樹里ちゃん、ベロトカゲと対決する?
御徒町樹里はメイドです。
現在、大富豪の五反田六郎氏の邸で働いています。
ある日、樹里が庭の掃除をしていると、門扉の向こうに女性が現れました。
髪はショートカット、服装は黒のワンピースで、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけています。
以前樹里が働いている居酒屋に来た六本木厚子です。
厚子は性懲りもなく、また樹里に挑戦しようとしているようです。
彼女はまたの名を「ベロトカゲ」と言います。
股に名前があるのではない事は、火を見るより明らかです。
「御徒町さん」
厚子は門扉の向こうから樹里を呼びます。
樹里は厚子に気づき、近づきます。
「いらっしゃいませ」
樹里は厚子の事を忘れているようです。
「随分凄いお邸で働いているのね」
「どちら様ですか?」
厚子は樹里の言葉にショックを受けました。
「私よ。六本木厚子よ」
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「このお邸のシャンデリアを、以前ドロントが盗もうとして失敗したのよね?」
厚子はニヤリとして言いました。
「そうなんですか」
樹里は尚も笑顔全開で応じます。
「だから今度は私がそのシャンデリアを盗むわ。これ、予告状よ」
厚子は樹里に封書を手渡します。
「そうなんですか」
樹里はそれを受け取りました。
「じゃあね」
厚子は煙幕を張って逃げますが、その日は風の強い日でしたので、逃げる厚子が丸見えです。
「お気をつけて」
樹里は深々とお辞儀をして厚子を見送ります。
一方、ドロントの隠れ家です。
八王子の山の中にあります。
「あっちゃんがまた現れたらしいわね」
ドロントが部下のヌートとキャビーに言いました。
「はい。首領が盗み損ねた五反田邸のシャンデリアを盗むそうです」
キャビーが答えます。ドロントはムッとして、
「盗み損ねたんじゃないわよ! 盗まなかったの!」
「ものは言いようですね」
キャビーが言います。
「うるさいわよ!」
ドロントは切れました。
「とにかく、私の邪魔はさせないわよ、あっちゃん」
ドロントは腕組みをして言いました。
そして予告日当日です。
厚子は自分の事務所に行きました。
事務所は高層ビルの最上階です。
ここで着替えて盗みに行く予定です。
事務所の前まで行き、ドアの鍵を開けていると、
「六本木厚子さんですね?」
と目つきの悪い私服刑事が三人現れました。
「何でしょうか?」
厚子は、以前似ていると言われた安めぐみのような笑顔で尋ねました。
でも刑事にはわかりません。
「五反田邸への窃盗予告の件で訊きたい事があります。署まで同行願います」
「え?」
厚子はビクッとしましたが、ここはセオリー通り、恍けます。
「何の事でしょう?」
「シラを切るつもりか? 五反田邸のメイドさんに渡した予告状が、あんたの事務所の名入りの封筒だったんだよ」
刑事はいささか呆れ気味に言いました。
「ええええ!?」
芸人並みのリアクションで驚く厚子です。
予告状に自分の事務所の封筒を使うなんて、間抜け過ぎです。
「さあ!」
厚子は警察に連行されてしまいました。
厚子が警察に捕まったのを知り、ドロント達は呆気にとられました。
「やっぱり、小学生の時から変わらないわ。アホのあっちゃんのままね」
溜息を吐くドロントでした。
樹里の夫の杉下左京は、妙な女が犯行予告をしたと知り、驚いて五反田邸に来ました。
「樹里、大丈夫か?」
左京は庭にいた樹里に話しかけました。
「左京さん」
樹里が微笑んで左京を見ます。
左京はにやけます。気持ち悪いです。
「うるさいわい!」
地の文に突っ込む左京です。
「もう犯人は逮捕されたから、安心しろ」
「そうなんですか」
樹里は笑顔で応じました。そして、
「それより、お話があります」
左京は悲しい条件反射で、ビクッとしてしまいます。
「な、何でしょう?」
全身から嫌な出る左京です。
「赤ちゃんができました」
「犬のか?」
左京は、「もうそんな事に驚かないぞ」という顔で言います。
「違います」
「じゃあ、猫の?」
「違います」
左京は腕組みをして考え込みます。
「まさか、由里さんの?」
由里とは、樹里の母親です。
「違います」
ほんのちょっとですが、樹里が怒っている気がする左京です。
「ま、まさか……?」
さっきより更に大量の汗を掻く左京です。
「はい。私達の赤ちゃんです」
樹里は笑顔全開で言いました。
「おお……」
左京はあまりの驚きに目眩がしました。
「生活、できるのか、俺達……」
仕事がうまくいっていない左京は先行き不安です。