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王都の影

-馬車-


「………ぐっ…あんの男!!ちょっと顔が良くて強いからって…この!!このー!キー!」


女王様御乱心だった。


「お、お母様落ち着いて…一体あそこで何があったのですか…」

長女のリーヤはオロオロと取り乱す母を宥めた。

妹は既に熟睡している。


「な、何でもないのですよリーヤ。何でも…ただちょっとお仕事が上手くいかなかっただけなのですから…」


この短時間で盗賊に襲われて命の危機があり、それをレイに助けられて舞い上がっていたら、その男に一方的に不平等な契約をさせられてしまったのだ。


王女は今、感情のジェットコースターで情緒がぶっ壊れていた。


「そう…ですか…お母様、辛い時はわたしがいます。だから無理しないで…」


「リーヤ…!ありがとう…怖い思いさせてごめんねぇ…(あの男にはいつかギャフンと…)」



頑張れ女王!怒っていてもかわいいぞ!




-1週間後-


気持ちのいい朝だ…

こうも目覚めの良い日は久しぶりだな…


ちらりと豪華な寝室の壁を見ると先日特使から貰った特権の証明書が掛けられていた。


ここは王都一等地の別荘地。エデンフリル。

ここには王国の中でも選りすぐりの金持ちや権力者が休暇を利用してくる閑静な別荘地だ。


眺めが素晴らしく、近くにはなんでも揃うオシャレな街がある。


俺が女王にお願いして与えられたのは女王の別邸の一つ。

極めて豪華絢爛な作りでまるで王族になったような気分を味わえる素晴らしい屋敷だ。


俺は今や王国でも随一の裏の権力者になった。

何せあの女王と対等な扱いを受けられるのだから。

実質やったことと言えばお国のトップを助けた見返りに武力をちらつかせ、その身と未知の財宝を人質にとって手に入れた地位だ。


はっきり言って外道なやり方だが、国籍も住所も持たない社会的部外者がこの世界で生き残るにはやむを得ない。


田舎でスローライフとか、爵位貰って貴族社会で生きるとか全く性に合わない。


第一俺は自由が一番好きなのだ。

それならば利用できるものは利用しない手はない。

緩いやり方だと足元を掬われる。


あの見た目は可愛らしい女王も政治家なだけあって強かだ。

半端に隙を見せるとつけ込まれる。

実際、便利な飼い犬にされかけた。


この屋敷は犬小屋ではなく、喉元に刺さったナイフのようなものだ。


いつでも寝首を掻けるが故に向こうも扱いに慎重になり、半端なお使いには行かされないしこちらから断れるだけの存在になった。


今頃向こうは頭を抱えているだろうがそれで結構。

適当に国のゴミ掃除でもしてれば向こうも気が治るだろう。


この絶妙なバランスが丁度いいのだ。


そんなことを考えていると部屋のドアがノックされ、華奢で若いメイドが入ってきた。


「失礼致します。ご主人様、朝食のご用意が出来ました。」

「分かったすぐ行く」


この屋敷には専属の王族お抱えのメイドが派遣されている。執事は間に合ってるから要らないと言ったのでいない。

年齢も10代後半から20代後半までの教養のある美人を揃えろと言ってある。


もちろんウチのメイドも居るが今は屋敷の見回りと警備にあたっている。

しばらく本物のメイドさんを堪能したいところだ。


階段を降りダイニングに行くと数人のメイドと1人分の朝食があった。


「おはようみんな」

「「おはようございます。ご主人様」」


う〜ん良いねぇ

こう言う暮らしに憧れてたんだ〜

やっぱり生身の人間は最高だ!


ひとしきり美味しい朝食を食べると着替えて外に出かけた。

今日は王都の観光に行こうと決めていたのだ。


そう出掛けようと門を出ると身なりが良く恰幅のいいマダムが対面から歩いてきた。


マダムは目が合うと軽く一礼し、何も言わずにさっさと行ってしまった。


「…なんだ?」


まぁ良いや


エデンフリルは小高い丘の上にあり、上に行けば行くほど土地の値段が高くなる。

俺からしてみればそんな生活しにくい土地に価値があるとは思えないがどうやらここでは普通らしい。

素晴らしい邸宅達を見ながら緩やかな坂道を下って橋を渡り、適当に歩いていると街に出た。


さすが王都一の街。

どこも清潔感に溢れなおかつオシャレで品がある。

人の身なりも良く、治安も安定しているらしい。


「良いね〜住みやすそうだ。お、良さげなカフェ発見!」

良い香りが漂ってくるお洒落なカフェテリアには上品そうな貴婦人たちが談笑していた。


前世でもカフェ巡りが趣味だったのでこの世界のカフェはどんなものか興味が湧いたのだ。


「いらっしゃいませ〜何名様でしょうか?」


「あぁ一名…え?」


俺はその店員に釘付けになってしまった。

白銀の髪にそこからぴょこっと飛び出る狼のような耳とつぶらな青い瞳

これは…


「お客さま?」

店員の女の子が首をかしげる。


「あぁ何でもないです。席は空いてますか?」


「はい!こちらへどうぞ!」


案内された席は窓際の2人掛けの席だった。

ガラス張りの窓からは外の景色がよく見える。


「ご注文がお決まりしだりお呼びください!では!」

女の子は髪色と同じ色の尻尾を振りながら他のお客さんの注文を取りに行った。


「獣人か…本当にいるのか…」


俺がこの世界にきて初めて見た獣人だった。

それにしてもめっちゃ可愛かった…お知り合いになりたい…


今さら気が付いたのだが、このお店の店員は獣人しか居なかった。

とても癒されて結構なのだが、どうも引っかかった。


まぁそんなことより何を注文するかだ。

この世界に来てからまともな手の込んだ甘味を食べてないし、美味いコーヒーや紅茶も飲めてない。

大森林では合成コーヒーに合成ケーキのセットをたまに食べていたが、適合率の影響で本物には及ばなかった。


大森林にいた頃はセントラルの力を頼らず練習がてら森では手に入らない食料の何品かはベクターを使って作っていたのだ。


力を攻撃や防御に使うことには慣れていたが、食品のような複雑な物は相当難しいので最初のうちはひどい物だった。


結果、向こうで最も食べていたのは天然の牛っぽい魔物の肉料理だ。

体もデカくて動きも早く、力も強いので仕留めるのが結構大変だった記憶がある。


俺はケーキーとブレンドコーヒーのセットを頼んだ。

この世界にもコーヒーがあったことは朗報だ。

コーヒーマニアの俺としては異世界のコーヒーを制覇したものだ。


数分後出されたケーキに舌鼓を打っていると隣のテーブルに座っていた貴婦人の会話が耳に入ってきた。


「ねぇあなた聞きました?丘の上のお屋敷に冒険者が越してきたって」


「聞きましたわ!あの噂本当なのかしら?」


「ご近所のミゼル奥様がその冒険者がお屋敷から出てくるのを見たって通具で教えて下さったのよ」


「あらやだ。一体どんな手品を使ったんでしょうね〜エデンフリルの品位が下がりますわ〜」


ボロカス言われていた。

結構ムカついたがここで騒ぎ立てるほど俺も子供じゃない。

さっさとケーキを食べるとコーヒーを流し込んだ。

コーヒーの味はイマイチだった。俺が焙煎と抽出でも指導してやりたいくらいだ。


ちなみに通具とは通信魔道具の略で、こちらの世界の電話だ。

仕組みは知らんが遠くの相手と通話ができる。

ギルマスが王女の来訪を知っていたのもこのせいだった。


「ありがとうございました!またお越し下さいませ〜」

狼耳の店員に見送られるとイライラが治った。かわいい。


俺はしばらく王都の街並みを見学と同時に色々情報収集していた。


まず向かったのは本屋だ。

ここは上流階級が集まる街。庶民じゃ買えない本だって普通にあるのだ。


新聞や雑誌、宗教関係の本、学問などラインナップは大したことないが

中でもお目当ては魔法に関する書物だった。


俺は本屋に入ると読むふりをしてひとしきり本をスキャンしセントラルに解析を任せた。

出版関係者に殺されそうだがやむを得ない。

これも俺がこの世界で生きるために必要なのだ。


「ふむふむ。これが魔法か…セントラル。魔法は使えそうか?」


『不明ですが児童向けの書物から簡単な魔法の使用方法がありました。』


「ありがとう後で試してみよう」


この人通りのなかでいきなり魔法は使えない。

本屋を出て数時間適当にぶらぶらしていると街の外れまで来てしまった。

空気が少し変わった感じがする。


「ここは…なるほどな。ちょっと治安が悪そうなエリアに入ってきた訳か…」


建物の作りが変わり、舗装された道路はところどころ剥がれ、道端には身なりの汚い男が寝ていた。


「ここからは少し気をつけた方がいいかもな」


何も俺が間違ってこのエリアに入った訳ではない。

俺の目的はむしろこっちにあった。

光もあれば闇もある。この王国の闇を知らなければその国の全貌は見えない。


しばらく歩いていると突然後ろから声をかけられた。


「そこの旦那!」


振り返るといかにも胡散臭そうなご綺麗な格好をした丸メガネのチビデブに声をかけられた。


「いや〜こんな所にお貴族様がいらっしゃるなんて珍しいことでさぁ あっしの店に来ませんか?良い子紹介しまっせ〜」


見事なまでのキャッチだった。

お貴族様と言っていたが、どうやらエデンフリルには特に貴族が遊びに来る街なので

身なりの良い奴はだいたい貴族と認識されているようだ。


「結構だ。急いでるんでね」

「そんなこと言わずにうちの商品は美人揃いでさぁ〜きっと気にいりますぜ〜」


ん?商品?


「商品と言ったがあんたは何を売ってるんだ?」

するとキラリと丸メガネが光った。


「それはもちろん奴隷でさぁ。ウチの奴隷は人間から獣人までより取りみどり!

小間使いから夜伽までこなせまっせ〜」


「…なるほどな。分かった俺も丁度探してたんだ。案内してくれるか?」

そう答えると奴隷商の口元がニヤリと笑った。


「もちろんでさぁ…ささ!こちらへ」


奴隷商に案内されたのは裏路地の2階建ての薄暗い建物だった。


入口のやたら厳重な鍵を開けると中に通された。

中は陰気な雰囲気が漂っており、シクシクと鳴く声が響いていた。

ただ衛生環境はそこそこ良いらしく、不思議と嫌な匂いはしない。


「ウチは品質が売りでしてね…あなたのようなお貴族様達がご贔屓にしてくださるんでさぁ…何たってウチの奴隷は健康管理が行き届いてまして、病気持ちはいやしません。」


なるほどな…奴隷と言っても比較的マシな待遇を受けているようだ。

まぁ売る側としても不衛生な環境で死なれたり、疫病に罹られても商売あがったりだしな。


「へぇ、奴隷を健康に保つ秘訣はなんだ?」


「お、聞きますかい?これは品質重視のウチくらいしかやってないんですがね…

檻を広くしてある程度動けるようにする事でさぁ…あと定期的に肥桶を変えることと、毎日体を拭かせること…栄養を与えること

狭い檻に閉じ込めたらあっという間に衰弱して死にまっせ」


「なるほどな」


奴隷商なりに商売にプライドを持っているらしい。まぁやってる事はゴミクズなんだが…


「さて、旦那はどんな子が好みでしょう?」


「そうだな…スタイルが良い子が好みだ」


「ひひひ、そうですかい!ならこの子なんてどうでしょう?獣人ですがこの店一の美人でさぁ」


「…!」


金属製の大きな檻の中に鎖で繋がれた獣人の少女が虚な目をして座っていた。

俺はその姿を見て驚いてしまった。

まさにあのカフェで見た狼耳の店員とそっくりだったのだ。


「どうです?檻から出して自由に触って頂いて結構です。傷一つないしオマケに処女!文句なしの一品でさぁ。ほらお客様だぞ出てきな」


出てきたそこそこ肉付きのいい少女の体には確かに首輪の跡以外に目立った傷は無かった。


「セントラル。この店内を隈無くスキャンしろ。文書の類は特にな」

『了解致しました。』


「では失礼して…」

「うっ…」


少女を触るふりをしてスキャンを行った。

だがめぼしい物は見つからない。


スキャンの結果、確かに目の前の少女の健康状態は悪くない。

ただ少し栄養不足気味だが…


「つかぬことをお聞きするがこの子の経歴は?」


「はい、この娘は遥か南の獣人の村が出身でして、村が魔物に襲われた所をウチで保護したんでさぁ…」


「ちがう!!うっ…」

突然少女が怒鳴り声をあげると首輪を押さえて苦しみ始めた。


「黙れ!全く…あぁこの首は令呪の首輪と言いまして。自分では外せない仕組みになってまして、無理に外そうとしたり反抗すると首を絞められます。それはそうと見てくれは良いのでどうです?旦那なら200万ゴールドでお譲りしますよ…」


さすが高級奴隷

古代ローマの奴隷並の値段設定だが、流石に高すぎだ。


「いや、90万だな」

「な!この奴隷は見ての通り上玉!200万の価値はありまっせ!10万なんてとてもじゃないが…」

「ならこの話は無しだな、俺は帰る」

「ま、待ってくだせぇ!150万!いや130万でどうでしょう!」

「だめだ90万!だいたい無傷と言っときながらこの首のあざはなんだ?傷物には変わりないだろ」

「ぐ…100万!」

「95万!俺が出せるのはここまでだ」

「分かりやした…95万で手を打ちましょ…」


奴隷商は項垂れると諦めたような仕草をした。


人を攫っといて金を取るとはどうしようもない奴らだ。

大方誘拐してきたんだろう。

まぁ俺も後からその金返してもらうけどな。

プラマイゼロだ。


「ほら今日からこの方がご主人様だ!挨拶しろ!」

「リアです…よろしくお願いします…」


少女はヨロヨロと前に出てきて挨拶した。


「よろしく。さぁ会計も済ませたし行こう」

「あ、ありやとやしたぁ!」


店を出るとリアに声をかけられた。


「あ、あの…」

「なんだ?」

「お、お名前は…」


そういえば名乗ってなかった。


「俺はレイ・キサラギだ。冒険者やってる。」


するとリアは目をぱちくりさせた。


「へ?ぼ、冒険者?お貴族様ではなくて?」


リアは俺の格好が気になるのか下から上までまじまじと見ていた。


「貴族?俺が貴族に見えたのか?」

「あ、いえ…さっきあの男があなた様をお貴族様と…」

リアは耳を畳んでちょっとオドオドしながら答えた。


「あぁなるほど。まぁ話すと長くなるし立ち話もアレだ。一回家に帰ろうか。」

「え?あ、はい…よろしくお願いします……え?何…!キャッ…」


空間が避けリアの肩を掴むと一緒に穴に粒子化して吸い込まれた。

次の瞬間には屋敷の中庭にいた。


「は?え?な、何?へ?」

リアは信じられない様子でキョロキョロしている。

「ここは俺の家だ。歓迎するぞ。今日から君はここの人間だ」

ニッと笑い、リアの首に手を当てると首輪は青い煙となって消えた。


「え?あれ?首輪が…」

さっきよりも一段とオロオロして首を触って確かめている。


「首輪?そんなもんあったか?君にはあんな首輪似合わないだろ。かわいいんだからもっと綺麗にならなきゃな」


大きな瞳をパチクリとさせると次第に目が潤んできた。

「……うっ……グス…うっ…うぇぇぇん…」


リアは今までの辛さを吐き出すかのように泣き始めた。

そっと抱き寄せてやると胸の中で疲れ切るまで泣いていた。


俺には彼女がどんな苦労をして来たかは分からない。だが俺は胸糞が悪い奴らは大嫌いなのだ。



「ゴミ掃除が捗りそうだ…」




「お、おいしい…!」

「どうだ?美味いか?」

「はい!こんなに美味しいもの久しぶりです!」


リアは奴隷とは思えないほど完璧な作法でディナーを食べていた。


着替えはメイドに用意させたワンピースを着させている。


リアの年は18歳。

この世界では獣人は人間と同じくらいの寿命らしく16歳で成人らしいが

俺から見ればまだ子供だ。


これは俺の予想だがこの子は良いとこのお嬢様だったが、何かを理由に奴隷に落ちた。

精神面も考えて理由はまだ聞ける段階ではない。いずれ時が来たら聞くつもりだ。


リアには余っている部屋を与えた。

かなり遠慮していたが結局押し切る形で了承してくれた。


俺はあれから奴隷商について早速王女のネットワークを使って調べていた。

どうやらこの王国では現レミリア王政の時代から奴隷制を段階的に廃止、奴隷は一定以上の期間働けば解放奴隷として市民権を与えられるはしい。


しかし、これをよく思わない多数の貴族の反発に遭いレミリア王政は現在貴族からの信用を失いつつあった。


貴族の中にはそれに従わずに領民としての地位を与えながらも扱いを変えないと言った法の抜け穴をつくようなことを考える者も多く

また奴隷商は地下に潜り、未だに闇市場で金持ち相手に奴隷を流しているそうだ。


また別の問題もある。


晴れて奴隷から解放され市民権を与えられても、民衆からも差別的な扱いを受け、職を得ても安い賃金でこき使われた結果、解放奴隷達が至る所でスラムを形成しているとのことだ。


この辺は俺の世界とも変わらない。

未だに解決しない民族問題を見ればわかる。


王国としても闇奴隷商は厄介な存在らしく王女は快く調査に協力してくれた。

なんでも明後日その調査の専門家が来てくれるらしい。


それまで適当にギルドの依頼でもこなすか。


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