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樹里ちゃん、仲裁する

 御徒町樹里は日本の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 先日、怪盗ドロントが五反田邸にやって来ました。


 ドロントは五反田氏の一人娘の麻耶の家庭教師。


 部下のヌートは五反田邸住み込みの医師。


 同じく部下のキャビーは見習いメイド。


 会うなり三人の変装を見破ったらしい樹里なのですが、ドロントの全力の否定であっさり追及をやめました。


 そして、今日も庭掃除をする樹里です。


「御徒町さん」


 警備員さんが声をかけます。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で挨拶します。


 警備員さんはその笑顔に思わず顔を赤らめ、


「気になる事があります」


「りんごですか?」


 樹里が尋ねます。警備員さんは項垂れて、


「そうじゃありません」


 気を取り直して話を進めます。


「先日来た三人の女性なのですが、怪盗ドロント一味ではないですか?」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「三人の体格や声、様々な情報を元にして分析した結果、本人である確率が七十七%でした」


 警備員さんは声をひそめて言います。


「おはようございます」


 そこに噂の女性の一人である赤城はるなこと、キャビーが現れました。


 彼女も樹里とお揃いのメイド服です。


 居酒屋の店長が見たら、鼻血を垂らしそうです。


「樹里さん、お手伝いする事はありませんか?」


「はい、ありますよ、キャビーさん」


 ギョッとする警備員さんとキャビーです。


「あはは、いい加減覚えてくださいよ、樹里さん。私は赤城はるなですってば」


「そうなんですか。申し訳ありません、キャビーさん」


 項垂れるキャビー、キャビーを睨む警備員さんです。


「えっと、お手伝いする事は何でしょうか?」


 キャビーは樹里を引き摺るようにして警備員さんから離れます。


「勘弁してくださいよ、樹里さん。私、怪盗とは関係ないんですから」


 キャビーは小声で言いました。


「そうなんですか」


 樹里は相変わらず笑顔全開です。


 


 その頃、久しぶりに登場した杉下左京の事務所での出来事です。


「今日も依頼がないの?」


 グウタラ所員の宮部ありさが言います。


「ない」


 机に突っ伏したままで答える左京です。


 すると突然、誰かが事務所に入って来ました。


「え? 樹里?」


 突っ伏していたために目が良く見えない左京が呟きます。


「違うわよ、左京ちゃん。元婚約者の由里よん」


 左京はその言葉にビクッとします。ありさは唖然としたままです。


「聞いてよ、左京ちゃん」


 由里は左京ににじり寄ります。


「ちょ、お義母かあさん!」


 左京は慌てて由里を突き放しました。


「とにかく、かけてください。お話を伺いますので」


 左京はソファに移ります。


「はいはい」


 由里は左京の隣に座ります。


「近いです」


 左京は由里の肩を掴んで押し戻します。


「照れ屋さんね、左京ちゃんてば」


 妙にテンションが高い由里です。


「お義母さんも妊娠されてるんですから、そういう冗談は控えてくださいよ」


「わかったわよ」


 口を尖らせて、向かいのソファに移動する由里です。


 左京はチラッとありさを見てから、


「何があったんですか?」


「あいつが、浮気しそうなのよ」


 由里は急に深刻な話題を振って来ました。左京はギクッとします。


 「浮気」は、左京にもきつい言葉です。


(お、俺のは浮気じゃない。あれは事故だ)


 先日の、キャバクラでのあかぎれんとのキスを「事故扱い」する左京です。


「私が知らないうちに三人も新規でバイトを採用したのよ。それもみんな若い子ばかりで」


 由里から見ると、ドロントも「若い子」のようです。


「その中の一人で、えーと、あかぎ何とかっていう子に、あいつが上せちゃって……」


 由里はよよと泣き崩れますが、左京はそれどころではありません。


(あかぎ何とか? まさか!?)


 嫌な汗が噴き出す左京です。


「どうしたの、左京? 顔色悪いよ?」


 ありさが心配そうな顔で言います。


「え、いや、そんな事はないよ、宮部君」


 名字で呼ばれた事が今まで一度もないありさは、左京の動揺の程度を知りました。


「あいつの目を覚まして欲しいのよ、左京ちゃん」


 由里はすがるような目で左京を見ました。


「わかりました。今晩、お店にお伺いします」


 左京は意を決しました。


(店長の事もそうだが、俺の事も解決しないと)


 彼は樹里のためにもアヤフヤはいけないと判断したのです。


 


 一方、樹里は従妹の鶯谷うぐいすだにみどりからの電話を受けていました。


「樹里お姉ちゃん、今困ってるの。由里叔母さんと店長がギクシャクしちゃって」


「わかりました。今晩お店に行きます」


 樹里は言いました。


「ありがとう、お姉ちゃん。二人を仲直りさせてね」


 翠はそう言って電話を切りました。


 


 そして、夜です。


 昼間から暇だった左京は、日が落ちるとすぐに居酒屋に向かいます。


「どうしてお前が一緒なんだよ?」


 勝手について来たありさを睨む左京です。


「いいじゃん、たまには。私も生中飲みたいのよ」


 嬉しそうに言うありさです。


「飲み会じゃねえんだぞ!」


 左京はムッとしました。


 やがて二人は居酒屋に到着しました。


「こっちこっち」


 由里が奥から呼びます。左京とありさは個室に通されました。


「じゃあ、取り敢えず生中二つ」


 ありさがおしぼりで手を拭きながら言います。左京がたしなめようとすると、


「いいのよ、左京ちゃん。その方が。あいつには内緒だから、お客のフリして」


「そうですか」


 左京は仕方なく席に着きます。


「ふう、あつう」


 そう言いながら顔と首筋とわきまでおしぼりで拭くありさを唖然として見る左京です。


「こちらへどうぞ」


 すると、左京達の個室の前を翠が横切ります。ギクッとする左京です。


(樹里?)


 その後から現れる樹里です。


(璃里さん?)


 もう意味不明になっている左京です。


「あ、左京さん」


 樹里が左京に気づきます。


「ありささんとデートですか?」


 あっさり冗談に聞こえない事を言う樹里です。


「ち、違うよ。今日は由里さんに呼ばれてさ……」


 左京は慌てて言い訳しますが、


「お母さんとデートなんですか?」


 樹里が目を見開きます。


「だからデートから離れてくれ!」


 左京は項垂れました。


「そうなんですか」


 樹里は翠に促され、別の個室に行ったようです。


「はい、生中お二つです……」


 そこに従業員の服を着たキャビーが現れ、左京に気づいてビクッとします。


「うん?」


 左京がキャビーを見つめます。焦るキャビーです。


「あ、あの、何か?」


 キャビーはどう言い訳をしようかと考え、尋ねます。


「ああ、君があかぎさんなの?」


 左京はキャビーのネームプレートを見ていたようです。


「え? あ、はい、そうですけど」


 左京の言葉の意味が理解できないキャビーでしたが、どうやら正体を見破られたのではなさそうです。


「君、店長に何かされたの?」


 いきなり核心に踏み込む左京です。キャビーは内心ホッとして、


「はい。セクハラ店長なんですう。困ってるんですう」


と言いました。


「なるほど。そうか、わかった。お兄さんに任せなさい」


 左京が言うと、


「お兄さん?」


 ありさとキャビーが見事にハモって突っ込みます。


 左京は店長にこってり説教をするつもりです。


(店長の相手があかぎ恋じゃなくて良かった)


 ホッとしている左京です。するとそこへ、入れ替りに由里がやって来ました。


「ごめーん、左京ちゃん。折角来てもらったのに、用すんじゃった」


「え?」


 キョトンとする左京です。


「樹里があいつと話して、万事解決よん」


 何故か最後にウインクする由里です。左京は唖然としました。


(樹里もその件で来ていたのか……)


 しばらく項垂れる左京です。


 そして、知らないうちにたくさん注文していたありさが、既に全部食べて逃亡したのに気づきました。


 


 めでたし、めでたし。

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