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いくら溺愛されても、顔がいいから結婚したいと言う男は信用できません!  作者: 大森 樹


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31 顔合わせ②

「お義父様にお伝えしたいことがあります。私は教員資格を取りました。平民への教育支援をしたくて、今度から国の施策にも協力するのです」


 アイラはオスカーの家族には嘘をつきたくなくて、自分のことを包み隠さず話すことにした。


 普通の貴族には理解されないことなので、アイラは緊張したがオスカーに『大丈夫』と励まされたので、伝えることができた。


「へぇ、それはすごいな」

「騎士の妻になるのであれば、家に入り支えるべきだとはわかっているのですが……私はどうしても自分の夢を諦めたくないのです」


 アイラは義父の眼をしっかりと見つめて話すと、グレンはニカッと豪快に笑った。


「いいじゃないか」

「え?」

「やりたいことがあるなんて、素晴らしいじゃないか。夢を叶えればいい。ちなみに私の妻もとても働き者だぞ!」


 ハハハと笑いながら、グレンはオスカーの背中を『いい嫁だな』とバシバシと叩いていた。


「……よろしいのですか?」

「いいに決まっているだろう。家のことはこいつと協力するか、使用人を雇えばいい」


 そう言ってもらえて、アイラは嬉しくてポロポロと涙が溢れた。


「なっ……! ど、どうしたんだ? 俺、なんか変なこと言ったか?」


 アイラの泣き顔を見て、グレンはものすごく慌てふためいた。


「アイラは嬉しくて泣いているんです。ありがとうございます、娘の生き方を認めてくださって」

「私からもお礼を申し上げます」


 アイラの両親も涙ぐみ、グレンに深く頭を下げた。


「頭を上げてください。そんなことは当たり前ですよ。アイラ嬢は……いや、アイラはもう俺の義娘なんですから。ルーマン家の一員になってくれて感謝するよ! これからよろしくな」

「はい、お義父様。よろしくお願いいたします」


 こうして、両家の顔合わせは和やかに終わった。


「お義父様、本当にもう帰られるのですか?」

「ああ、何もないとは思うがあまり家を空けるのも心配だからな。結婚式の当日は一泊させてもらう」


 ルーマン伯爵領は魔物が多い地域なので、ルーマン家の男性たちは全員騎士だ。今日はオスカーの兄が、留守番をしてくれているらしい。


「そうですか。これは、お土産です。お義母様は紅茶がお好きだとお聞きしましたので、私が茶葉とそれに合うお菓子を選びました」

「ありがとう、きっと喜ぶよ。結婚式楽しみにしてる」

「はい」

「オスカー、またな! 喧嘩した時は大抵男が悪いんだから、お前が先に謝れ。それが夫婦円満の秘訣だ」

「喧嘩なんかしない」

「はは、そうかよ」


 グレンはゲラゲラと笑いながら、馬に乗って颯爽とロッシュ子爵家を去って行った。


「……オスカー様そっくりですわね」

「そうか? まあ、昔から似てるって言われるな。ちなみに兄上と俺もそっくりだ」

「そうですか。お会いしてみたいですわ」

「今度、長期休みが取れたらルーマン領にも行こう」

「はい」


 ルーマン伯爵領はとても自然の多い素敵な場所だと聞いているので、アイラは行ってみたかった。それにオスカーが育った場所を、この目で見たいという気持ちもある。


「アイラとカミルも少し似てるよな。整った顔だから、成人したら大変かもしれねぇな」

「ええ。今でもカミルは、御令嬢方に追いかけられて困っていますわ」

「そうなのか、大変だな」


 カミルはオスカーに懐いており、今ではたまに剣術を教えてもらっている。


『僕は義兄様が欲しかったんです!』


 婚約していた時ファビアンには全く近付こうとしなかったが、オスカーのことは好きなようでアイラは安心していた。


「モテない俺には一生わからない悩みだな。アドバイスのしようがない」


 ふうとため息をついたオスカーを、アイラは横目でチラリと見た。どうやら、モテないことをそれなりに気にしているようだ。


「モテなくていいです」

「え?」

「……私だけがオスカー様を好きじゃ、物足りませんか?」


 少し拗ねたような顔をしたアイラを見て、オスカーの胸がぎゅっと締め付けられた。


「いい。一生アイラにだけ好かれたら、俺はそれでいい!」


 オスカーはアイラの両肩を持って、そう伝えた。


「なら、良かったです」

「むしろ君はモテるから心配だ。最近の俺はアイラのことになると、狭量になってきてる気がする」

「……心配しなくて大丈夫です。私が惚れているのは、オスカー様だけですから」


 アイラがニコリと微笑むと、オスカーは頬を染めそのままガバリと抱き締めた。


「好きだ」


 ぎゅうぎゅうと腕の中に抱え込まれたアイラは、バタバタと動いて必死に逃げようとした。しかし……オスカーはびくともしなかった。


「可愛い」


 すりすりと頬擦りをされたアイラは、抱き締められながら両親やカミル……そして使用人たちと目が合った。みんながニヤニヤしながら見つめていることに気が付いて、居た堪れなくなった。


「は、離してください。み、みんな見てますから!」

「夫婦になるんだからいいじゃないか」

「嫌です。こんなのカミルの教育に悪いですからっ!」


 アイラがそう叫びながらオスカーの胸を押すと、意外にも素直に身体を離してくれた。


「僕は全然気にしないよ。姉様が愛されていて嬉しいから」


 ニコニコとカミルが微笑んだ姿を見て、オスカーはアイラをもう一度抱き締めた。


「きゃあっ!」

「許可がおりた。良かったな」

「は、恥ずかしいので、やめてくださいませ」

「はは、恥ずかしがってるアイラも可愛いな」

「もう……!」


 婚約してから、オスカーのアイラへの愛は以前よりあからさまに……そして深くなっていた。


 ロッシュ子爵家の皆は、戸惑いながらも幸せそうなアイラの顔を見て二人の結婚を喜んでいた。







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