暗闇歩き。
ガサカザと草木を掻き分けながら、少女は獣道を進んでいる。
何かを探している訳でもなく、森で迷ってしまった訳でもなく、何か目的がある訳でもなく、ただ何も考えずに道なき道を歩き続けている。
歩いている内に木や枝に引っ掛けたのか、身に付けていたワンピースは所々が破れ、裾には大きなシミを作っていた。
それでも、少女はひたすらに進む。
窪みに脚を取られて体が倒れ、その拍子に膝を擦りむいても、草を掻き分ける時に手を棘で引っ掻いても、その歩みを止めることはない。
少女に目的地はない。
けれど、帰らなければならない場所はある。
月明かりさえも届かぬ森を、大した目印さえもない真っ暗な道を、少女は歩き続ける。
ここで野生の動物と会ってしまったり、この道の先が森のもっと深い場所へと続いていたりしたのたら、少女の命の灯火は、すぐにでも消えてしまうのだろう。
それでも、その脚を止めることなはい。
まるで道が分かっているかのように、少しも迷うことなく進んで行く。
どうして、歩くべき道が、行くべき場所が分かっているのか。
それは、今もなお進み続けている自分自身でさえ、分かっていないのかもしれない。それでも、少女は歩いて行く。
自分の知らない、どこかを目指して。
――細い月が西の空に落ち始めた頃。
少女が歩みを進める時の、ガサカザという何かが擦れるような音は、カツカツという音へと変わっていた。砂や小石、小さな草花の王国だった歩きづらい道は、いつしか、黒くて硬い歩きやすい道へとその姿を変えている。
周りにはだれも居ない。
自分の靴音と、町を吹き抜ける風の音、そして、古い街灯の鳴らす、ジィー――という蝉の鳴き声のような音だけが、夜の町に響く。
うるさい街灯の光を背中に受けながら、脚を動かす。
一歩前へ進む度に、影が縦に伸びる。
すると少女は、顔を上げ、
「……」
はじめて、その歩みを止めた。
頬を伝って、キラキラと光る汗の滴が地面に落ちる。
綺麗にまとめられていたはずの髪はボサボサになって、木の葉やクモの巣が引っ掛かっている。
手のひらは、草か何かで切ってしまったのかボロボロだった。
顔や脚にも、小さな傷が沢山出来てしまっている。
可愛らしい黄色のワンピースは、裾が赤く染まっている。
けれど、少女は笑っていた。
ニコニコと笑い、クスクスと笑い、やがて声を出して、
「――あははっ。あははははっ……!」
それはそれは嬉しそうに、笑っていた。
少女はまた、歩き始める。
それは、まだ見ぬどこかへ着くまで続くのか、帰るべき場所へ着くまで続くのか、はたまた、永遠に終わることのない旅路なのか。
それは、誰にもわからない。
一つ分かるのは、彼女が、今でも歩き続けていること。
それだけだ。
夜中の散歩中、何となく思い付いたものです。
短編として放流します。