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樹里ちゃん、衝撃を受ける?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も、それほど目立たないお腹を気にする事なく、大きな庭の掃除と、広大な邸の掃除をこなします。


 そんな時、樹里の携帯が鳴ります。


 相手は母親の由里です。


「どうしたのでしょう」


 由里は、最近、樹里の代わりに居酒屋で働いています。


 それが縁で、今では店長といい感じなのです。


 でも、由里は完全に夜型生活になっているので、早朝に連絡をくれるのはまれです。


「はい」


 樹里は不思議に思いながら、電話に出ました。


「ああ、樹里? 今ちょっと大丈夫?」


 由里の陽気そうな声が聞こえます。


「はい。少しだけなら」


 樹里は答えました。


「実はさ、私、結婚する事にしたの」


「え?」


 樹里はあまりにも意外な事を言われて驚きます。


「どなたとですか?」


「店長よ。やっと彼、決心してくれたの」


 由里はとても嬉しそうです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「それで、今後の事を話し合いたいから、今夜お店に来てくれない? もちろん、左京ちゃんも一緒にね」


「わかりました」


 樹里は携帯を一旦切り、夫の杉下左京にかけます。


「ど、どうした、樹里?」


 最近狼狽えてばかりの左京です。


「母が、結婚する事になりました」


「えええ!?」


 左京は腰が抜けるほど驚いたようです。


「ゆ、由里さんが結婚?」


「ショックですか?」


 樹里は他意なくそう言ったのですが、


「え、あ、いや、ショックの訳ないだろ、樹里。ハハハ……」


 妙に動揺する左京です。


「で、誰と?」


「居酒屋の店長さんです」


「ええ!?」


 更に驚く左京です。噂では、店長は「少女趣味ロリコン」で、ドロントの部下を狙っていると聞いていたからです。


「いつから、店長は熟女趣味になったんだ?」


 左京は思わず言ってしまいました。 


「母は熟女ではないです」


 樹里が珍しく怒りました。


「あ、いや、そんなつもりじゃないんだ、樹里」


 左京は更に動揺しました。


「今夜、話を聞きに行く事になりました。左京さんも一緒にです」


 樹里の言葉に左京は心臓がドキドキします。


「な、何で俺も?」


「元婚約者だからだそうです」


 左京は嫌な汗を掻いています。樹里は別に嫌味を言ったつもりはないのですが、左京にはそう聞こえてしまいました。


 


 そして夜も更け、樹里と左京は居酒屋に行きました。


 お店は早じまいしていて、由里と店長だけがいました。


「璃里お姉さんは呼ばなかったのですか?」


 樹里が尋ねました。すると由里は、


「璃里には別の機会に言うわ。だから黙ってて」


 由里は店長と顔を見合わせてから言いました。


「まずは、あなた達に伝えようと思ったんです」


 店長が言いました。彼の名前は西村夏彦です。思いっきり、推理作家っぽい名前です。


「実はね、私、できちゃったの」


 由里が珍しく恥ずかしそうにボソボソッと言いました。


「え?」


 左京はキョトンとしてしまいます。


「できちゃった?」


 左京は、まさかと思いながらも、店長を見ます。


「その、つまり、少しばかり油断したと言いますか……」


 店長はどう見ても由里より年上です。


 璃里の夫の竹之内たけのうち一豊かずとよ氏より上でしょう。


 そんないい年をした男が、


「油断した」


とか言うのって、どうかと思う作者です。(お前が言わせてるんだろう等の突っ込みはご容赦の程を)


「でも、遊びで付き合ってた訳じゃないのよ、樹里」


 由里はさっきから何も言わない樹里が怖くなったのか、探るような目で見ます。


「樹里?」


 由里がもう一度声をかけます。


「すみません、寝てました」


 伝家の宝刀を抜いた樹里です。


 左京も由里も店長も固まりました。

 



 樹里と左京は、由里が妊娠したために予定の変更を申し出られました。


 由里が居酒屋で働く事が難しくなったのです。


「あんたと予定日が二ヶ月くらい違うけど、私、もう高齢出産だからさ」


 申し訳なさそうに言い訳する由里です。


「わかりました。みどりちゃんに話してみます」


 樹里が言いました。翠とは、今春高校を卒業して、樹里が働いていた喫茶店に勤めている鶯谷うぐいすだにみどりの事です。樹里の従妹で、樹里に瓜二つです。


「悪いねえ、樹里。翠ちゃんには、私からも話をするから」


 すると店長が、


「樹里さんも、子供が生まれたら、また働いてくれるんですよね?」


と恐る恐る尋ねます。


「お断りします」


 左京が言いました。店長と由里はびっくりして左京を見ました。


「左京ちゃん……」


 由里も、左京の真剣な顔を見て、何も言えません。


「あまりにも虫が良過ぎませんか? 確かに樹里はあなた方に助けていただいたでしょうが、それとは事情が違いますよね?」


 いつになくまともな左京です。地球が危ういかも知れません。


「樹里の従妹の翠さんが働きに来れば、それで十分でしょう。樹里には子育てに専念してもらいますから」


 左京はスッと立ち上がり、


「樹里、帰るぞ」


と言います。すると樹里は、


「子供が生まれたら、またここで働きますね」


と、あっさり左京の発言を全面否定です。


 左京は驚き過ぎて、何も言えません。


 由里と店長も呆気に取られています。


「左京さん、帰りましょう」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「左京さん?」


 左京の反応がないので、樹里は左京の顔をジッと見ました。


「どうしたのですか、左京さんは?」


 その発言に、更に驚く由里と店長です。


(もしかして、左京ちゃん一世一代の名台詞を、全然聞いていなかったの、樹里?)


 さすが母親です。見事真相に辿り着いた由里でした。

 

 


 めでたし、めでたし。

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