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幻惑勇者1

前略。

魔王を討伐して英雄になるはずが嫌われています。


以前まで街の人々は俺を見る度に声をかけ、良かったら寄っていってと店に招かれていたが、今では店に招かれることもなく、買い物に行ってもただの客Bのようなモブ扱いを受ける。


なにより変わったのはパーティーのメンバーだった。


例えば、あそこにいるマーシャは俺と一緒に魔王討伐を行ったメンバーの1人だ。ブラウンの短髪を風になびかせながら、どんな相手でも活発に戦う。俺から見てもカッコイイ女性だ。


魔王討伐の為の修行を一緒にこなし、元々優秀な弓使いであったマーシャは魔王をも傷つけるパワータイプの弓を使えるようになった。


彼女は俺の良き友人であり、互いに色んなことを相談し合う仲であったはずなのだが。


「よお。マーシャ。これからどこに行くんだ。良かったら俺も着いてっていいか。」


「ごめーん。今日はもう帰るところなんだ。」


「そっか。じゃあ送っていくよ。」


「ううん。いいよ!役場に郵便を出してから帰るから。ありがとう!じゃあね。」


この雰囲気を見ると、なんだ普通ではないか。と思うかもしれないが、このように何かと一緒にいることを断られることが増えた。


パーティーのメンバーはあと2人いる。

もう1人が剣使いの騎士ブロス。初めに挨拶してくれた2mを超えるガタイの良い男だ。この男は俺に会えば挨拶してくれるが、元々がそこまで距離も近くなかったため、割愛する。


そして、最後の一人がアゼリアだ。

アゼリアは回復者ヒーラーで白髪のポニーテールを揺らしながら勇者様勇者様!といつも俺を頼りにしてくれる女の子だ。少し方向音痴な所もあるが、能力は優秀で魔王討伐の際も俺たちをサポートしてくれた。

俺はそんな頼ってくれるアゼリアを気に入っていたため、特に目をかけていた。道に迷わないように家まで送っていたし、会わない間は伝書鳩で近況を報告しあい、様子を見ていた。

物に困っている彼女に余り物と称して家具をプレゼントした。

俺たちの戦いをサポートしてくれる彼女をパーティーを代表して俺がサポートしていたのだ。


しかし、そんな彼女も最近はよく俺の誘いを断るようになった。


「アゼリア!もうすぐお前の誕生日だろ??良かったらパーティーにしないか?」


「ごめんなさい。誕生日は家族だけでお祝いしようってなってるの。」


「アゼリア。街に新しくパン屋さんが出来たみたいなんだ。良かったら一緒に行かないか。」


「ごめんなさい。パン屋さんは別の友人と行く約束をしているの。」


「アゼリア。この日よかったらどこかに出かけないか?」


「ごめんなさい。その日は用事があるの。」


いくらなんでも断られすぎじゃないかと最近になって気づき始めた。

一つのことに気がつくと他にも気づきが出始める。そういえば、みんな俺の事を少し避けているんじゃないか。

アゼリアへの伝書鳩も返ってこなくなったし、よく見ると周りの目線が少し冷たい気がする。

どれも可能性に過ぎないが、俺を不安にさせる要因はそれだけで充分だった。こういう時、漫画だと神様とか天の声みたいなのが聞こえて、天啓みたいなもので指し示してくれるのだろうが、俺には神の声なんてものは聞こえたことがないし、俺には関係ない話だ。

モヤモヤする心の内を抑えながらベッドに入り眠りについた。


「関係ない話じゃないですよ。」


またあの何も無い世界。かと思えば、ラベンダーの髪の男が俺の顔をのぞき込みながら声をかけてきた。


「なんだよ。何が関係ない話じゃないんだ。急に人の夢に出てきて。俺は忙しいんだ。」


「ああー。神の声の話ですね。」


「だって今まで1度も…魔王討伐の時だって俺たちの力だけで討ち取ってたし。」


「まあ。そうですね。僕が一応そのポジションだったんですけど、別に何もしなくても大丈夫かなっと思って放置してました。」


何だよそれ。もっと早く言ってくれよ。今までの苦労を思い出しながらふうっと大きく息を吐いた。こんなチート能力あるならもっと有効活用できただろうに。というか、こいつ以前より少しふてぶてしくなってないか?もっとオドオドした感じだったのにもはや見る影もない。


「気づいてなかったとか僕の担当鈍すぎ???まぁ。あんだけ嫌われても何が原因か気づかないくらいなんで仕方ないとは思いますけど。」



「そう!それについて神様に聞きたいことがあんだけど…。」


そうだ。目下の悩みはまさにそこだった。魔王討伐後から対応が冷たい周囲と一瞥するような人々の視線。俺は国の中で肩身の狭い思いをしていた。


「まさか。なんで嫌われているんですかとか俺が何かしましたかとかですか。嫌ですよ。巻き込まれるのはめんどくさいし、八つ当たりされるのも厄介なので。」


「八つ当たりなんかしない!いいから教えてくれ!」


俺の懇願に神様は終始面倒だといった表情を隠すことなく断り続けたが、ついに折れて少しだけ手伝いをしてくれることとなった。


「そんなに知りたければ自分で調べてください。と言っても聞き込みした所で答えてくださる人なんていないと思うので特別に自分の気配を完全に消すことができる神の帽子ゴッドシャポーをお貸しします。これを被れば、姿を見られようと誰も勇者様本人とは思わず別の村人Bだと認知します。」


そこには灰色のくたびれた魔女のようなつばの深い帽子があった。神さまの言うとおり、この帽子さえあれば直接聞かずとも噂を耳にすることができる。


「こんなものがあるのか…これさえあれば。」


神様から受け取った帽子を両手でグッと握りしめ俺は夢の外へと走り出した。ラベンダーの髪を揺らし首を傾けながら男は大きなため息をついた。


「礼も無し。全ての物が自分のために用意されて当たり前なんですね。まあ。いいですけど。ぼくゲームやりたいんであとは勝手にしてください。」


神様の独り言だけがその場に残り、やがて彼の姿もその場から消えてしまった。


目を覚ました時、手元にゴッドシャポーがあることを確認し、手がかりを得るための作戦を立て始めた。


手がかりを得られそうな場所は主に3つ。カルオネとそれぞれの手記。そして、神様だ。


神様に聞くのは最終手段として、まずは、町酒場カルオネに行く。

あそこは、噂好きの主人がマスターをやっていて色んな噂が入ってくるから、1日じっと居座るだけで多くの情報が入ってくるだろう。


2つ目はパーティーメンバーの手記。つまり、日記である。メンバーは全員日記をつけており、ローテーションで国王への報告の伝書を担っていた。一番態度が変わったのは彼女達だったので、彼女達の手記を見ればより核心に迫ることが出来るだろう。


情報源になり得る所をいくつかピックアップしたため、早速朝から帽子をかぶり町酒場カルオネのカウンター席に居座ることにした。


ざわざわ賑わってきたころ、僕のパーティーメンバーの一人である騎士のブロスがカウンターに座りマスターと話をし始めた。


「やぁ。ブロス団長。最近どうだい。」


「まあまあです。勇者様も少しずつですが落ち着いてきてるようで、特に2人からも相談はありません。」


「なんだそりゃ。まあ。落ち着いてるなら何よりだよ。」


「しっかし団長さんよお。アゼリアちゃんもモテるから大変だよな。」


同じくカウンター席にいた男達も話に加わり始めたようだ。


「そうだよなあ。まあ人に好かれることは素晴らしいことだが、ああもまとわりつかれちゃそりゃ怯えちまうよ。」


「それにアゼリアちゃんも気になる奴がいるって噂だぜ。」


「まさか勇者様か???」


「バッカ!!違ぇよ!いやでもまだ確信は得てないから情報は売れないぜ。」


「私がその事で頭を抱えている時に全くこいつらは…。」


「まあまあ。ブロス団長。気にするなよ。こいつらはただの噂好きさ。」


ギャハハと汚い笑い声が酒場に響き渡り、話はまた別の方へと変わる。

今日1日潜伏してみたが、俺に関する噂はこの位だった。もう1つ気になることといえば、街の女の子達が店に入る度に「今日も勇者様はいないわよね」と言いながら入ってくることだ。なんだ?俺を探しているのか?後で話を聞きに行くからと頭の中で人物をメモした。


アゼリアは誰かに付きまとわれており、困っていたのか。知らなかった。悩みがあればいつでも聞くとあの子に言っていたのに、あの子は相談できないくらい苦しんでいたのか。なんて不甲斐ない。

そういえばあの子に想い人が居ると言っていたな。もしかして俺の手紙も相手が気にするから返せなかったとか?そうかもしれない。とにかくまた今度話を聞きに行こう。



そんなことを考えながら家まで歩き、今日あったことを手記に残した。


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