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いくら溺愛されても、顔がいいから結婚したいと言う男は信用できません!  作者: 大森 樹


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9 試験の日

 アイラは、毎日寝る間も惜しんで試験勉強をした。もちろん一年以上前からずっと勉強をしていたのだが、さらに自分を追い込んだ。


『試験頑張ってね。アイラならできるわ』


 心が折れそうになった時は、リーゼから送られてきた激励の手紙を見て頑張った。


 そして、四歳下の弟カミルが、両親より先に私の夢を応援してくれた。


「姉様が先生なんて天職だと思うよ。もし結婚できなくても、僕がずっと姉様と暮らすから安心して」


 そんな嬉しいことを言ってくれたので、私はカミルを抱き締めた。


「姉様の良さは顔だけじゃないこと、僕はよく知ってるよ」

「ありがとう、カミル! 大好きよ」


 そしてアイラの専属侍女であるリラも、応援をしてくれた。リラは幼い頃から一緒にいるため、私が先生になりたいことも知ってくれていた。


「私は何があってもお嬢様の味方ですから」

「……リラ、ありがとう」

「諦めないでくださいませ」


 二人に勇気を貰ったアイラは、試験勉強を続けた。その姿を見て、両親もだんだんとアイラの夢を応援してくれるようになった。


「アイラ、今日までよく頑張ったな。力を出し切っておいで」

「緊張しないようにね」

「姉様、頑張ってね。行ってらっしゃい」


 アイラは両親と弟……たくさんの使用人たちに見送られて、試験に向かった。あんなに反対していた母親も、最後は笑顔で送り出してくれたことが嬉しかった。


「大丈夫。出来ることは全てやったもの」


 王宮に着いたので大きく深呼吸をして馬車から降りると、後ろから馬の嘶きが聞こえてきた。


「良かった。なんとか間に合ったな」


 颯爽と馬から降りてきたのは、オスカーだった。


「オスカー様! どうされたのですか」

「アイラの試験が今日だったなと思って」


 アイラはほとんど家から出ずに勉強ばかりしていたので、オスカーと会うのは約二ヶ月ぶりだ。


「これは御守りだ」


 オスカーはアイラの手の上に、美しい石が付いたネックレスを乗せた。


「綺麗。これはターコイズですか」

「成功の石だ。良かったら持って行ってくれ」


 アイラはすぐにネックレスを首に付けて、ニッコリと微笑んだ。


「嬉しいです。ありがとうございます」

「自分の力を出し切れることを祈ってる」

「はい、頑張って来ます」


 勇気をもらったアイラは、緊張せず教員試験の会場に向かった。教員免許は国家資格で、年に一回だけ試験が受けられる。


「絶対に受かってみせるわ」


 アイラはスラスラと問題を解いていった。ところどころ難しい問題もあったが、とても手応えを感じられる出来だった。


「これならきっと大丈夫だわ」


 アイラは試験を終え、ホッと安心して家に戻ろうとした。しかし、何故か馬車が急に道端で止まってしまった。


 ガタンっ


「お嬢様、すみません。大丈夫ですか」

「ええ、大丈夫よ。何かあったの?」

「ロッシュ領で火事があったらしいです。危ないからこれ以上は進まないようにと、通行止めをされているようです。旦那様たちはご無事でしょうか?」

「え……ロッシュ領で火事? まさかそんな」


 真っ青な顔で報告する御者の報告を聞いて、アイラは狼狽えた。馬車の外を見ると、騎士団で見たことのある顔の隊員たちが数名交通整備をしているようだった。


「顔見知りの騎士がいらっしゃるわ。話を聞いてきます」


 アイラは馬車からおりて、オスカーの部下たちのところへ走った。


「あの! すみませんが、ロッシュ領で火事があったというのは本当ですか」

「アイラ嬢! それが本当です。今、別の騎士たちが向かっています。オスカー隊長も別の任務についていたのですが、もうすぐここに到着するはずです」

「家族や領民たちが心配なのです。ここを通してもらうことはできませんか?」

「お気持ちはわかりますが、駄目です。どうなっているかわからないので危険すぎます」


 騎士たちに制止され、身動きを取ることができなかった。アイラは不安で胸が押しつぶされそうになった。


「アイラ! 君はまだ王都にいたんだな。とりあえず良かった」


 その時、後ろからオスカーの声が聞こえてきた。


「オスカー様、火事が……火事が起きたと。私はどうしたら」


 アイラは動揺と心配で、顔が真っ青になって身体の震えが止まらなくなった。


「ああ、大変なことになったな。だが、大丈夫だ。俺が今から向かう」

「オスカー様、私も連れて行ってください」

「駄目だ。危険だからここで待っていろ。俺が必ずみんなを助ける。信じてくれ」


 オスカーに両肩を掴まれ、まっすぐ目を見つめられた。すると不思議と気持ちが落ち着いてきた。


「わかり……ました」


 冷静になると、今現地に向かってもアイラは足手纏いになることが理解できた。


「いい子だ」


 オスカーは優しい目でアイラを見つめ頭をひと撫ですると、すぐにキリッと引き締まった表情に変わった。


「今から俺はロッシュ領に入る。隊の半分は俺とエイベルの指示に従い、救出と火消しを。もう半分はここで交通整理と怪我人の手当てに当たってくれ。よろしく頼むぞ!」


 大きく響く声で一帯の騎士たちに指示をすると、一斉に「了解」と返事が返ってきた。


「では、行ってくる」

「オスカー様、これは煙避けに使ってください」


 アイラはポケットから自分のハンカチを取り出し、オスカーに差し出した。


「ありがとう」

「よろしくお願いします。気をつけてくださいませ」

「任せておけ」


 オスカーは馬に乗ってロッシュ領へ駆けて行った。アイラは自分にも喝を入れ、自分にできることをしようと思い直した。


 それからはアイラは危険のない場所まで移動して、簡易の救護室で怪我人の手当てを手伝った。次々と運ばれてくる人たちの多さに、火事の被害の大きさを知り胸が苦しくなったが懸命にサポートをした。


 数時間経過した後、全部の火が消えたと報告があった。その後すぐに救護室にエイベルが駆け込んできた。


「アイラ嬢、こいつの手当てをしてやってください」


 担ぎ上げられているのは、ボロボロになったオスカーだった。


「オスカー様っ!」


 アイラは悲鳴をあげて、意識のないオスカーに駆け寄った。



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