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樹里ちゃん、亀島馨と久しぶりに会う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 現在妊娠六ヶ月ですが、仕事をバリバリこなしています。


「御徒町さん、赤ちゃんは順調ですか?]


 五反田邸の警備員さんが尋ねました。


「はい。よく動きますよ。触ってみますか?」


 樹里は笑顔全開でお腹を突き出します。


「ええ、ああ、いやいや、それはまずいですよ」


 警備員さんは顔を真っ赤にして持ち場に駆け去りました。


「そうなんですか」


 寂しそうな樹里です。


 その時でした。


「樹里さん」


 どこからか声が聞こえました。


「はい」


 樹里は笑顔で返事をしますが、声の主はどこにいるのかわかりません。


「樹里さん、ここです、ここ」


 ふと声がする方を見ると、邸の門のところにもずくが貼りついています。


「誰がもずくだ!」


 もずくは切れました。


「だからもずくじゃないって!」


 よく見ると人間のようです。


 服は汚れてボロボロ、髪は伸び放題、髭もモジャモジャで、無人島から助けられたもずくみたいです。


「だからもずくから離れろ!」


 もずくは言いました。


「その声は、亀島さんですか?」


 樹里が尋ねます。何と、もずくは亀島に化けていました。


「違うって……」


 亀島が落ち込んだので、この辺で止めますね。


「どうしましたか、御徒町さん?」


 警備員さん達がドヤドヤと走って来ました。


 あからさまに怪しい姿の亀島はピンチです。


 樹里は笑顔全開で、


「大丈夫です。私のお友達です」


「そうなんですか」


 警備員さん達は声を揃えて言いました。


 


 樹里は亀島を邸に入れ、お風呂を沸かしてあげました。


 亀島は何ヶ月ぶりかの入浴だったので、嬉しくて泣いてしまいました。


 髪を後ろに撫でつけてゴムで止め、髭を剃り、バスローブを着ると、ようやく亀島の復活です。


「樹里さん、ありがとうございました」


 亀島はその場で土下座します。


「亀島さんには、以前助けてもらいましたから」


 樹里は夫の杉下左京と亀島に、自分が殺人犯にされそうになったのを救ってもらった事をしっかり覚えているのです。


「樹里さん……」


 亀島は号泣しました。


「こちらへどうぞ」


 樹里は亀島に食事をさせるためにキッチンに案内します。


「あれ?」


 亀島は樹里の歩き方が以前と違うのに気づきます。


「樹里さん、足を怪我したのですか?」


 何も知らない亀島は尋ねました。


「赤ちゃんができたんです」


 樹里は笑顔全開で言いました。


 亀島は樹里が火星より遠くに行ってしまった気がしました。


(杉下さんとの子供か? ああ……)


 あわよくば、杉下を陥れて樹里と結婚しようと企んでいた亀島のささやかな野望は露と消えました。


 なにわの事と同じです(全然レベルが違います  作者)。


 しかし、何とか左京に一矢いっし報いたい亀島は、只一つ持っていた財産であるデジタルカメラを樹里に差し出します。


「そこに杉下さんの正体が写っています」


 亀島は真顔で言いました。樹里はキョトンとして、


「そうなんですか」


とデジカメを受け取り、そのままメイド服のポケットにしまってしまいます。


 樹里はスタスタと歩き出し、キッチンに行ってしまいます。


「えええ?」


 置いてきぼりを食わされる亀島です。


 彼は慌てて樹里を追いかけました。


「ああ、いやいや、見て下さいよ、樹里さん」


「操作がわかりません」


 樹里が機械音痴なのを思い出す亀島です。


 そして亀島は樹里に見せたい画像を表示すると、樹里に渡しました。


「ほら、これです。杉下さんが、キャバクラで女の子とキスしてます」


 亀島は、万引きをしてからずっと逃亡生活を続けていましたが、あの日偶然、左京がキャバクラに入るのを見かけたのです。


 怪盗ドロント仕込の侵入術でキャバクラの天井裏に忍び込んだ亀島は、左京の盗撮に成功したのです。


(さすがの樹里さんも、これには怒るだろう)


 亀島は樹里の激怒する様子を楽しみにして、彼女を見ました。


 しかし、樹里はそれを見ても無反応で、またポケットにしまってしまいました。


「え?」


 亀島は唖然とします。


(しくじったのか、俺?)


 樹里はスタスタと廊下を歩き、掃除道具を片づけると、今度は玄関に向かいます。


「樹里さん?」


 亀島は樹里を追いかけました。


 樹里は携帯を取り出し、五反田氏に連絡しました。


「旦那様、大変申し訳ありませんが、今日は早上がりさせて下さい」


 樹里の突然の申し出に五反田氏は驚いたようですが、


「大丈夫ですから」


 樹里は言い、携帯を切ってポケットに戻します。


 亀島はニヤリとします。


(樹里さんが怒ってる。これで杉下さんとはおしまいだ)


 どこまでも姑息なもずくです。


「だからもずくじゃねえよ!」


 亀島は地の文に突っ込みました。


「亀島さん、これにお召し替えになって下さい」


 樹里がスーツ一式を亀島に渡します。


「え?」


 樹里は真顔で亀島を見ます。


「亀島さん、このまま警察に行きましょう」


「ええええ!?」


 亀島は仰天しました。そして、とり返しがつかない事をしてしまったのに気づきました。


「さあ」


 樹里が亀島の手を取ります。


 亀島が震えながら樹里を見ると、樹里は優しく微笑んでいました。


「罪を償って下さい、亀島さん。今のままでは、貴方はダメになってしまいますよ」


 樹里は亀島の盗撮に気づいたようです。


 樹里はもう一度携帯を取り出し、どこかにかけます。


「左京さんですか? ダメですよ、キャバクラになんか行ったら。今度から気をつけて下さい。たまたまそれを知ったのが私だから良かったのですよ」


 左京は必死に言い訳しているようです。


「はいはい、わかりました。では」


 樹里の物言いが妙なので、亀島は呆然とします。


「亀島さん、先ほど樹里は帰宅しました。ちょっと調子が悪いみたいなんです」


 「樹里」が言います。亀島はかつての「御徒町ワールド」を思い出しました。


「私は樹里の姉の璃里です」


 御徒町一族、恐るべし! 亀島は戦慄し、今度こそ罪を償う決意を固めました。


 


 めでたし、めでたし。

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