プロローグ前
初投稿です。思いつきで書いたものです。少しでも気になってくれた方は最後まで読んでいただけると幸いです。
俺は30歳アルバイターで役者の卵だ。
見た目はぽっちゃりだが、顔は2枚目で役者としては使える顔。そんな自己肯定感MAXの男が俺である。
両親は一人息子である俺を蝶よ花よと褒めて育てた。
俺が役者を目指すきっかけとなったのだって母が見ていたドラマのセリフを真似た際に家族が「才能がある」「素敵よ」とべた褒めしてくれたからである。
しかしそんな親も今では30過ぎでバイトをしながら夢を追う俺に向かって冷たい視線を向けながら、諦めて定職につけば?と言う。
そんな簡単に諦められるものでもないから未だに追い続けてるのにきっかけを作った家族がそれを言ってしまうのは道理が違うのではないか。
そんなことを思いながら、いやいや最初の頃は家族だって期待をしてくれていたんだから今も心のどこかでは応援してくれてるはずと自分のやる気をアップさせ、今日もバイト終わりにレッスン場に向かう。
レッスン場では役者の卵が大勢いて、事務所に所属した者は卒業となる。
俺はこの中では一番の古株だから頼られることも多い。
俺ほどの実力があれば所属しようと思えば出来ないこともないが、俺が居ないと駄目だと助けを求める子も多いし、もう少しここに居るのも悪くない。そんなことを考えながら今日も夜遅くまでレッスンに取り組んだ。
その帰り道、ひとりで駅の近くを歩いていると同じレッスンを受けている女の子がいた。周りをキョロキョロしながらスマホとにらめっこをしている。見たところ、道に迷っているようだ。仕方ない。声をかけに行くか。
横断歩道を渡りながらその子の名前を呼び、そこまで早足で掛けていく。その瞬間、大きなトラックが横に来て
。。。
女の子がこちらを見ながら叫んでいる。頭が熱い。周りには血が落ちている。…血?誰の。
まさか。俺の…???
30歳アルバイターであり役者の卵である俺の人生が終幕した。
目を覚ますと、目の前に痩せこけた男がいた。
服はボロボロでこちらを伺うように覗き込んでいる。男のラベンダーの髪は毛先をハサミで雑に切ったかのように肩の辺りで毛先がバサバサと浮いている。
なんで俺…死んだはずじゃなかったのか。ここはどこだ。真っ暗になった辺りを見渡しながら、重くなった体をゆっくり起こすと男が話しかけてきた。
「ヒッ…おおお起きた!!!!違う僕が案内しないといけないんだった...!よっ。ようこそ!!!真のゆうりゃよ…!」
あっ。噛んだ。
フラフラと漂っているようなこの空間の中で不気味な存在だった男の人間味が見え、少しだけ安堵した。
男も同じように思ったのか、顔を真っ青にして後ろを向きながら何かをブツブツと呟いている。
「ハアアアアア。僕ったらいつもこういう所でミスしちゃう。だから何もうまくいかないし、ずっと臆病なままなんだ。ほんと牛に蹴られて地面に埋まればいいのに…。つら…。ニートになりたい。」
「ああ。あなたも可哀想ですね。僕みたいなやつに見つかるから勇者なんて危険な仕事しなきゃいけないんだ。」
男が心底同情するような目線をむけてくるが、俺はまだ何も分かっていない。ここはどこで、今から何があるのかもわからない。てっきり、閻魔大王の選定のように地獄か天国か決められるのかと思ったが、そうでもないらしい。
「あっ。そそそそうですよね!こんなつまらない話じゃなくて本題に進めって感じですよね!!
…端的に言うとあなた勇者として異世界から呼ばれてるから行ってきてください。」
この男はもしかして、心を読めるのかと思った次の瞬間には男の雰囲気が一転し、特大の爆弾が落とされていた。
俺が勇者だと?あのRPGゲームとかでよく聞く勇者。いいのか。俺がそんなビッグネームを背負ってしまっても突然の言葉に焦りとともに”勇者の選定”という特大オーディションに知らず知らずのうちに合格していたという事実に高揚感を抱いていた。
「俺が…勇者…?」
ドクドクと高鳴る胸を抑えながら、男に話を続けるよう促す。
「ヒィッ…喋った。そうそう。あなたに授ける祝福…特殊能力だけど、演技…?が得意みたいだから敵味方問わず、幻を見せることができる能力にしてる…あなたの演技力とこの力で最高の勇者になってください…。ぼぼぼぼくからは以上っ!!
では。頑張って下さい。」
男が俺に向かって説明すると、俺の身体は半透明になり新しい世界へと旅立って行った。