表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/839

樹里ちゃん、置いてきぼりにされる?

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 五反田氏一家は只今渡米中で、樹里は邸の留守を警備会社の人達と守っています。


 今日は定期検診の日なので、樹里はお休みをもらいました。


 甲斐性なしの夫の杉下左京が車を運転し、樹里を産婦人科まで連れて行きます。


 左京は運が悪いので、樹里はあまり一緒に行動しない方がいいと思います。


「うるせえ!」


 左京が地の文に突っ込みます。


「地の文のくせに、登場人物に意見するな!」


 ごもっともです。失礼しました。


「順調そうで良かったよ」


 左京はニコニコしている助手席の樹里に言います。


「そうなんですか」


 樹里は左京を見て言います。


「早く会いたいな、俺達の子供に」


 左京は照れ臭そうに言います。


「そうですね」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そしたら、すぐ次の赤ちゃんが欲しいですね」


 樹里のその言葉に、左京は鼻血を垂らしました。


 よこしまな事を考えたようです。


「あ、いや、少しは間を置いた方が……」


 左京はシドロモドロになって言いました。


「そうなんですか?」


 樹里は不思議そうな顔をして、左京の鼻血をティッシュで拭います。


 左京は樹里を送り届けると、珍しく入った依頼のためにクライアントのところに向かいました。


「二時間ほどで戻れると思うから」


 左京はものすごく心配そうな顔で樹里を見ながら言います。


「そうなんですか」


 でも樹里は笑顔全開です。左京は項垂れて車をスタートさせます。




「やっほー、左京!」


 途中でグウタラ所員の宮部ありさを拾いました。


「どう、樹里ちゃん? 順調?」


 ありさがニヤニヤしながら尋ねます。


「ああ」


 左京は気のない返事です。


「左京も随分溜まってるでしょ?」


 ありさが突然とんでもない事を言い出します。


「な、何が?」


 左京はきわめて冷静なフリをします。


「私で良かったら、いつでも相手をしてあげるわよ」


 ありさは色っぽい目つきと声で言います。


「な、何の相手だよ?」


 左京はドキドキして尋ねました。


「あー、今、嫌らしい事考えたでしょ?」


 嬉しそうに突っ込むありさです。


「お前がそう仕向けたんだろ!」


 左京は怒りました。するとありさは、


「あんたなんかとそんな事しようとは思わないわよ。私はモテるんだから」


 左京は鼻で笑って、


「相手は人間か?」


「誰が豚の妖怪だ!」


 ありさはシリーズを超えて怒りました。


「蘭の彼氏の平井刑事を狙ってるのよん」


「平井?」


 左京はすでに忘れているようです。どうしようもないバカです。


「もう忘れたの? 一度脳の検査してもらいなさいよ、マジで」


 ありさは呆れ顔で言いました。


 


 そんなバカ話をしながら向かった先はペットの豚が逃げたというお金持ちの邸でした。


 左京とありさは手分けして豚の足取りを辿り、無事発見しました。


 ささやかな謝礼をもらい、左京は樹里の待つ産婦人科へと戻ります。


 すると樹里が玄関の前で待っていました。


「早かったな。待ったか?」


「いえ、待ちませんでした。今出て来たところです」


 樹里は笑顔全開で言います。


「そうか」


 左京は樹里を乗せてアパートの向かいます。


「左京さん」


「何だ?」


 左京は前を向いたままで尋ねます。


「寄って欲しいところがあります」


「どこだ?」


 左京は信号で停まったので、樹里を見ます。


「ホ・テ・ル」


 樹里がゆっくりと言いました。


「はあ?」


 ホテルに何の用だろうと思う左京です。


「そこを左に曲がって下さい」


 樹里が言いました。


「あ、そうか」


 左京は交差点を左折しました。


「あそこです」


 樹里が指差したのは、ホテルはホテルでも、あのホテルでした。


「何ィ!?」


 左京は仰天し、鼻血を噴き出します。


(どうしたんだ、樹里? おかしいぞ……)


 そう思いましたが、ずっと我慢して来たせいで喜びが先行します。


「う、うるせえ!」


 また地の文に突っ込む左京です。


「我慢できないんです、左京さん」


 樹里が言います。


「お、おう!」


 左京の中で遂に欲望が勝利し、車をホテルに乗り入れます。


「さあ、早く、左京さん!」


 樹里が左京を引き摺るようにして中に入ります。


(あれ? 樹里、身長伸びたか?)


 左京はふとそう思いました。


「もしかして!」


 左京は樹里の髪の毛を掴み、グイッと引きます。


「ひゃっ!」


 すると髪の毛がそのまま取れ、その下からショートカットの髪が現れました。


「てめえ、誰だ!?」


 左京はその謎の女性の腕を振り解いて怒鳴ります。


 女性は変装を解きました。


「私は六本木厚子。貴方を虜にするために来ました」


 六本木厚子。怪盗ドロントの幼馴染(ドロントは全面否定)で、同じく泥棒。


 牛乳瓶の底のような眼鏡をかけ、黒のワンピースを着ています。


「全然知らない」


 左京の言葉が無情に響きます。厚子は項垂れました。


 左京は隙を突いて逃げました。


「次は逃がさないわよ、杉下左京」


 厚子はフッと笑って言います。目的が変わって来たようです。


 


 その頃、樹里はようやく検診を終え、待合室で左京を待っていました。


「左京さん、遅いですね」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ