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樹里ちゃん、マジ告白される

 御徒町樹里は、日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸のメイドです。


 普通、五反田氏程の富豪の邸の規模だと、数名のメイドが必要とされるのですが、樹里はたった一人で全てをこなしています。


 広大な庭の掃除、何部屋あるのか、あるじの五反田氏ですら把握していない邸宅内の掃除。


 そして、五反田氏達の食事の用意、衣類の洗濯。


 五反田氏が心配して、樹里に尋ねました。


「御徒町さん、一人で大丈夫かね? とても大変だと思うのだが?」


「そうなんですか」


 樹里は五反田氏の心配をよそに、笑顔全開です。


「メイドを増員しようと思うのだが、どうかね?」


 五反田氏が言いました。すると樹里は、


「大丈夫ですよ。まだ余裕があります」


と応じます。五反田氏は、樹里が妊娠しているので、それも心配しているのです。


「しかし、御徒町さんはお腹に赤ちゃんがいる。それも気になるのだよ。本当に大丈夫かね?」


「大丈夫ですよ。私の母は、私を身ごもった時、知らずにダンスを踊っていたそうです」


 樹里の誕生秘話を聞かされ、五反田氏は唖然としました。


「わかった。だが、くれぐれも無理はしないようにね」


「はい、旦那様。お気遣い、ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開でお礼を言いました。


 五反田邸には、五反田氏の他に五反田氏の奥さんの澄子すみこさんと娘の麻耶さんがいます。


 麻耶さんはまだ小学四年生です。


 彼女は樹里を凄く慕っており、澄子さんんも樹里に全幅の信頼を寄せています。


 五反田氏を見送った樹里が邸に戻ると、樹里の身体を心配した澄子さんと麻耶さんが樹里に声をかけます。


「御徒町さん、無理しないでね。辛かったら、いつでも言ってね」


 澄子さんは、樹里のお陰で夫婦の仲が修復できた(樹里ちゃん、幽霊と会う参照)ので、彼女の事を本当の家族のように思っているのです。


「樹里お姉ちゃん、赤ちゃんを大切にしてね」


 麻耶さんは涙ぐんで言いました。


「ありがとうございます、奥様、お嬢様」

 

 樹里は深々とお辞儀をしました。


 


 そんな優しい人達に恵まれた樹里のところに、五反田氏の旧友である目黒七郎氏の後継者の祐樹がまた現れました。


 彼は、樹里に一目惚れし、彼女に杉下左京と言う甲斐性なし夫がいる事を知りました。


 それでも樹里の事を諦め切れない祐樹は、もう一度樹里にアタックしようと思い、五反田邸を訪れたのです。


「まあ、いらっしゃい、祐樹さん。お久しぶりね」


 澄子さんが言いました。


「お久しぶりです、澄子おば様」


 祐樹が微笑んで応じます。


「祐樹お兄様、ご機嫌よう」


 祐樹に淡い恋心を抱く麻耶さんが言います。


「やあ、麻耶ちゃん。ご機嫌よう」


 そんな麻耶さんの思いに気づく事なく、祐樹は挨拶します。


「御徒町さんはいますか?」


 祐樹は澄子さんに尋ねます。


「ええ。今、お庭の掃除をしているわ。もうすぐこちらに来ますよ」


「そうですか。では、そちらに行ってみます」


 樹里に一秒でも早く会いたい祐樹は、心配そうな視線を向ける麻耶さんに目を向ける事なく、邸を出て行きます。


 でも、とても素直に育った麻耶さんは、


(祐樹お兄様が樹里さんを好きなのなら、私は諦める)


と思っています。本当にいい子なのです。いい子過ぎて、可哀想になってしまいます。


 


 祐樹は、庭で木の剪定をしている樹里を見つけました。


「樹里さん、こんにちは」


 祐樹は身なりをもう一度整え、樹里に声をかけました。


「いらっしゃいませ、祐樹様」


 樹里は手を休め、深々とお辞儀をします。


「妊娠されていると聞きました。大丈夫なのですか、そのようなお仕事をされて?」


 祐樹が心配そうに尋ねます。


「大丈夫です。私の母は私がお腹にいる時、牛乳配達をしていましたから」


「そうなんですか」


 祐樹はつい、樹里の口癖を真似てしまいます。


「樹里さん」


 祐樹はグッと樹里に近づきます。


「何でしょうか?」


 樹里は笑顔全開で応じます。


「今のままでは、貴女はとても幸せとは思えない。僕が貴女を本当に幸せにしてみせますから、僕と結婚して下さい」


 祐樹は大真面目な顔で言いました。


 左京が聞いたら、血の涙を流しそうです。


「そうなんですか」


 樹里の笑顔が消えます。


 祐樹はギクッとしました。


「貴女は、僕と結婚すれば仕事をする必要もない。毎日あくせくしなくてもいいんです。お腹の子供は、僕の養子にします。ですから、僕と結婚して下さい」


 それでも祐樹は怯まずに更に押します。


「祐樹様」


 樹里は真っ直ぐに祐樹を見ました。


「はい」


 祐樹は生唾をゴクリと呑み込みました。


「私が幸せかそうでないかは、祐樹様にはわかりませんよ。人の幸せの物差しは、人それぞれなのです。他の人には幸せに見えなくても、自分が幸せだと思うなら、それがその人にとっての幸せなのです」


 樹里のその言葉に、祐樹は愕然としました。


 自分のあまりに思い上がった気持ちに気づいたのです。


「すみませんでした、樹里さん。僕が間違っていました」


 祐樹は震える程感動して、五反田邸を立ち去りました。


 それを木の陰から、左京が見ていたのを樹里は知りません。


「樹里……。俺は今、猛烈に感動しているぞ」


 一度は折れかけた探偵への情熱を、左京は取り戻す事を決意しました。


 


 めでたし、めでたし。

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