樹里ちゃん、ドロントと最終対決する?
御徒町樹里は大富豪の五反田氏の邸のメイドです。
今日もいつものようにお邸の庭を掃除しています。
「御徒町さん、無理をしないようにね。今は貴女だけの身体ではないのだから」
出かける時に、五反田氏が声をかけました。
「そうなんですか。ありがとうございます」
樹里はそう言いながらも、後は誰の身体なのだろうと思っています。
「行ってらっしゃいませ、旦那様」
樹里は深々とお辞儀をして、五反田氏を見送ります。
そして、庭掃除をすませると、邸に戻ります。
その時でした。
「どの時ですか?」
樹里が地の文に尋ねます。
今からわかりますので、お待ち下さい。
「そうなんですか」
樹里はそのまま玄関の扉を開いて中に入ってしまいます。
「ちょっと!」
庭の木の陰でムッとしているオバさんがいます。
「誰がオバさんだ!」
地の文に突っ込むオバさんです。
よく見ると、ドロントに似ています。
「似ているんじゃなくて、ドロント本人よ!」
ドロントはヘトヘトになっています。
「あんたが妙な事を書くから、あの子に予告状を渡しそびれたじゃない! どうしてくれるのよ!?」
じゃあ、樹里を呼び戻します。
「そうしてくれる? 頼んだわよ」
ドロントはホッとしたようです。
「ドロントさん、いらっしゃいませ」
いきなり樹里が後ろに現れ、心臓が止まりかけたドロントです。
オバさんにはきついドッキリでした。
「ふざけないでよ!」
ドロントは切れたようです。
眉間に深い小皺がたくさん寄っています。
「うるさいわね!」
更にヒートアップするドロントです。
「それより、どうして貴女がそこにいるのよ……」
そこまで言いかけて、「しまった」と思うドロントです。
「歩いて来たからです」
型通りの回答をする樹里です。
ドロントも型通りに項垂れます。
「取り敢えず、これ。確かに渡したわよ」
ドロントは樹里に予告状を手渡しました。
「これは何ですか?」
樹里が尋ねます。
「犯行の予告状よ」
「ハンコの葉子苦情ですか?」
樹里が更に尋ねます。
「誰がそんな事言った!? 明日の午後十一時に、国立漫才劇場にある漫才トロフィーを頂くのよ。旦那に伝えなさい」
ドロントは苛つきながら言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じます。
「それから、ご懐妊おめでとう」
ドロントからの意外な言葉です。
「ありがとうございます」
樹里は更に笑顔全開です。
「だからと言って、私は手心は加えないから。覚悟しておいてね」
ドロントはそう言いながら駆け去ろうとします。
「ではこれは私の姉に渡して下さい」
「はあ?」
ドロントは思わず立ち止まって振り返ります。
「探偵事務所は、姉の璃里が受け持つ事になりました。但し、ドロントさんには内緒なんです。言わないで下さい」
樹里の言葉に唖然として硬直するドロントです。
「今、何て言ったの?」
ドロントは尋ねました。目眩がしそうです。
「トルネードスピンですか?」
「誰がタイムショックだ!」
ドロントはもう一度切れました。
「探偵事務所は姉が受け持つって、どういう事?」
ドロントは自分達がレギュラーから外されると感じ、危機感を抱いているようです。
「言葉通りです」
樹里は変わらない笑顔で答えました。
「訊いた私がバカだったわ。じゃあね……」
ドロントはフラフラしながら、五反田邸を去りました。
ドロントは八王子にあるアジトに戻りました。
「樹里ちゃんは元気でしたか?」
隠れ樹里ファンのキャビーが嬉しそうに尋ねます。
「知らないわよ」
ドロントは意気消沈して応じます。
「どうしたんですか、首領? 元気がないですね」
ヌートが心配して尋ねます。
ドロントは溜息を吐いてソファに倒れ込みます。
「溜息を吐くと小皺が増えますよ」
キャビーが余計な事を型通りに言います。
「うるさいわね!」
ドロントは切れました。そして目眩を起こします。
「私達、もう出番がなくなるかも知れない……」
「ええ!?」
ヌートとキャビーは仰天しました。
「だから、今回は仕事はなし。来週またここに来て」
ドロントはショックで臥せってしまいました。
次回は、ドロント編最終話「シャーロット・ホームズ登場」です(嘘です 作者)