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樹里ちゃん、六本木厚子と再会する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸のメイドです。


 今日も広大な庭の掃除を竹ぼうきでしています。


 効率が悪いとか言う人がいますが、樹里は気にならないようです。


 今日は、五反田氏は仕事に出ており、妻の澄子さんは友人とお出かけ、娘の麻耶さんは学校です。


 邸にいるのは、樹里と警備の人達だけです。


 警備の人達は、樹里が妊娠しているのを知っているので、何かの時はいつでも病院に連れて行けるように万全の態勢を整えています。


 樹里が門の前を掃いている時でした。


「御徒町さん、久しぶりね」


 牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた、ショートカットの黒尽くめの女性が声をかけます。


「どちら様ですか?」


 樹里は笑顔全開で応じます。


「私よ、私。忘れたの?」


 女性は必死にアピールします。


「神村律子さんですか?」


 樹里は言いました。女性は項垂れて、


「違うって。ホントに忘れちゃったのね……」


「申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げてお詫びします。


 樹里と女性のやり取りに気づいた警備の人達が、配置に付きます。


 樹里が危険になったら、すぐに女性を取り押さえるつもりです。


「私よ、私。六本木厚子よ」


 女性は樹里に名刺を差し出しました。


「そうなんですか」


 樹里は名刺を受け取り、厚子を見ます。


「ドロントさんのお友達の方ですよね?」


「いや、友達ではないし……」


 何か嫌な事でも思い出したのか、厚子は涙ぐみます。


「そんな事はどうでもいいのよ! 私は貴女に挑戦しに来たのだから!」


 厚子はビシッと樹里を指差します。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


「貴女が盗まれて一番困るものを盗むわ」


 厚子は、間抜けな魔女のような顔で笑います。


「どうして間抜けな魔女なのよ!」


 厚子は地の文に突っ込みますが、地の文はスルーしました。


「そうなんですか?」


 樹里はキョトンとしました。


「貴女の夫、杉下左京の心を盗むわ」


「そうなんですか」


 樹里は全く動じずに笑顔全開です。


「ああ、盗めないと思ってるな! 絶対に盗んでやるんだから! 覚悟してなさいよ!」


 厚子はまたボンと煙を出して逃げますが、消えるのが早過ぎて、逃走経路が丸分かりです。


「お気をつけて」


 樹里は深々と頭を下げて、厚子を見送りました。


 樹里は全然気にしていないのですが、警備の人達は慌てます。


「すぐにあの女を追え!」


 二人が厚子を追い、一人が五反田氏に連絡します。


 そしてもう一人が、左京の探偵事務所に連絡をしました。


 厚子を追いかけた二人は、厚子を見失いました。


 連絡を受けた五反田氏は、すぐに左京を警護するように警備の人達に指示しました。


 


 当の左京は、警備の人からの連絡で、仰天していました。


「六本木厚子? 誰だ?」


 左京は、厚子が以前樹里に自分の事務所の名入りの封筒で予告状を渡し、窃盗未遂で警察に事情聴取された事を知りません。その時は不起訴になったので、厚子は釈放されました。


「六本木厚子は、通称ベロトカゲ。ドロントのライバルを自称する変な女よ」


 たまたまなのか、入り浸っているのか、事務所にいた警視庁ドロント特捜班の神戸かんべらんが言いました。


「何であんたがいるのよ、蘭?」


 グウタラ所員の宮部ありさが尋ねます。


「歩いて来たからよ」


 蘭は樹里の得意技で応戦です。ありさは呆れました。


「その女が、俺の心を盗むと言って来たらしい」


 左京は椅子に沈み込んで言いました。


「六本木厚子って、美人なの?」


 ありさが訊きます。蘭は肩を竦めて、


「さあ。私は面識ないから知らないわ」


「そうなんですか」


 今度はありさが樹里の得意技で応戦しました。


 蘭は無視します。


「どちらにしても、窃盗犯なのは確かだから、捕まえた方がいいわね」


 蘭は真顔で左京を見ました。


「いつ来るんだろう?」


 左京は窓から外を見下ろします。


「何よ、左京ってば、会いたいの、そいつに?」


 ありさがニヤッとして尋ねます。左京はギクッとして、


「あ、会いたくなんかねえよ!」


と言い返しますが、顔に「会いたい」と書いてありそうな雰囲気です。




 ところが、夕方まで待っても、厚子は現れません。


「左京、もう帰るよ」


 蘭は飽きて帰ってしまい、ありさも定時なので帰りました。


「ああ、お疲れ」


「疲れてねえし」


 ありさは捨て台詞を吐いて帰ります。


 ちょっとだけその言葉が胸に刺さる左京です。


「からかわれたのか?」


 左京は苦笑いして、椅子に座りました。


 


 厚子は目を覚ましました。


「うん?」


 周囲を見渡すと、真っ暗で何も見えません。


「ここはどこ?」


 厚子は自分が寝ているのに気づき、起き上がりました。


「いたた……」


 身体のあちこちが痛くなっています。


「あ、そうか」


 厚子は警備員の追跡を逃れるためにマンホールの中に逃げ込んだのを思い出しました。


「それから……」


 梯子を降りている途中で足を踏み外し、下まで落ちたのを思い出しました。


「あれ?」


 でも、どうしてそんな事になったのか、全く思い出せません。


「私、何をしようとしていたのかしら?」


 必死に思い出そうとしました。


 しかし、お腹がとても空いて来たので、考えるのを止めます。


「帰ろっと」


 こうして左京は、厚子の「魔の手」から逃れられたのでした。

 

 


 めでたし、めでたし。




「あれ、私んち、どっちに行けばいいんだっけ?」


 オチの後もボケる厚子でした。

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