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1 遭難した

-最善の選択が最良の結果を招くとは限らない-





-セントラルへの接続開始…承認…


権限への接続許可…承認…


対象:如月レイ…以降同個体をレイと呼称


ホストへの同化開始…


只今より対象者をサブホストとして承認し、システム権限の一部を一時的に承認する…


干渉率を10%で維持…


システムの起動開始…


レイ…ベクターの名の下に…世界に救済を与えなさい…




レイ…俺のことか?


セントラル…ベクター…何のことだ?


救済…?


意味が分からん…


俺はなんだ?


…もう少しだけ…寝かせて…




「ん…うっ…」


ぼやけた視界に眩い光が差し込み不快感を覚える。


俺の部屋こんなに明るかったっけ?


半身を起こしてから目を擦るとそこが少なくとも屋内では無いことに気がついた。


「…外?」


今一納得いかないが、どうやら俺は外で寝てたらしい。


いや待てどういう事だ?

20年以上生きててこんな事…


あったわ友達と飲みに行ったら何故か玄関の前で起きたこと…


ポケットに何故か唐揚げがパンパンに入ってたんだよな…

電子タバコもどっか行ったし…


昨日何してたんだっけ?

確か徹夜で試験勉強してて…


「やべ!今何時…」

スマホを見ようと手探りで探そうとしたが、それよりも衝撃的な事実を目にし頭が真っ白になった。


「え…てかっ…」


寝坊した焦りで一気に目が空いた俺の目に映ったのは、鬱蒼と茂った木々だったのだ。


「どこ…ここ…」



あれから数分後、完全に目が覚めた俺は信じられないことに全く知らない森の中で寝ていた事を知った。


と言うか、周りの風景もおかしい。

明らかにここは日本ではない。

と言うか見たこともない螺旋状の木とか、なんかさっきからずっとこっちを見てる謎のうさぎっぽい目がくりっくりの小動物とか


それよりも衝撃だったのは俺は何故か全裸だったのだ…


「はっくしゅ!さ、寒い…とりあえずなんかないか?」


上に羽織るものがないか周辺を歩き回ったが、無論この大自然の中にそんなものはない。


「にしても俺、一体なんでこんな所にいるんだ?誰かに拐われた?そんで見ぐるみ剥がされて連れてこられた?

いやいや、無いな…第一こんな所知らんぞ?」


今一度、周囲の風景をよく観察する。

俺が寝てた場所は少し開けた場所で、周囲には木以外何もない。

それにあまり認めたく無かったが俺の知ってる地球の景色と違うことがわかった。


と言うか真昼の空に月っぽい星が3つも浮かんでる

マジでここは何処なんだろうか。


「まぁいいや…ここがどこだろうと今の状況を簡単に言うなれば、俺はいきなり知らない土地でサバイバル生活を余儀なくされたってことだな…

まずは目印を作って周囲の探索だな…」


自分でも信じられないくらい冷静に、自分の置かれた状況を分析して生存のために最適な選択をしていた。


本能のなせる技なのか、最近ハマってたサバイバル番組のせいなのか…


まずやるべきなのは安全の確保

周りに危険な環境や野生動物が居ないか確認して安全な場所を確保すること。

次に体温の維持、水、火、食料と続く


「探索ついでに役に立ちそうなものとか色々探すか…」


そこら辺の石を積み上げたり、木に絵を描いたりして目印をつけたのち

すぐに周囲の探索に入った。


「いてて…たくっ…裸足はキツイな」


着の身着のままと言うより着ることもなくどっかに放り出されたせいで、道端の石が足の裏に食い込む


足の裏を切って感染症になったら最悪なので慎重に足元を見ながら森を進む。


道中見つけた枯れた長めの草を採取して後で腰蓑にする用と着火剤にするようで集めたり、いい感じの木の枝とか葉っぱも集めておいた。


数時間、歩ける範囲を散策したところで拠点に戻った。

道中拠点の近くに太めの蔦を発見したのがデカかった。

ツタの中には清潔な水が豊富に含まれているからだ。


「とりあえず今日の寝床を作るか。水はあのツタの水を飲めば良いとして、飯はお預けか…」


そうと決まれば簡単に周りの石や岩を1箇所に集めて

見つけて引きずってきた太めの木の枝や葉っぱ、ツタなどを並べて組み上げて行く。


主柱にする太い木の枝の先を土に埋めてその枝を支えるように細めの枝で骨組みを作り、デカいバナナの葉みたいな葉っぱで屋根を組み上げて行く。


「よし、こんなもんかな」


2時間くらいで簡単なシェルターができた。

これで雨風は凌げるはずだ。


一度ツタの水を飲みに行った後、今度は火おこしチャレンジをすることにした。

気候的に秋っぽかったので夜は結構冷えるだろうから火の確保は重要だ。


幸い最近晴れてたようで乾燥した火種はそこら中で見つかっていた。


抗生物質もないまま擦り漕ぎ式火おこしをすると、手のひらが傷ついて感染症を起こすかもしれないので、多少材料集めが面倒だけどその心配が少ない弓ぎり式火おこしにチャレンジすることにした。


小学生の時にやったきり動画でしか見たことないがやるしかない。


道中良い感じの枯れた倒木を見つけたので、剥がれそうになってた木の板を剥がしヒキリ板にし

枯れたツタを適当に編んだヒモを曲がった枝の先端に結びつけ弓にした。


あとはハンドピース代わりの良い感じに中心が窪んだ平たい石を使って火おこしチャレンジが始まった。


ギコギコギコギコ………


「ぐ…頼む…着いてくれ!」


ギコギコギコギコ…ハァ…ハァ…


ギコギコギコギコ…


…………


ひたすらギコギコし続けること1時間、何度も失敗しながらようやく焦げ臭い煙が登ってきた。


「!いける!もっと!頑張れ頑張れ絶対できる!頑張れ頑張れぇ!!」


疲れと火がつかないイライラでテンションがおかしくなってたせいか火おこし器に激励のエールを送っていた。


するとその応援に応えるように煙の勢いが強くなった。

素早くヒキリ板の火種を枯れたふわふわの繊維に包み慎重に息を吹きかけると大量の煙と共に火が上がった。


「よっしゃあ!!これで凍えずに済むぞぉ!!エホッエホッ!!」


普通に煙吸い込んで咽せた。


燃え上がる火種を拠点の目の前に作った薪窯に移すと火がしっかり安定し、火の心配は無くなった。


気がつくと空はすっかり暗くなり、空には満天の星空が、暗い森の中からは謎の動物の鳴き声に満ちていた。


初日で火を確保できてマジで良かった…


「初日にしてはかなり上出来だな、シェルター、水、火…

あとは食料見つけたら完璧!とりあえずツタも枯れ草もまだあるから腰蓑でも作るか無いよりマシだろ」


体に疲労感が残る中、虫対策で枝の上に枯れ草を敷き詰めた寝心地最悪のシェルターの中で、猿人から原始人に進化しようとしていた。


これも初手でパニックにならずに冷静に材料集めをした結果がもたらしたものだった。

いついかなる状況でも冷静さを欠いて余計に動き回れば無駄に消耗するばかりか何も得られない。

今頃寒さに凍え、野生動物にビクつきながら地面で虫に喰われながら寝ていた頃だろう。


サバイバル番組の知識に救われた俺はなんとかグリルスさんやなんとかスタフォードさんに感謝しつつ眠りについた…



翌日、気持ちのいい朝が来た。

そこに立つ腰蓑の原人1人

1日経ってようやく自分の置かれた環境のヤバさに恐怖が湧き上がってきた。


「う〜うううあんまりだ…

何なんだこの状況は!何処なんだここは!何で俺は全裸でサバイバルしてんだぁぁぁ!!オーイオイオイ…」


泣き喚くこと数分後…


「ふぅ…スッとしたぜ…やっぱコレが一番いい…ただでさえ命かかってんだ。泣くのはコレっきりだ…カロリーが勿体無い…」


ひとしきり泣き喚いて騒ぐとスッとパニックが治った。


側から見れば近寄りたく無いタイプの人だろう。

それでも下手に冷静さを欠いてしくじった時の代償の方が高く付くのだ。


「それにいくつか思い出したことがあるな…夢の中で聞いた謎の声、それにこの状況

どう考えても普通じゃねぇ…それに月3つあるし…なんか変な動物いるし

認めたくねぇけどここ地球じゃねぇな…」


改めて周囲を見渡すと昨日見た目がくりくりの小動物と目が合う

どう考えてもここは地球では無い


「ここで考えられる線は二つ 

一つはここは地球では無い別の惑星 

もう一つはここはそもそも俺がいた宇宙では無いって感じか

どっちも最悪だが要するに最近流行りの異世界転生みたいな感じなのか?

でも特にコレと言って女神とかに会って魔法とかチートスキル貰った感じはしないな

やってみるか…

アバダケダブラ!!」


某魔法使い風に死の呪文を放つ…


が特に何も起こらない


正直めっちゃ恥ずかしい


「…呪文が違ったかな?そうだそうに違いない!ファイアボール!!ウォーターボール!!サンダーボルト!!ボルティックシューター!!ディバイディングドライバー!!」


適当にそれっぽい呪文を枝片手に放つこと数分後


「ですよねー知ってた」


小学生のヒーローごっこ並みに恥ずかしい醜態を晒しただけで終わった。

ちなみに俺は24歳である。


「くぅぅ…恥ずい…!!こんなの見られたらもうお婿に行けない……!!」


一周回って襲ってきた羞恥心に悶えながらゴロゴロ身悶え、空を見上げた。


「はぁ…俺どうなるのかな…異世界転生だったらこんな時変なアナウンスとかがサポートしてくれるもんじゃないのか?

せめて念力でも使えないもんか…ん?」


何か身体に変な感覚が走った。


湧き上がるような力の波、それが次第に大きくなっているような…


「これは…なんか出る!出ちゃう!!今度は集中して…」


その場で座禅を組み目を閉じて力の動きに集中する



(イメージだ…力の流れを血流に乗せるように循環させる…)


そう念じると力の流れが明らかにさっきと変わるのを感じたのだ。


(これは…!指先に力を集中させて…撃つ!!)


腕を銃のように構え、カッと目を開くと信じられないことが起こった。


キィィィン……ドゴォォォ


指の先から眩い青白い光がビームのように発射されたのだ。


「………」


あまりのあり得ない光景に思わず無言になってしまった。

放たれたビームは木々を貫き粉砕していた。


「………出たよな?…ビーム出たよな!?え、俺ビーム撃てるの!?え!?」


ビームで焼き払われた木の残骸を見ると高熱で焦げ燃え上がる断面に青白い光がまだ残っていた。


「一体どういうことなんだ…これは俺の力なのか?すげぇ…!」


俺は湧き上がる高揚感に震えていた。


それから俺は取り憑かれたようにひたすらビームの試し撃ちを続けた。


「ヒャハハハハ!!燃えろ!!燃えちまえ!!」


テンションと疲労で正気を失いながら目に着くもの全てに熱線を浴びせていた。


ビームの出が悪くなった頃には辺りの木々が無残な姿に変わっていた。


「ハハハハ!!すげぇすげぇぞ!!このビームが有れば無敵だぁ!ひれ伏せ一面のクソ緑ィ!!

人間様を舐めるなよクソがぁ!ハハハハ…ハ……クソッ弾切れか……

あっヤベ…食料探しにいくの忘れてた…」


調子に乗っていた俺は茜色の空と自分の置かれた状況に気がつき、スッと元のテンションに戻って残りのビームで薪に火をつけた。


「やらかした……何で俺調子乗ったんだろ…飯ねぇじゃん…」


グゥゥゥ…


アドレナリンドバドバで忘れていた空腹が今になって襲ってきた。


今俺の手持ちは森が生んだゴミしかない。食い物は愚か十分な水も無かったのだ。


「腹が……なんかビーム撃ちすぎたせいかやたら腹減ったな……食い物……食い物……食い…物……」


スッと白目を剥くとガクッと寝床で気を失った俺をゆらゆらと燃える焚き火が照らしていた。



異世界遭難3日目


目が覚めた俺の身体には異変が起きていた。


「なんだよ…これ……」


肘から先の腕が青白く光っていたのだ。

それどころか他の身体の一部も光っている。


俺のムスコも青白く輝いている。


俺はいつからゲーミングち○ぽ華道部になったのだろう。


「どう考えても昨日のビームが原因だよな…」


それに俺が知ってる青白い光は大体碌でもないモノ

つまり…


「まさか…チェレンコフ光…?ヤバくね?」


昨日のビームと言い今の状況と言い

説明がつくとしたら俺はまさか……


「被曝…したのか……?」


さっと血の気が引くと同時に耐え難い恐怖が襲ってきた。


「ウソだ…嘘だそんなことぉ!!あり得ないぃ!!これは間違いだ!!あああああ!!」


チェレンコフ光はいわば高エネルギーの放射線を直で浴びた証拠

つまり俺の余命はあと僅か、俺の全身の細胞は破壊され皮膚や粘膜は焼き爛れ、全身水膨れに

なって数分で絶命してしまう。


「うわぁぁぁ…ああああ!!そんな!そんなぁ!!止めろ!止めてくれぇぇ!!」


叫びとともに光が強くなり腕どころから肩や胸まで青白く光っていく。


今や俺の身体には光ってない部分がないほど光に侵食されていた。

湧き上がる絶望と拒絶に頭が焼き切れそうだ。


「うぅ…こんな…こんな事って…うっ…」


ドサッとその場に倒れ眩い光に包まれながら意識を失った…




-準覚醒を確認…干渉率70%を突破…74…80…86…89…干渉率90%を突破…92…97…

干渉率100%…

検証成功…検証結果よりサブホストからホストへと更新…

これよりセントラル権限により対象と直接的なセッションを開始します…-




俺はぼんやりと頭に響く振動で目が覚めた


「う…ん…ここは…」


ぼやけた視界で手に目をやる


「光って…ない…助かった…のか?」


虚な目だけで辺りを見渡すとどうやらしばらく倒れていたらしい


頭に手をやるとモフッとした感触を感じた。


「…ん?なんだこのフワフワ……ッ!!」


ガバッと起きると謎の小動物と目があった。


「キュ?」


初日から度々見かけたウサギっぽい小動物が俺の頭を嗅いでいたらしい。

ビクッと体を震わせたが、逃げるどころかなんでも無かったかのようにコチラをじっと見つめている。


「ハァ…ハァ…お前か…ビックリした…何かに襲われてんのかと思ったぜ…」


「キューキュー」


「はぅっ…」 


クシクシと前足で目を擦る姿に思わずキュンと来てしまった


見たこともない小動物だがとにかく可愛い


白い毛に赤い瞳、長い螺旋状の耳が特徴的な生物はよくうさぎと似ていたが

尻尾が特に違った。オコジョとかイタチのように長いフワフワな尻尾、そして犬のような犬歯がチョンと口元から出ていたのだ。


「か、かわいい…お前…倒れてた俺を心配して…」


思わずその可愛らしい頭に手を乗せようとした次の瞬間


俺の指は消し飛ばされていた


「へ…?」


「キュンキュン!」


小動物は俺の人差し指だったモノを空中でキャッチしてポリポリと器用に前脚を使って齧り出していた。


「…!がぁぁぁぁ!ゆ、指が……このやろ…!」


キィィィン…


咄嗟に俺の頭はその小動物を敵と判断し中指からビームを撃っていた。


「ギャッ!」


正確に急所を撃ち抜かれたウサギもどきは、衝撃でコロコロ転がりビクビクと痙攣した後動かなくなった。


「はぁ…はぁ…くっ…クソ!なんて事しやがんだクソが!!ぐぅぅ…!」


必死で指の根元を圧迫して止血するが耐え難い痛みと熱が襲う。


すると何処からか頭の中に声が響いた。


『ホストの負傷を確認、ホストに代わり干渉による自己修復を行います』


「…!なんだ!誰だ!!はっ…」


血が滴っていた筈の人差し指が青白く輝き

光が収まると指が継ぎ目なく元に戻っていた。


『対象の治癒を確認』


「治ってる…てかお前は誰だ!どこにいる!」


ウサギもどきの襲撃で未だパニックになっていた俺は周囲を焦って見渡した。


『遅れましたマスター、私はセントラル。あなたの味方です。私がマスターに変わり、負傷した右示指を治癒させました。』


「セントラル…?お前がセントラルか!てことは夢の声はお前だったのか?」


聞き覚えのあるセントラルと言う単語に夢でぼんやり見た記憶が蘇った。


『夢ではありません。あなたの素体と精神エネルギーに干渉し、この宇宙の太陽系第3惑星ソラスに肉体を再構築致しました。つまりあなたの命の恩人です。』


「なんか恩着せがましいなコイツ…それよりソラスって…やっぱ地球でも俺がいた宇宙でもないって事でいいのか?」


『その通りです。』


「じゃ…じゃあもしかしてこのビームもお前が関係してるのか?」


『その通りです。あなたは私にベクターホストとしての才覚を認められました。』


「ベクターホスト…何だそれ?」


『ベクターホストとはベクターの使い手、つまりあらゆる物質や事象に干渉し、同化する私の力の総称を指します。』


「あらゆる物質に干渉?同化?意味わからんけど、その能力をまとめてベクターって言うのか?」


『その通りです。あなたはその力を自由に使うことが認められています。あなたが放った光線はあなたが無意識に空気と空間に干渉、それを実体化したものです。つまりあなたは意識的に周りの物質を取り込むことで思い通りの結果を生み出すことが可能になりました。』


「待て待て…えーとつまり、この光がベクターってやつで この光を触れさせると干渉ということになるんだな?それで俺が脳内コントロールするとそれを思い通りに動かせると?」


『次第点ですが、大方その通りです。

その光は…言語化し呼称するならばベクター粒子です。』


「ベクター粒子?」


『ベクターを構成する最小単位がベクター粒子です。ベクター粒子の性質は光子のような光と波の性質を持つ他に、干渉と同化という性質があります。

干渉とは対象物に干渉し浸透すること、同化とは異なる性質をもつ物質を同じ性質に変えることを指します。またそれらはホストの意識よりコントロールが可能です。』


「なるほど…ご丁寧な解説をありがとう。つまりアレだなご都合粒子と言うやつだな。うん。」


俺はもしかしたらとんでもない力を手に入れてしまったのかもしれない…


「えーと…セントラル…さん?つまり俺はこのベクター粒子とやらを当てた物質に干渉?して同化すれば自由に別の物質に変えることも出来るんだよな?」


『可能です。必要なエネルギーは質量から賄われ、コチラで演算処理し具現化します。マスターは頭の中でイメージするだけで構いません。』


「つまり、そこらへんの石ころから金塊を作ることも…?」


『可能です』


うっひょぉぉぉ!人類の夢!!


「そ、それは素晴らしい…いやホントに素晴らしいな…しかもそれをノーリスクで出来るとは…恐ろしい…恐ろしいぞぉ!」


俺は満面の笑みで打ち震えていた。


『しかし、それは過不足分を質量をエネルギーに変換して行う必要があります。そのため、その物質や物体を構成するのに必要なエネルギー分余分に干渉する質量が必要になりますのでお気をつけ下さい。

過不足分は自動的に干渉域を調整されます。」


「原理はわかった!ありがとうセントラルさん!」


『私を呼称する際はセントラルでお願い致します。敬称は必要ありませんマスター』


「おう!よろしくなセントラル!じゃあまずは俺は何処にいるのか教えてくれ!」


『不明です。』


「…え?」


『不明です。スキャニングによる周囲の調査を進言致します。』


「スキャニング?じゃあそれをやってくれない?」


『了解しました。これより広域スキャニング並びにピンガーを打ちます。』


俺の身体から無音でドーム状に青白い半透明の膜が放たれると同時にカーンと言う凄まじく大きい音が発せられた。


「うるさ!!潜水艦か!!」


『…スキャニングを完了 マスター、問題発生です。』


「耳いて〜 な、何だ?」


ピンガーの凄まじい高音を直に聞いてビリビリする耳を塞ぎながらセントラルに聞いた。


『我々はどうやら半径10.00kmのドームの中に閉じ込められているようです。それより外部の情報がスキャニングできません。』


「な、なんだって!?そ、空は?空があるじゃないか!」


『不明ですが、不可視の膜のようなモノで覆われているようです。』


「マジかぁ…つまり俺たちはクソでかいバリアーの中に閉じ込められてると…突破はできないのか?」


『ご命令があれば実行致します。』


「よし、あらゆる手段を試してみてくれ」


『了解しました。1回目の試行を開始します。』



数時間後…



「………」


『2048回目の試行、失敗…』


「………」



また数時間後…


「………」


『5896回目の試行、失敗…』


「もういいよ…いい加減腹減ったわ…」


干渉により俺たちの周りにあった筈の木々や地面はは綺麗にくり抜かれて無くなっており、ひたすら10km先の上空のバリアに対する攻撃音のみが響いていたのだった。


ビーム、砲撃あらゆる攻撃手段をバリアにひたすらぶつけていたのだ。


無論バリアは割れるどころか何事もなかったかのように存在している。


バリア突破を諦めた俺はベクターの力でなんでも作れることを思い出し

久しぶりの飯にあり付いていた。


メニューは好物のリブロースステーキを再現したものだ。

見た目も味も確かにそれっぽい。


だがまだコントロールが下手くそなのか、変な食感と味がしてとてもではないが美味しいわけでも無かった。

なんかディストピア飯の合成肉みたいだ。食った事ないけど…


「なぁセントラル…これって俺が下手だからこんな味なのか?」


『いえ、マスター。脱水症状と栄養不足、精神状態の悪化により生体処理に支障がでているのが原因かと思われます。

そして、セントラルへの接続がまだ完全ではない事も原因だと考えられます。』


「セントラルへの接続?俺とお前はもう一心同体じゃなかったのか?」


『いえ、マスター。私の全権限は確かにマスターに譲渡されていますが、私の持つ膨大な情報量を肉体と完全にリンクさせるには負荷が大きすぎます。よって時間経過で数パーセントづつ適応させる処理をバックグラウンドで行なっております。』


「な、なるほどな…ちなみに急にリンクさせるとどうなるんだ?」


『精神が帰ってこなくなります。』


「ひぇ…」


『安全は保障致しませんが実行しますか?』


「やめろ!!」


頭がパーンするなんて考えただけでも恐ろしい。なんて事言い出すんだコイツは…


「それでそのリンクはいつ終わるんだ?」


『最低でも2年かかる計算です。』


「2年?案外早いな てっきり数十年かかるもんだと思ってたわ」


『いえ、マスターの素体はベクターと相性が良く、適合率も最適です。つまり身体の相性がいいのです。』


「おい!変な言い方やめろ!!…ちなみにセントラルに性別はあるのか?」


『ありません。』


「ですよねー」


ちょっと期待した俺が馬鹿だった。声は中々かわいいんだけどな…


ひとしきり合成肉を食べ終わって腹ごなししていると唐突にセントラルが喋り始めた。


『マスター、ご報告し忘れた事がございました。』


「ん?何だ?」


『実は先ほどのスキャニングの際に、周囲に多数の生体反応が確認されていました。細菌類や微生物を除いた小型〜大型、超大型まで合わせて805,632体です。』


「……へ…?80万…?そ、それはさっきみたいなクソウサギもどきが?」


嫌な予感がした


『いえ、種類は様々ですが調査の結果、先ほどの生物の総数は10,541体、その他生物は以下の通りになっております。』


目の前に青白いスクリーンが表示された。


「こ、こんなこともできるのか…えーと………これは………」


スキャニングで取得した大量の生物の情報が表示されている。

小人のような生物、犬のような生物、クマのような生物、でかいトカゲからクソでかい昆虫、得体の知れないブヨブヨ

ゲームの中でしか見たことない生物というかモンスターがそこに映し出されていた。


「マジで?これ明らかにゴブリンだよな…?それにこれは…スライム?おいおい嘘だろ?」


『はい、これらの生物がこの領域内に存在しています。おそらくマスターの敵になる可能性が高いです。』


「だろうなぁ!!指食いちぎられたもんなぁ!!クソっ…てことはこの森を出られない上にモンスターハンターにならなきゃいけないってことかよ!!」


3日洗ってない油ぎった頭をガシガシかいて悶絶していると妙案が閃いた。


「…待てよ…ベクターを使えば武器だって作れるってことか?」


『その通りですマスター。あなたのイメージ通りの装備が製作可能です。イメージさえ浮かべて頂ければ使用可能なようにこちらで処理し、具現化できます。』


「つまり俺が銃の構造を知らなくても、イメージするだけで勝手にお前が処理して作ってくれるってことだよな?」


『その通りです。』


「…勝ったな…」


俺は一筋の希望を掴み取った。


「そうと決まれば俺が温めてた最強装備を作れるってことだよな!セントラル!俺の脳内にあるイメージを読み取って具現化してくれ!」


『了解致しました。データを確認…試行終了時間は398分後となります。』


「つまり…6時間後ってことか 分かった!やってくれ!」


『了解致しましたマスター。その前に服や住居はいかがなさいますか?』


「はっ…!確かに!そうか服とか家も自由に作れるんだよな!それも同時にやってくれ!」


『了解致しました。合計処理時間が520分に延長されました。』



怒涛の3日日間だった。異世界の森で全裸サバイバルをしてたら

指からビームが出るわ、その指を食いちぎられるわ再生するわ、俺にとんでもない能力が付与されてるわ余りにも情報量が多すぎた。


ベクター、そしてセントラル…

俺は何としてでもこの力をフル活用してこの森を出る!

そのためならあらゆる手段を使う!


俺は…俺はこの理不尽な世界を生き残るんだ!!




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