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樹里ちゃん、メイド探偵の小説をもらう

 御徒町樹里は、日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 只今五反田氏は、一家揃って渡米中で、邸は警備会社の人達と樹里がいるだけです。


 警備会社の人達は全員、樹里の事が好きです。


 好きとは言っても、樹里は人妻ですから、そういう好きではありません。


 警備会社の人達は、どこかの山路さんと違って、常識があるのです。


 あ、伏字にするのを忘れたので、名前のところを指で隠して下さい。


 樹里の作ってくれるランチは絶品で、それを自分のブログで紹介している警備員もいます。


 しかも最近は樹里と一緒に写っている写真をアップしているので、アクセス数がうなぎ登りです。


 とうとう樹里の居場所を突き止めた人達が、五反田邸の周囲をうろつくようになってしまいました。


 でも、インターネットをしない樹里は全然それを知らないので、


「樹里ちゃーん!」


と手を振られると、


「おはようございます」


と深々とお辞儀をして挨拶しています。


 


 そんな平穏な日々を過ごしている樹里のところに、人気推理作家の大村美紗とその娘のもみじがやってきました。


「樹里さん、ご機嫌よう」


 リムジンから降りるなり、上から目線で挨拶する美紗です。


 隣でもみじが苦笑いしています。


「おはようございます」


 樹里は笑顔全開で挨拶を返します。


「貴女を取材して書いた小説が出来上がったので、お持ちしましたの」


 美紗はもみじが持っている豪華なラッピングのされた箱を見ました。


 どうやら、その中に小説が入っているようです。


「ありがとうございます」


 樹里は美紗達を応接間に通しました。


「今日はあの子は来ないでしょうね?」


 ソファに上から目線で腰を下ろしながら、美紗が尋ねます。


「どなたですか?」


 樹里は誰の事かわからないので尋ね返しました。


「私の姪よ」


 美紗はイラついて言いました。


「なぎささんですか?」


 樹里が言うと、


「その名前を口にしないでちょうだい! 聞いただけで、虫酸が走るのよ!」

 

 美紗は大声で言いました。額に血管が浮き上がっています。


「そうなんですか」


 樹里は驚いてしまいました。するともみじが、


「さあ、樹里さん、開けてみて下さい。装丁も奇麗で、母もすごく気に入っているんです」


と樹里に箱を差し出します。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔で箱を受け取り、リボンを解きます。


 美紗は上から目線で微笑んでいます。


「さっきから、とっても不愉快な気分なんだけど、どうしてかしら?」


 美紗は地の文がわからないようです。老眼のせいでしょうか?


「ほら、またよ。何かしら、この嫌な感覚……」


 まるでニュータイプのような台詞を吐く美紗です。


「気のせいよ、お母様」


 もみじが美紗をなだめます。


 樹里は箱のふたを取りました。


 するとその中には、色鮮やかに描かれたメイド服の少女の絵が入った表紙のハードカバーの本がありました。


 メイド服の少女は、樹里をモデルにしているらしいのですが、雰囲気は大正浪漫です。


 でも、決してはい○らさんではありません。


「奇麗な本ですね」


 樹里が笑顔で言うと、美紗は、


「そうでしょう? 私が細かく指示して描かせたのよ、樹里さん。その表紙のメイドの子、貴女より奇麗になってるでしょ?」


と結構失礼な事を言います。やっぱり上から目線です。


「そうなんですか」


 樹里は全然気にしていないようです。


「お暇な時に読んで下さいな。きっと面白くてたちまち読み終わってしまうでしょうから」


 美紗は上から目線で笑いながら、押しつけがましい事を言います。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


 美紗ともみじは樹里の淹れた紅茶を飲み、ケーキを食べました。


 そして、二人は帰る事になりました。


「もみじ、あの子は絶対にここには来ないわよね?」


 美紗が小声で訊きます。もみじは、


「USJの招待状を渡したから、今頃は大阪よ」


「そう」


 美紗は嬉しそうに頷きます。


 樹里の親友の船越なぎさは、大阪に行っているようです。


 大阪の皆さん、なぎさに会っても、決して近づかないで下さい。


「では、樹里さん、後で感想を聞かせてくださいな」


 美紗は上から目線で言いました。


「はい、美紗様」


 樹里は笑顔で応じます。


 今回は、なぎさは最後まで現れず、美紗は上機嫌で帰って行きました。


「お気をつけて」


 樹里は深々とお辞儀をして見送りました。


 


 美紗ともみじは、何事もなく自宅に帰りました。


「あの子が現れないと、本当に静かねえ」


 美紗はリヴィングルームのソファに寛いで言います。


「そうそう、今日は私が新刊執筆のインタビューを受けたのが放送されるのよ」


 美紗はテレビをつけました。


 すると画面にUSJが映ります。


「あら、偶然ね。USJだわ」


 美紗は少しだけ嫌な予感がします。


「私は今、USJに来ています」


 芸能レポーターが言いました。


 どうやら、有名芸能人カップルのデートが目撃されたようです。


「ひい!」


 美紗が悲鳴をあげたので、片づけをしていたもみじが驚いて美紗に駆け寄ります。


「どうしたの、お母様?」


「ひ、ひ!」


 美紗は只テレビ画面を指差します。もみじが画面に目を向けると、驚きの光景が映っていました。


「叔母様、もみじ、樹里、見てる?」


 レポーターの後ろで三人の名前を書いたプラカードを掲げて大騒ぎしているなぎさがいたのです。


「きいいい!」


 美紗はショックのあまり、そのままソファに倒れてしまいました。


「お母様!」


 もみじが慌てて美紗を抱き起こします。


 なぎさはどこにいても恐ろしい存在でした。


 


 めでたし、めでたし。

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