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樹里ちゃん、殺人事件に巻き込まれる G県編(前編)

 御徒町樹里は世界進出もしている大富豪の五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 五反田氏に連れられて、G県のT市に来ています。


 ですから、樹里は黒のゆったりしたパンツスーツです。いつものメイド服ではありません。恐らく、マタニティ仕様です。


 今日は、G県の家電量販店の買収が目的です。


「どうして私が同行するのですか?」


 樹里は出発前に五反田氏に尋ねました。


「先方の最高責任者のご指名なのだよ。申し訳ないね」


 五反田氏は呆れ気味に言いました。


「とんでもないです。光栄です」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 やがて、二人の乗る新幹線はT駅に着きました。


 相手先企業のCEOセオではありません富田林とんだばやし氏が出迎えてくれました。


「遠いところをようこそ」


 富田林氏が笑顔で言います。


「ここへ、クッククック」


 どこかで鳥が鳴いたようです。


 でも、樹里達は気にせずにホームから立ち去ります。


「樹里……」


 実は、樹里が「浮気」をするのではないかととんでもない事を妄想した不甲斐ない夫の杉下左京がこっそりつけて来たのです。


 仕事があまりにもないため、最近妄想が激しい左京です。


「ああ!」


 左京は慌てて樹里達を追いかけます。


 樹里達は駅前に乗りつけられたリムジンに乗り、行ってしまいます。


「わわ!」


 左京は、推理ドラマのようにタクシーを拾おうとしますが、生憎あいにくタクシーはどこにもいません。


「ううう……」


 項垂れる左京です。


 


 そんな事は全然知らない樹里は、T市中心部からやや離れたところにある富田林氏の邸宅に着いていました。


「狭いところですが、お寛ぎください」


 富田林氏は、謙遜のつもりで言いましたが、


「そうなんですか」


と樹里にあっさり流され、ピクンとします。


(くそう、五反田邸は東京ドーム三個分と聞いた。付き人に鼻で笑われたか)


 妄想が左京並みの富田林氏です。


 五反田氏と樹里は、応接間に通されました。


 絶対王政の頃を思わせる大きくて豪勢なシャンデリアが高い天井から下がっています。


「こちらでお待ちください。すぐに書類をご用意致します」


 五反田氏は白い革張りのソファに座ります。


「御徒町さんも座りなさい。今日は君が主役なのだから」


 五反田氏が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔で応じ、五反田氏の向かいに座ります。


 


 富田林氏は、怖い事を考えていました。


(五反田の知恵袋は、あの女だという情報だ。あの女を亡き者にすれば、五反田グループは傾く)


 富田林氏は、五反田グループとの合併に反対なのです。


 取締役会で決定した事なので、仕方なく従っています。


 富田林氏は、婿養子なので、妻の真実まみに頭が上がらず、真実の言うがままなのです。


 だから、今回の合併話を失敗させ、真実を失脚させるつもりです。


 しかし、そうは問屋が卸さないのでした。古くてすみません。


 


 五反田氏は、いつまで経っても富田林氏が戻って来ないので、


「どうしたのだ?」


と立ち上がり、彼の携帯に電話しました。しかし、電源が切られているようです。


「何のつもりだ?」


 普段は冷静な五反田氏ですが、樹里まで連れて来させてのこの応対に我慢の限界のようです。


 その時です。


 ドアが勢いよく開かれ、富田林邸のメイドが飛び込んで来ました。


「旦那様が、旦那様が!」


 血相を変えて叫ぶメイドを見て、五反田氏は、


「どうしたんだ? 何があったのかね?」


と尋ねますが、メイドは泣きじゃくり始めてしまい、どうしようもありません。


「こっちですね」


 突然、樹里が動きます。


「御徒町さん?」


 五反田氏はビックリして、樹里の後を追います。メイドは泣いたままです。


 


 樹里が辿り着いたのは、奥にある富田林氏の書斎でした。


 ドアは開けられたままです。密室ではありません。


「うお!」


 五反田氏が中を覗くと、富田林氏が頭から血を流して死んでいました。


「あ、御徒町さん」


 スイスイと部屋の中に入ってしまう樹里に驚き、五反田氏は止めようとしましたが、ダメでした。


「後頭部に一撃。でも、即死ではなかったようですね」


 樹里が言います。富田林氏はメモ帳に何かを書き遺していたのです。


(いつもの御徒町さんじゃない)


 五反田氏はドキッとしました。


「旦那様、警察に通報してください」


 樹里が言いました。


「わかった」


 五反田氏は慌てて携帯をスーツのポケットから取り出し、110番にかけました。


 


 程なく、G県警から刑事と鑑識が到着し、富田林邸は騒然とします。


「貴方……」


 夫の変わり果てた姿を見て、崩れ落ちるようにしゃがみ込む真実です。


「会長……」


 雇い主の死を呆然として見る秘書のはざまはじめ


「トンちゃん!」


 そこに場違いなキンキラキンの派手な服装の若い女性が現れました。


「貴女は!」


 真実がその女性を見て鬼の形相になります。


「よくもノコノコと!」


 今にも掴みかからんばかりの真実を刑事の一人が止めます。


「こちらに来る予定だったと伺ったので、我々が呼びました」


「何ですって!?」


 真実はまた女性を睨みます。


三谷みたに朋美ともみさんですね?」


 刑事の問いかけに、泣きながら頷く朋美です。


「あれ?」


 鑑識の中の若いイケメン風の男の人が、樹里を見ます。


「何でしょう?」


 この深刻な場面でも、笑顔全開の樹里です。


「もしかして、御徒町樹里さんですか?」


 鑑識課員が尋ねます。


「そうです」


 樹里は更に笑顔全開で応じます。殺人現場で不謹慎です。


「おい、箕輪、何してるんだ?」


 上司らしき年配の鑑識課員に咎められ、


「あ、すみません」


とその若い鑑識課員は行ってしまいました。


「さてと」


 刑事が咳払いをして話し始めます。


「富田林氏が、死の直前、書き遺した奇妙な言葉です。意味がわかる方、いらっしゃいますか?」


 刑事が掲げてみせたメモ帳には、


「鏡の国でも同じ顔」


と殴り書きされていました。


「ダイビングメッセージですね」


 突然現れた左京がボケをかまし、一同に白い目で見られます。樹里を除いて。


「左京さん!」


 樹里がその日で一番の笑顔を見せました。


 


 後編があるようです。すみません。

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