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勇者の終わり

一応、まだ神様側視点と最後の神様との対話とラストを書きたいと思っているので気になった方は残り2話お待ちいただけると幸いです。

アゼリアの家にたどり着いた。


今まで通りヘアピンで鍵を開け、アゼリアの部屋に入ると白を基調とした部屋が目に入った。

部屋の隅にはアロマストーンが置かれており

、部屋全体がふんわりとしたローズマリーの香りに包まれている。

ベッドカバーには蝶があしらわれており、この空間が女の子のオシャレな部屋だということを知らしめる。


先程のマーシャの部屋とはまた違った女の子の部屋を五感で感じ取り、ドギマギとした気持ちを持ちながら部屋を散策した。

机の引き出しを1つずつ開けていくと、木の皮を使ったブックカバーがあしらわれた本が視界の隅に入る。

間違いない。アゼリアが魔王討伐の際にも持っていた手記そのものだ。

お目当ての手記を手に取ることが出来、さっそく1ページ目をゆっくりとした手つきで開いていった。


×月1日

今日から魔王討伐のパーティーに参加することになりました。みなさん強そうな方ばかりです……私では足でまといになってしまうのではないでしょうか。うぅ……すごく不安です。でもこれも村の平和のため。不安も沢山ありますが、選ばれたからには頑張ります。


×月3日

勇者様もマーシャちゃんもすごく優しいし、ブロス様はすごく頼もしい存在です。このパーティーならもしかしたら魔王だって怖くない?なんて思うのはまだ早いかしら。でもでもきっと何とかなるって私は信じてます!


ーーーーーー


×月7日

勇者様はとっても優しい方のようです。引っ込み思案な私に沢山話しかけてくれて、迷子になった時もパーティのみなさんの元に連れてってくださいました。最近では私が修行している際にアドバイスしてくださいます。とてもありがたい存在です。ただ、家具のプレゼントだけはすごく申し訳なくて……時々どうしたらいいのかわからなくなってしまいます。


アゼリア……やはり俺のしてきたことは間違ってなかったんだ。

アゼリアの日記には間違いなく「勇者様は優しい 」と書かれている。それを見て、安心感と愛おしさに包まれた。そりゃそうだよな。感謝されることはあれど怖がられることなんて何一つした覚えなんかない。

俺はアゼリアとの思い出を1つ、また1つと思い出していた。

アゼリアに避けられる前はよく一緒に出かけたりすることもあった仲だった。

修行の帰りにはアゼリアとマーシャと俺でカフェに遊びに行った。話題のレストランに行った際は、混雑で席が3人分取れなかったが店員さんにお願いして融通してもらったこともあった。

あの頃、俺とマーシャとアゼリアは出かける時はいつも3人一緒だったし、今みたいに避けられることなんてなかった。

バレンタインで特売のお菓子を運良く買うことが出来た際は、アゼリアにもプレゼントしたし、相談に乗ってもらった時にはお礼に街で流行ってるコスメを買って渡した。

そうやって思い出すと、俺ってプレゼントしてばっかりだな……なんてことも思ったけど、これはおれがやりたくてやってることだ。

アゼリアが喜んでくれれば、それで充分だった。


×月12日

最近、勇者様との距離が少し近い?気がするの。修行の時も私の後ろによく着いてきていらっしゃるようです。勇者様はお忙しい方ですから、お誘いをしてるつもりはないのですが、私とマーシャちゃんがカフェに行くのに後ろから着いてきてらっしゃる様子……これってもしかしてホームシック?でしょうか。そうですよね。勇者様はたった一人でこの世界に来たんだもの。本当はマーシャちゃんと二人で女性限定の執事喫茶?ってとこにも行ってみたいけど我慢我慢……。文通も、本当は文字が苦手だから大変だけど勇者様だって心を痛めてるんだから頑張らないと!


……なっ!なんだこれ!俺たち3人でいつも一緒に行ってたわけじゃなかったのか!

確かに、いつも自然と輪の中に入っていたが、誘ってないのに着いてくるなんて言い方まるで邪魔者扱いじゃないか。

それに文通だって。文字が苦手なら言ってくれればよかったのに。

少しづつ不安が膨れ上がっているのを感じながら次のページへと進んだ。


×月14日

勇者様からチョコレートを頂きました。勇者様本人は特売品だなんて仰ってましたがこれは「恋人に送るチョコレート」と名高い高級チョコレート……意識するべきなのでしょうね……。私にはそんな気持ち全く無かった上にプレゼントのお気持ちにはとてもじゃないけど、釣り合うことが出来ない。うう。明日も修行があるから早く寝なければいけないというのに。気が重いです。


なんだこの反応……?もっと喜んでくれると思っていたのに。気が重いだって?なんでそんなことに。なんで


×月18日

今日はマーシャちゃんと2人で話題のレストランに行く日!ちゃんと2人分の予約もしたし完璧!……ですが勇者様はまた一緒に着いてきてらっしゃるようで、どうしましょ。今日は2人分しか予約していないとは言ったのですが、店員さんに頼めば何とかしてくれるかもと言って引いてくれません。お忙しい中お店の方にそんなことを頼むのも恐れ多いです……なんて考えていたらマーシャちゃんがお断りしてくださいました。はぁ……一時はどうなるかと思いました。



違っ.…!あれは2人がどうしても一緒がいいからと言ったから店員さんに融通を聞かせてもらって……あれ?



×月21日

勇者様から文通で

「女性へのプレゼントは何がいいか」

と相談されたので、街で大流行しているコスメをおすすめ致しました。てっきり別の人に渡す用だと思っていましたが、私へのものだったんですね。どうしましょう。勇者様のお気持ちに答えることが出来ないせいで、罪悪感を感じます。でもこういうことは自分の心に正直にならないといけないし……ほんと。逃げ出したくなるぐらい気が重いです。


そんなつもりはなかった。たしかにアゼリアに相談したのは本人にプレゼントするためだったが、プレゼントでプレッシャーを与えるつもりなんて……


×月23日

最近ふとした時に勇者様に好意を伝えられるかもしれないとヒヤヒヤしています。勇者様は相変わらず私の修行に着いてきてくださるのですが、勇者様自身の修行は大丈夫なのかしら……そういえば私は勇者様が修行しているところを見たことがないわ。私の修行を木の影に座って見てらっしゃるだけで……あれ?

いいえ!考えすぎですね。勇者様はいつも

「修行は疲れるし、毎日が大変」と仰っていますもの!きっと私の知らないところでたくさん修行をしてらっしゃるのですわ。


それは……!俺だって!毎日何をすれば修行になるのかわからない中で試行錯誤しながら修行に励んでいるんだ!時々、他の人の修行を見て、参考にしていただけだ……アゼリアばかりをみていたわけじゃない……はず。


×月25日

ついに今日マーシャちゃんとブロス様にご相談をしました。勇者様からの好意が少しだけ怖いこと。そして、勇者様の今までのプレゼントのこと。そして、修行の際ずっと勇者様からの視線があることを。私の勘違いであってほしいとは思っているんです。でも、それでもいざとなった時の味方がいることをあの瞬間心強いと感じました。


マーシャまで!俺は……俺は。

怖がらせているつもりはない!!何かの間違いだ!!何かの!!!


×月30日

魔王討伐が無事に完了いたしました。マーシャちゃんに聞いたところ、やはり勇者様は修行等は全くしてらっしゃらなかったみたいです。勇者様の幻覚魔法は勇者様以上の実力者の前では効くことがない。最後の戦いでも、魔王の姿は私たちの目には全く変化が無かった……。

私たちが必死で修行をしていて、魔王との決戦に備えている間に彼は何をしたのでしょうか。

少し悔しい気持ちもありますが、任務も終わりました。今回の戦いの記録も国に送ってしまったようですし、もう関わることは無いでしょう。


……っはッ。

無意識に短くなる呼吸を飲み込み、アゼリアの手記を閉じる。

意気消沈となったままの頭で歩き出し、気がついたらベッドにうつ伏せで寝ていた。

どうやって家に帰ったのかもわからない。あまりのショックに意識を手放してしまっていたようだった。


うつ伏せになった状態でマーシャの手記の最後の言葉を思い出す。


「勇者さんは何もしていなかったよ」


ゆっくりと涙を流しながら、無力感と脱力感に襲われた。

そうか。俺は……何もしていなかったんだな。なんの力にもなっていなかったんだな。

アゼリアに気が重くなるような好意を向け、怖がらせ、マーシャには恋愛話の相談ばかりして、ブロスには心配をかける。

自分の乾いた笑い声が部屋に響き、耳に届く。

みんな人一倍努力する人ばかりだ。きっと、俺みたいな奴を許すことが出来なかったんだろう。

そういえば、自分でも思い出すことが出来ない。

俺は修行中、何していたんだろう。

アゼリアの様子を朝一番に見に行って、そのまま気が向いた時に剣を振って、飽きたらアゼリアの修行を見ているだけだった。

そのまま夜が来てまた次の朝が来る。そんな毎日だった。

そうだ。俺はほんとに何もしていなかったんだ。何を頑張った気になっていたんだろう。


「俺は……勇者じゃなかったんだ」



溢れ出る涙をそのままに、おれはベッドの底に沈み込むように眠りについた。


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