樹里ちゃん、またしてもドロントと再会する
御徒町樹里はありがたい経典を授かるために西を目指しています。
って、間違えました。
御徒町樹里は、日本のみならず世界を股にかけて成長を続ける五反田グループの総帥である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
先日、少し具合が悪くなった樹里ですが、寝て起きたら元気になりました。
今日も大きな庭の掃除から始める樹里です。
「おはようございます」
樹里は警備員さん達に挨拶して掃除をします。
「あ」
樹里がお腹を押さえて立ち止まります。
「どうしましたか、御徒町さん?」
警備員さん達が一斉に樹里に駆け寄ります。
「赤ちゃんが動きました」
樹里は笑顔全開で言いました。
「そうなんですか」
ホッとする警備員さん達です。
その頃です。
いつもなら、不甲斐ない夫の杉下左京の事務所ですが、今日は違う展開です。
作者もたまには別のお話を考えつくようです(余計なお世話です 作者)
警視庁ドロント特捜班に新しい動きがありました。
特捜班は増員され、今では総勢五十名です。皆イケメンなのは班長の指示のようです。
特捜班の精鋭である平井拓司警部補が指揮して、怪盗ドロントのアジトを捜索していました。
そして、八王子市のはずれにあるドロントの隠れ家を突き止めました。
その報告を受けたイケメン大好き班長の神戸蘭はフッと笑いました。
「そう。遂にあのおばさんも年貢の納め時ね」
おばさんがおばさんをおばさん呼ばわりです。
「うるさいわね!」
地の文に突っ込む蘭です。さすがベテラン、切れが違います。
「ドロントのアジトを包囲し、逃げ場をなくして踏み込めば、一網打尽です」
平井警部補がニヤリとして言いました。
「そうね」
平井警部補にメロメロなおばさん警部が言います。
「誰がおばさん警部だ!」
蘭が切れました。思わず蘭を指差しそうになる捜査員一同です。
そして、ここはドロントのアジトです。
八王子の山奥にあります。
「警視庁にここがばれたですって?」
ドロントは革張りのソファに寝そべっていましたが、部下のヌートからの報告を受けて起き上がりました。
「はい。平井拓司警部補が陣頭指揮を執り、突き止めたようです」
ヌートが深刻な顔で言います。
「じゃあ、ここを引き払って、渋谷に移りましょうよ、首領」
呑気な部下のキャビーが提案します。
「ダメよ。ここを突き止めたという事は、渋谷も、亀戸も、神保町も、聖蹟桜ヶ丘もみんな知られてしまっているわ」
ドロントが真顔で言いました。ヌートとキャビーは顔を見合わせます。
世界を股にかけて活動している割には、隠れ家は東京ばかりのドロントです。
「つまらない事を指摘しないでよ!」
地の文に突っ込むドロントです。
「仕方ないわね。最後の手段に出ましょうか」
ドロントは立ち上がりました。
「夢の島のアジトに行きますか?」
キャビーが尋ねます。
「それじゃ丸っ切りのパクリでしょ!」
昭和のアニメに妙に詳しいドロント一味です。
「では、どうするのですか?」
真面目担当のヌートが尋ねました。
「あの人に助けてもらうのよ」
「え?」
キョトンとするヌートとキャビーです。
ドロントは何故かキャビーを見てニヤリとします。
「な、何ですか、首領?」
嫌な予感がバリバリするキャビーです。
そして、その夜です。
ここは、居酒屋です。
以前、樹里、璃里、由里のローテーションで働いていたところです。
でも決してA○Bではありません。
今は樹里の従妹の鴬谷翠が働いています。
そこに女子高生ルックのキャビーが現れました。
でも何故か表情が暗いです。
「いらっしゃいませ」
翠が樹里と寸分違わない笑顔で挨拶します。
「バイトを募集してるって聞いて来ました」
キャビーは精一杯の作り笑顔で言います。
「そうなんですか」
口癖まで完璧な翠です。
彼女が樹里ではない事を見抜いた人はほとんどいません。
そうです。店長は翠を樹里として働かせているのです。
時給を倍にして。
「樹里ちゃんはいないの?」
あっさり見破るキャビーに、ビックリする翠です。
慌てて店長のところに連れて行きます。
「あ!」
店長はすぐにキャビーの顔に気づき、
「感激です。会いたかった」
と言い、握手して来ます。
振り払いたいキャビーですが、ドロントに叱られるので我慢します。
「採用です」
面接もなく、いきなりバイト決定のキャビーです。
「それで、お願いがあるのですが」
キャビーはやんわりと店長の手を振り解きます。
「何ですか?」
店長が笑顔で尋ねます。顔が近いです。口が臭いです。
「私の知り合いもバイトさせて欲しいのですが」
キャビーは後退りながら言いました。
「構いませんよ」
店長は即答しました。唖然とするキャビーです。
「よろしくお願いします」
そこに現れたのは、ドロントとヌートでした。
二人には女子高生は無理なので(本当は無理なのはドロントだけですが)、OLルックです。
「何か悪口言われた気がする」
ドロントが呟きます。
「ああ、何だ、お姉さんとお母さんもご一緒でしたか」
店長が思わず言ってしまいます。
「誰がお母さんだ!」
ドロントは切れました。
こうして、ドロント一味はまんまとバイトに採用されました。
めでたし、めでたし。
って、そうじゃないです。まだ続きます。
翌日の事です。
五反田氏は樹里が出勤するのを待っていました。
「今日は紹介したい人達がいるんだ、御徒町さん」
五反田氏は言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開です。
そこに現れたのは、ドロントとヌートとキャビーです。
もちろん、五反田氏はそれを知りません。
「新たに我が家で働いてもらう事になった」
五反田氏はドロントを紹介します。
「麻耶の家庭教師の有栖川倫子さん」
「よろしく」
ドロントはニコッとしてお辞儀をします。
次にヌートを紹介します。
「世界的な名医の黒川真理沙さん」
「よろしく」
ヌートも笑顔でお辞儀をします。
最後にキャビーを紹介します。
「そして、見習いメイドの赤城はるなさんだ」
「よろしく」
ちょっと引きつった笑顔のキャビーです。
「御徒町さん、よろしく頼むよ」
五反田氏はそう言って出かけました。
樹里は三人を各自の部屋へと案内します。
玄関に向かいながら、樹里が言います。
「お久しぶりですね、ドロントさん」
ギクッとするドロント達です。
「な、何を言ってるんですか? 私達はそんな名前ではありませんよ」
ドロントが冷や汗を掻きながら言います。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
そして、八王子のドロントの隠れ家に踏み込んだ蘭達は、蛻の殻なのに仰天します。
「情報が漏れてる?」
蘭はそう呟きます。平井警部補は眉間に皺を寄せて考え込んでいます。
「この話、そんなに真剣勝負とは聞いていなかった」
思わず本音を漏らす平井警部補です。
結局、左京は出て来ないで終わるのでした。
めでたし、めでたし。