表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

9 王女との契約

-数時間後-


すっかり夜がふけた頃。

俺たちは王妃様と共にギルドマスターの執務室に来ていた。

ギルドはまるで来るのが分かっていたかのように既に人払いが済んでおり、一部の関係者を除いてがらんどうとしていた。

受付嬢達はかなり緊張しているのか顔が引き攣っている。


「お待ちしておりましたレミリア陛下、お目にかかり光栄の極みです。」


ラースは膝をついて頭を垂れた。


「顔をお上げなさいラース・イルゼル殿。こんな格好でお恥ずかしいです。」


「は、とんでもございません。」


女王は変装のために軍服を着ていた。


ラースは顔を上げるとちらりと横に立っていたアースを見る。


目があったアースは気まずそうにサッと目線を逸らした。


「殿下。私の愚弟がとんだ失態を。相手が悪かったと言い陛下の身を危険に晒してしまい大変心苦しく思います。愚弟の失態をお許しください。」


「いえ、アースはその身を犠牲にして守ってくれました。立派な騎士です。どうかご子息を労ってあげなさい。」


「愚弟を労っていただき感謝の極みに存じます。」


「へ、陛下…!ぐっ…ありがとうございます…」

アースは涙を堪えながら震えた。

嬉しさと悔しさが入り混じっている様子だった。


それにしてもギルマスの息子だったとは。世の中狭いな。


「さて、今回の功労者からお話を聞こうではありませんか。」

ギルマスの視線が俺に刺さった。


「はい。まずは状況報告致します。」


………


ひとしきり説明をし終わった後全員が難しい顔をしていた。


「うーむ…まさか盗賊を全員生捕りにしてしまうとは…事情はそいつらから聞いた方が早そうだな。レイ殿今連れてきてくれるか?」


「良いですよ。胴体と左腕がくっついているんですけど安全上首だけの方がいいですかね?」


「…待て。今なんと…」

「リーヤはアイシャを連れて隣の部屋に行ってなさい。人払いを」


「わかりましたお母様…」


受付長のメアさんに連れられて王女2人と護衛2人が退席した。


今この部屋には俺とラース親子、女王の4人しかいなかった。


「私の術は特殊でして、身体の一部を生きたまま出したり消したりできるのです。

盗賊達はリーダー格を除いて首だけの状態で収納されてます。

リーダー格は周りと見分けるために胴体の一部がくっついてる状態です。」


「な、なるほど…ではリーダーの首を出して貰おうか…」


ラースはドン引きしながら現実を受け入れることにした。


「では」


何もない空間に裂け目ができるとリーダー格の首が出てきた。


「イデデデ!離せ!」


「こいつです」


「なんと言うことだ…」

「本当に生きてるのか…?」

「まぁ…」


三者三様の驚き方をしていたがすぐにギルマスが動いた。


「貴様が陛下を襲った盗賊のリーダー…ゲル・ニッケルスだな?」


ラースは明らかに殺気に満ちた様子で睨みつける。


「ふんっ!だったらなんだよ」


「貴様…!」


ラースは首を掴むと思い切り机に叩きつけた。


「ぐぁっ!つぅ…!」


「貴様、慎重に口を開け。なぜ陛下を襲った。」


「教えるかバカがよ…俺は口が硬いんだ。」


「そうか…ならこちらにも考えがある」


ラースはスッと立ち上がると桶を持ってきた。


「出よ熱湯」


そう唱えると桶に熱々のお湯が張られた。温度は80度くらいだろうか。


「風呂にでも入れてくれるのかい?へへへ」

盗賊は全く怯む様子なくふざけている。


「そうだな。その臭い頭を消毒してやろう。ふん!」


「ガアアアアアア!」


盗賊の顔面はアツアツのお湯の中に沈められた。

目を開ければ失明、口を開ければ大火傷を負うだろう。


3秒沈めると引き上げた。


「話す気になったかな?」


「あ、熱ぃ!!いてぇよぉぉぉ!ゴバ!」


再び熱湯に顔を突っ込まれる。


何回か繰り返した頃には髪はチリチリになり茹蛸のようになっていた。


「話せ。もう一度突っ込むぞ」


「は、話す…話すから…やめてくれぇ…」


事情をひとしきりゲロって貰うと気になる話が聞けた。


どうやらアジトに覆面を被った謎の男達が現れ交渉を受けたらしい。


指定の馬車を襲って要人を攫えば多額の報酬をくれると約束されたらしい。


俺の想定通りの話だったので、一度次元コンテナに突っ込んでから後日、肉体を戻してから騎士団の詰所にぶち込むことにした。


「結局主犯は分からず仕舞い…申し訳ありません陛下。こちらでも情報収集致します。」


「ありがとう。これはこちらの問題ですので既に伝令を出しました。

数日中に事件の捜査が始まるでしょう。

この話はここで一度終わりにしましょう。私がここにきたのにはもう一つあります。」


再び空気が張り詰める。


「分かっております。大森林の結界の件ですよね。」


「その通りです。先日こちらでもそれを感知し最も大森林に近いギルド、つまりここに事実確認と調査を依頼しに来たのです。」


なるほどな…だからそれを知っていて急遽手の空いてた俺に街道の安全確保をさせに行かせたのか…

だが、なぜ王女が直々に…


「伝承によればあの大森林に存在するダンジョンの最深部には大魔力が無尽蔵に湧き出るコアがあったそうです。


そのコアからは強力な魔物を生み出し続けられ、200年前は王都が甚大な被害をだしました。


結界が解けた今、その魔物が解き放たれてしまった…

そう考えるのが妥当では無いでしょうか?」


「確かにそうですね…あまり考えたくありませんが…」

ラースは眉を顰めながら答えた。



まぁ、普通はそう考えるわな…

俺が徹底的に全滅させたけど…

よかった〜俺の予想は正しかった〜


さらに王女は話を続ける。


「魔物も脅威ですが、別の問題もございます。

コアの存在です。

結界が解けた今、魔物さえ対処できればコアにたどり着くことが可能です。


つまり、今コアは無防備な状態です。


仮にもしもそのコアが無傷だったとして、それが何者かに奪われたら王国の危機です。

現にこの200年間、他国はコアを手に入れようと何度も王国に侵入してきましたが、あの結界に阻まれてきました。


大森林は王国の領土であり、その所有権は王国にあります。

迅速に大森林に最も近いギルドが調査隊を編成、派遣してダンジョンを管理下に置いていただきたいのです。」


そう言うことか………


ってことは俺、ヤバいんじゃね?

コア持って帰って来ちゃったし…


ラースはしばらく考えていると何かを決断したかのように口を開いた。


「分かりました…と言いたいところですが、このギルドに過去に王都を滅ぼしかけたあの森の魔物をどうにかできるほどの冒険者は片手で数えるほどしかおりません。

いかんせん田舎街なので…

魔物の数、脅威度、その全てを把握してからで無いとこちらの戦力はいくら王女陛下の頼みといえども裂けません。」


その通りだ。

敵の戦力もわからずに、数少ない戦力をぶつけるのは死ねと言ってる様なもんだしな。

それにここのギルドの最強ってあのタコ助だろ?

普通に考えれば無理な話だ。


まぁあの森はもうただの荒地なんだけど…



「分かっております!しかし今頼れるのは貴方達しか居ないのです!

こちらの主力は聖国との小競り合いで動かせません。

こちらが今持てる駒は少ないのです!

今貴方達に動いて貰わなければ王国が…民の命が…うぅ…」


王女は顔を覆って泣き始めてしまった。


「陛下……!……分かっております…!分かっておりますが……!」


ラースも顔を歪めて苦悶していた。



仕方ない……



「その心配はない!」


その声に皆がこっちを振り向いた。


「ど…どういう事ですか?レイ様…」

「レイ殿!何を言い出すのですか!」

「……説明してくれるかな?レイ殿」


「ゴホン…まず先に結論から言おう。あの森にはもう魔物は1匹もいない。」


「…へ?」

「な、なぜ貴方が知っているのか!」

「1匹も…まるで見て来た様な口ぶりですな…そうか貴方は…」


「そうだ!俺は東から来た…東とはどこか?リーデン王国?知らんな、行ったこともない。

だとしたら?そう、俺は大森林から来た!」


突拍子もないカミングアウトに、場が凍りついた。


「大森林から来た?いや…何を言ってるんだレイ殿。あそこは200年前に発動した結界があって誰も入れないし出れないんだ。

辻褄が合わないではないか!」


アースは真っ当な反論をすると、ラースが続いた。


「愚弟の言う通りだ。君の言うことが本当なら君は200年前に結界に封印され、その間結界の中で暮らしていたことになる。確かに長寿な種族なら可能かもしれない。まさか君はそうなのかね?」


確かにそう考えるのが普通だ

ファンタジー世界なんだ。数百年生きてる種族もいるだろう。


「いや俺は貴方達と同じ普通の人間だ。」


さっきより空気が変になって来たのを感じる。


「では…どうやって…あ!そう言うことですね!レイ殿は大森林に近い場所で生まれ育ったと言うことでしょうか!」


女王は名推理でもしたつもりなのかドヤ顔している。かわいい。


「それも違うのですよ陛下。そろそろ答え合わせといきましょう。

俺は一年半前、目が覚めたら大森林の中心部に居ました。

そこからは魔物に殺されかけながらも生き延び数ヶ月前に件のダンジョンを発見し攻略しました。それでなぜか結界が解けて昨日辿り着いたのがこの街だったと言うわけです。」


説明を終えると場が静まり帰った。

3人とも目を見開いてこちらを凝視している。


「…………」

「…………」

「……レイ殿…」


「分かって貰えましたかな?」


俺はドヤ顔を決めた…が



「すみませんレイ様…そのようになるまで気がつかなかったわたくしをお許しください…」


「レイ殿、疲れてるんです。今日はゆっくり休んでください…盗賊退治お疲れ様でした…」


「すまんな…無理な依頼を頼んでしまって…まだ旅の疲れが抜けてないのだろう。今日は帰って明日話を聞くとしよう」


「は?いやいやいや!本当なんですって!!」


3人とも疲労で頭がおかしくなってしまった人を見るような哀れみの目で俺を一刻も早く帰らそうとしたのだ。


「レイ殿、その話が本当だとして。証拠があるのであれば我々も信じざるを得ません。何か証拠を出して頂かないと納得できませんよ。」


アースは呆れた様子で正論パンチをかましてくる。

だが俺にはちゃんと切り札があった。



「じゃあこれで信じてくれますかね?」


空間が割れると大きな水晶がテーブルの上に置かれた。


「こ、これは…!!」

ラースが驚いた様子でその水晶を見た。


「ん?綺麗な石だと思いますが…これは一体…」


「これはまさか…彗龍大水晶…!」


「陛下!ご存じなのですか?」


「知っているも何も…これはセファダンジョンのコアです…王家に伝わる書籍に書かれた絵と全く同じです!間違いありません!」


その言葉に一同は驚きを隠せない。


「な、なぜそれをレイ殿が!!」


「なぜって言われましてもね…ダンジョンを攻略したって言ったじゃないですか。だからですよ」


「で、では本当に…レイ殿はあの大森林から…?」


「そうだって言ってるじゃないですか!もうあの森には何もいませんし!何もありませんよ!」


「もし仮にこれが紛い物だとしたら…どうなるか分かっているのですか?レイ殿」


ラースの目が一段と厳しくなる。


「その通りです。伝承の通りであれば、この水晶はどのような方法を用いても動かせなかったとあります。

一体どうやってこれを持ち帰ったのですか?説明していただきます。」


王女も一転して険しい目つきに変わった。



「それは私にも詳しいことは分かりませんね

魔物全滅させてダンジョン攻略したら普通に手に入ったもんで」


「そうなの…ですか…魔物を全滅……そうです!魔物です!一体どのくらいの数を全滅させたのですか?してその方法は!」


王女が半ば興奮気味にずいっと顔を近づけて来た。

いい匂いがした。


「約80万匹、種にして約300。修行で討伐したのが約20万。1日30〜40匹は狩ってましたからね。

最後は大火力で森ごと焼き尽くしました。」


さらっと答えると3人の口が地に着く勢いであんぐりと空いた。


「は、80万?う、嘘ですよね?」

「ハ、ハハハ…レ、レイ殿も冗談がお上手で…」

「や、やっぱり君は疲れてるんだ…そんなことを成し遂げたら君は伝説級の英雄を遥かに上回るぞ…そうだ!」


ラースは思いついたように手を打った。


「レイ殿、君のステータスを見せてはくれないか?ステータスは個人情報そのものなのでギルドでも詳しい情報を本人の許可無しに見ることはできないのだよ。それを見れば皆納得する」


ステータス?ゲームのステータス画面みたいなものか?


「え、構いませんけどどうやるんです?」


「ま、まさか君はステータスの見方まで知らないのか!?これは参った…急に真実味を帯びてきてしまったぞ…」

ラースが困ったように髭を撫で下ろした。


「は、ははは…幾分世間知らずなもので…」


「仕方ない。ここに手を置き給え。」


ラースは自分の机の上からタブレットのようなものを持ってきた。


「これに手を置くとこの画面にステータスが表示される。やってみてくれ。」


「分かりました。ここに手を置けば良いんですね?」


手を置くと画面が光始めた。

自分の中から情報が抜き取られていくのを感じる。


しばらくすると光が収まった。


3人はタブレットを真剣な面持ちで見つめた。


-ステータス-


名前:如月アオ(24)

種族:人間

職業:?

レベル:計測不能

状態:平常


HP:計測不能 MP:計測不能 腕力:計測不能 抵抗: 計測不能 知力: 計測不能 器用:計測不能


スキル

計測不能


ユニークスキル

計測不能


称号

計測不能



「これは…一体…」

「計測不能……初めて見る表示だ…」

「エラーでしょうか…」


「計測不能か…これじゃあ何も分かんないじゃないですか。壊れてるんじゃないですか?」


「こんなことは初めて起こった…これは問題を起こした冒険者の取り調べの際に使う鑑定装置なんだがね。どんなに鑑定偽装スキルが高くてもそれを無効化してしまう魔道具なんだ。」


「レイ殿、それでは今まで討伐した魔物の素材があるはずです。それをいくつか見せていただきたい。」

アースが機転を効かせた。


「なるほど。でも何を出しましょうか?私もそこまで積極的に素材を集めてた訳じゃありませんよ?」


「代表的なものは魔石でしょうね。魔物の核をなす物で魔物であるなら必ず存在します。」


「あぁ魔石か。ちょっと量多いから下がった方がいいですよ」


「は?どう言う…」


空間が裂けるとジャラジャラと大量の魔石が土砂崩れのような勢いで出てきた。


「うわ!な、何だこの量!?」

「キャア!」

「ぬおっ…こ、これはすごい…」


床を埋め尽くし出し切る頃には腰の下辺りまで

魔石が積まれていた。


「う、動けない!イタタ!指に刺さった!」

「レイ様!早くしまって下さい!もうわかりましたから!」

「この魔石は…凄いぞ…この魔石も…この質、この魔力…」

ラース以外はあまりの魔石の量に悲鳴を上げていた。


「多分雑魚のやつはこれで全部ですかね。次はもう少し大きいサイズを…」


「まだあるんですか!?もう十分ですから!チクチクします…」

困り顔の王女様もなかなか良かった


お望み通り全ての魔石を回収するとようやく落ち着いたようだ。


「魔石風呂は如何でしたかな?」


「はぁ…まさかこれほどまでとは…換金したら文字通りギルドの予算が尽きてしまう程ですよ」

ラースは呆れ顔で笑った。


「私の騎士団でもこれほどの量の魔物は狩ったことはありません…」


「それもそうですがこれほどの量の魔物があの結界の中にいたんですね…

これが解き放たれていたと思うと…」

王女は深刻そうな表情を浮かべた。


「まぁ結界内の魔物は全部狩り尽くしましたので心配はありません。

これで信じてもらえましたかね?この石は本物のコアだと。」


「で、ではこれを一体あなたはどうするおつもりなんですか?」


「もちろん私の好きなようにします。私が発見して私が回収したんですからね」


あからさまに王女の顔が険しくなる。


「レイ様、確かにあなたが回収したものならあなたの物ですが、これは一個人が所有するには手の余る代物です。

このコアはあなたが想像しているよりも遥かに危険なものですよ。

なので、王女たるわたくしが責任を持って預からせて頂きます。よろしいですね?」


今までのお淑やかそうな王女様とは打って変わって強気な態度だ。

これが本来の王女様なのだろうか。



「おっと。ちょっと待ってください陛下。誰がタダでこれを渡すと言いましたか?

回収したのは私であって所有権は私にあります。それをこれから話し合って頂かないと…それまでコレはお預けです。」


「なっ…!」


机が裂けると大水晶が吸い込まれていった。


「レ、レイ殿!あなたは何を言ってるのか分かってるのですか!」

アースは青筋を立てて怒鳴りつけてきたが、王女がそれを制止する。


「待ちなさいアース。確かに大水晶を回収したのはレイ様の手柄です。それに元を正せばこれは突然発生したダンジョンにあったものです。

王国民法の第125条には[自然発生したダンジョン内で得た物は法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。]とあります。


ただしここが肝心です。法令の制限内にてと言うことです。

つまりこの国の王女であり、法である私がそれを献上せよと命ずれば国民であるならそれをいかなる理由があろうかと渡さなければいけないと言うことになりますね。」


王女はニッコリととんでもないことを言った。

可愛くても王女は王女か…ならば!


「リバースカードオープン!それが国民であるならの話であり、それは俺には該当しない!

俺は住所不定無職!それにどこの国の国民でもない!

よって陛下には許可なく俺の所有物を不当にぶん取るのは違法行為であると進言する!」


「レイ殿!先ほどからいくらなんでも陛下に対して無礼であるぞ!」

アースが横槍を指してきた。


王女の顔が一瞬曇ったがすぐに笑顔に戻った。


「確かにそうですね…ですがレイ様の望み通りの要求が通ればその水晶を渡してくれるのですよね?」


来た来た…


「その通りです王女様。ですが…この世でその水晶の使い方を知るのは私しか居ないと言ったら?」


「な…どう言うことでしょうか?」

王女の眉間がピクピクしている。


「何せダンジョンは最深部に至るまで全ての情報を収集した後木っ端微塵にしてしまったので…もうその正規の運用法を知るのは私しか居ないんですよ。今更陛下が調査団を送ってもそこにあるのは瓦礫の山…

困ったな〜それを知らなかったらただのデカくて珍しい石しかなりませんよ〜」


もちろんあの石の詳しい使い方なんてのは知らない。


「くっ……フフフ…ハハハ!やはりあなたは面白いですわねレイ様…王女たるわたくしを相手に優位に交渉をしようなどと。

分かりました。やむを得ませんが仕方ありません。

貴方を一時的に拘束します。」


「は?」


バンバン!と扉が勢いよく開くとヅカヅカと護衛たちが剣を構えて取り囲む


「貴方は今この国の機密を保有する人間の1人…

この石をただ持っているだけであれば、そちらの要求に応えてそれ相応の褒美を用意し解放することを考えていました。

しかし、貴方はその運用法を知る唯一の人間とあればこちらで貴方を管理下に置かねばなりません。

もちろん褒美は与えますが…あなたには首輪をつけてもらうことになります。フフフ…」


女王は不敵に笑った。


「なるほど、この俺を飼い犬にしようと…ハハハ!甘いですよ…女王様…あなたはまだ気がついて居ないんですか?」


ギロリと女王を睨むと一瞬その表情が曇った。


「…何が言いたいんですか?」


「あなたは変身状態の俺をみた…光ってのは見えたら既に身体に届いていると言うこと…そしてそれを操れるのがこの俺…つまり」

パチンと指を鳴らすと


女王の股下から青く光る砂がこぼれ落ちた。


「何を…キャア!」

女王は顔を真っ赤にして下半身を押さえつけた。


「どうやら首輪をつけられていたのは女王様の方でしたね」

俺はニヤリといやらしい笑みを浮かべた。


「へ、陛下!どうされたのですか!!」

「き、貴様!何をした!」

護衛が狼狽えてワタワタしながら剣を向けてくる。


「ふ…不敬です!!不敬の極みです!!わ、わたくしがこんな辱めを!!うぅ…」

耳まで顔を真っ赤にしながらちょっと泣いてしまった。

泣き顔もかわいい。なんかゾクゾクする。


「と言うわけで女王様。あなたはもう私の支配下です。私がもう一度指を弾けばその立派な軍服もひん剥けますけど。私の要求聞いてくれますよね?」

ゲスな笑みを浮かべて女王の顔を覗き込んだ。


「わ、わかりました…要求を飲みます…か、返してください…」

女王がか細い声で答えたが


「おんやぁ〜?聞こえないなぁ〜もっと大きな声で言ってもらわないと〜ナニを返して欲しいんですか〜?」

さっきより一段とゲスな笑みで聞き返した。

さっきまで脅迫されてたお返しだ。


「くっあなた!どこまでわたくしを…し、下着を…わたくしの下着を返してください!」


「へ、陛下!!おやめ下さい!!」

「貴様!極刑だ!我らの陛下を辱めるなど!」

「見てられんな…」

「陛下の…下着…」


「うぅ…」


怒ったり呆れたり泣いたりなんか興奮してる奴もいたがようやく優位な立場で会話ができそうだ。


王女に下着を返した後、皆がテーブルについた。


「さてさて、王女様。私の要求はただ一つ。自由です。」


「自由…ですか?」


「その通りです。あなたが知っての通り俺は1人で戦争が出来るほど脅威的な力を持った人間です。

今後俺の力を狙って色々な欲深い奴らが狙ってくるでしょう。

それに対抗するために俺に自由な活動ができるだけの権力を与えてもらいたい。」


「それは爵位が欲しいと言うことでしょうか?」


「違いますね。俺は貴族社会に全く興味はありません。面倒ごとは嫌いなんですよ。そこであなたの出番だ。

俺を女王特権が行使できる特例の冒険者として扱って頂きたい。扱いは女王と対等。全てにおいて優遇して頂く。」


女王はしばらく考えたあと口を開いた。


「つまり、なんの職務や責任も負わずに好きなことを好きなようにできる特権だけが欲しいと?」


「その通り。恩に着せるつもりはないが、成り行きとはいえ俺はあなたとその家族、そして部下の命を救ってるからな。

命の恩人に何かを求めるほど女王様の懐は狭いのですか?」


「……悔しいですがあなたの言う通りです。ですがこちらからも条件があります。」


「どうぞ」


「この国を愛し、守っていただく事です。

あなたの力量は分かりました。ですがいくら特権を与えてもそれが活用されないので有ればこちらとしても利益がありません。

特権の代わりにこの国の用心棒として雇われてください。」


女王と俺は数分睨み合った。


「……分かった。万が一この国の治安維持組織や騎士団でも対処不能な何か大きな事件が起きれば手を貸そう。

ただし特権が継続されなければ俺は他の国に簡単に鞍替えするし、この彗龍大水晶とやらも流すと言うことだけお忘れないよう…」


「………いいでしょう。レイ・キサラギ殿。交渉成立です。追ってこちらのものが特権の詳しい内容をまとめてそちらにお伝えします。何かご不満があればそちらの者にお伝えください。」


俺と女王は握手した。

なんか握られる手にやけに力が入ってた気もするが気のせいだろう。


「いいのですか陛下…」


「仕方ないでしょう…交渉は結局始まる前から既に決まっているものなのです…今回はこちらの分が悪すぎました。今日のところはお暇させて頂きます。アース、帰りますよ」


「は!」

「お気をつけて…」


「俺もお暇しよう。さらば」

空間が裂けると俺は姿を消した。


…………


「ふぅ…」


1人部屋に残されたラースは自分の椅子に疲れたように腰掛け脱力した。

自慢の髭を撫で下ろすとグラスの酒を飲み干した。


「全く…とんでもない狂犬を拾ってしまったな…」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ