで男子を見ています。
樹里は眼鏡の女性から名刺をもらい、お店を出ました。
「小松崎瑠希弥さんか」
思わず覗き込んで確認してしまう左京です。
「左京さん」
樹里が言うと、
「はい!」
左京はビクッとして直立不動になります。
「焼きまんじゅう、また食べに来たいですね。今度は、私達の子供と一緒に」
樹里の眩しいくらいの笑顔に、左京は自分の邪さを反省しました。
めでたし、めでたし。