33 お似合いの二人
アイラとオスカーは無事に結婚式を終え、そのままガーデンパーティーを実施した。
今日のロッシュ領は、アイラが結婚するため街全体がお祭りのようになっている。
雲ひとつない青空と、鮮やかな緑の芝生と木々がとても美しくて……二人の門出を祝っているようだった。
普通の披露宴ではなく、広い場所を借りて外でのパーティにしたのはたくさんの人に気軽に参加してもらいたかったからだ。招待者は貴族だけではなくアイラが教えた生徒たち、つまり孤児院の子どもたちも呼んでいた。
「アイラ様、おめでとうございます」
「すごい、本物のお姫様だ」
「オスカー様もジャラジャラついてて、いつもより格好いい」
「ほら、見て。私も可愛い服着てるのよ」
子どもたちは二人を見かけて駆け寄ってきた。結婚式のために、アイラは孤児院に可愛いワンピースやジャケットを届けていたので、みんなおめかしをしている。
「ありがとう、みんな」
「よく来てくれたな!」
二人はしゃがんで子どもたちを撫で『美味しいものいっぱいあるから』と教えてあげると、目を輝かせて料理を取りに走って行った。
「ビルとマリーも来てくれてありがとう」
「結婚おめでとう」
「ありがとう。こうして今日を迎えられたのも、二人のおかげよ。改めて本当にありがとう」
アイラはビルとマリーをぎゅうっと一緒に抱き締めた。二人は勇気を出して、ファビアンの件でアイラを助けてくれたのだ。
「俺は別に大したことしてねぇし。マリーが大変だっただけだ」
「アイラ様が文字を教えてくれたおかげで、私は助かったの。だから、私こそありがとう」
どうやらマリーはビルが好きなようで、ずっとぎゅっと手を握ってくっ付いている。そして、ビルもなんだか満更でもなさそうだ。
「私もいつかアイラ様みたいに、お姫様になれるかな?」
「……ええ。私にとってのオスカー様みたいな人を見つけないとね。そうすれば、きっとマリーをお姫様にしてくれるわ」
アイラはビルをチラリと見ながらそう言うと、ビルは真っ赤になりながらプイッと顔を背けた。
「ビル、素直は気持ちを伝えた方がいいぞ!」
「……ずっと、アイラ様に振られてた人に言われたくねぇよ」
「おい、それを言うなよ! 結果オーライだ」
ハハハと笑いながら、オスカーはビルの頭をゴシゴシと撫でた。
それからはオスカーの家族ともゆっくり話す時間が取れた。手紙のやり取りだけだった義母や義妹にも会えて、アイラは嬉しかった。
「この前の紅茶とお菓子とても美味しかったわ。アイラさん、ありがとうね」
「お義母様のお口に合ってよかったです!」
「私……素敵なお義姉様ができて本当に、本当に嬉しいです。だって我が家には筋肉ムキムキなお兄様方しかいないんですもの!」
オスカーの妹に、アイラはぎゅっと手を握りしめられた。
「私も会えて嬉しいですわ。仲良くしてくださいませ」
「はい、もちろんです!」
顔を合わせるまでは緊張していたアイラだったが、みんなオスカーと同じで温かくて明るい人たちばかりだったので安心した。
「オスカー、おめでとう。良かったな」
「エイベル!」
「お前が結婚なんて、感動して泣けてくるぜ。しかもあんないい女と」
うっうっと声を上げながら、目頭を押さえているエイベルをオスカーはコツンとグーで軽く小突いた。
「どこが泣いてんだよ」
「ちぇ、バレたか。はは、でも本当におめでとう。いい結婚式だな」
「ありがとう。結婚するまでに、お前にはたくさん助けてもらった」
「いいってことよ」
オスカーとエイベルが話し込んでいるので、アイラはリーゼと話すことにした。
「アイラ、結婚おめでとう。そのドレスとてもよく似合ってるわ」
「リーゼ、ありがとう! 大好き」
「私もよ」
親友の二人は抱き締め合って、喜びを分かち合った。
「……結婚おめでとう。面白い式ね」
「テレージア、来てくれたのね。ありがとう」
アイラはあの事件以降、お互い呼び捨てで呼ぶことに決めた。
「まあ、アイラにはこういうのが似合ってるんではなくて? 私は嫌ですけど」
可愛くないその言葉はきっと褒め言葉なのだろうと、アイラは最近になってわかってきた。
「素直じゃないね」
「素直じゃないわ」
アイラとテレージアは同時に同じ台詞を言ったので、顔を見合わせた。
「失礼しますわ」
拗ねたようにツンとしたテレージアに、アイラは声をかけた。
「テレージア、来週孤児院に勉強教えに行くから一緒に来てよね」
「……詳しい後で日時を送ってくださる? ちゃんと準備をしたいから」
「ええ、よろしくね」
こうしてアイラはテレージアと一緒にたくさんの孤児院や平民の学校を回り、教育支援をしていくことになるのであった。
「なんで結婚式で唇にキスしなかったんですか? 隊長のヘタレ!」
「手にキスするのも、騎士の誓いっぽくって格好良いですけど……この意気地なし!」
「見た目がイケメン筋肉ゴリラだからって遠慮しちゃだめです。夫なんですから!」
ギャーギャー騒いでるのは、オスカーの部下の若き騎士たちだ。
「誰が筋肉ゴリラだっ!」
「気を遣ってイケメンってつけたじゃないっすか」
「そんな気の遣い方いらんわ」
オスカーの隊はみんな家族のように仲が良い。その会話を横目で見ながら、エイベルはケラケラと笑っている。
「なんでお前らに可愛いアイラを見せてやらねぇといけないんだよ!」
「……え?」
「唇にキスした時のアイラは可愛いんだぞ。とろんとして、ぽやーっとして……めちゃくちゃ可愛い! だから、そんな世界一可愛いアイラを誰にも見せたくないだろうが」
その熱弁が聞こえてきて、アイラは恥ずかしくて死にそうだった。
「ふふ、アイラ大声であんなこと言われているわよ」
アイラはズンズンとオスカーの前まで行って、ギロリと睨みつけた。
「いらないことを言わないでください」
「お、アイラ。なんで怒ってるんだ?」
「オスカー様が恥ずかしいことを仰るからです」
ムッと怒ったアイラをしばらく眺めた後、オスカーはヘラリと笑った。
「アイラは怒った顔も可愛いな」
「……は?」
「怒ってても可愛いが、笑ってくれ。アイラの笑顔は最強だからな」
オスカーに抱き締められて、アイラは腕の中で身動きがとれなくなった。
「……馬鹿」
アイラは少し困ったように笑いながら、オスカーの背中に手を回した。
「アイラ様にオスカー様は似合わないと思っていたけど……ピッタリかもしれないな」
「そうか?」
「だって見てみろよ? あんな彼女の顔、今まで誰も見たことないだろ」
「ああ、本当だな」
オスカーの腕の中にいるアイラは、誰の目から見てもとても幸せな顔をしていた。




