エピローグ のこされた、者達。
BGM
B'z『結晶』
『あ、ありがとう、ござい……ます……ぼ、僕も……イーファ嬢、に……初めて、お会いした時から……惹かれてい゛ま゛じだッ』
あの後、僕は……両親が亡くなって……フェリスお母様とも、離れ離れになって……そして、ずっと……カウロスに、虐げられて……それで、すっかり……臆病になっていた僕は…………そんな僕を、受け入れてくれる人と……出会えて……好きである、とも言って、くださって…………思わず、いろんな感情が……溢れてきて……締まらない、事に…………最後の方が……せっかくの、告白の返事が……涙声になって…………。
それでも、イーファ嬢は……嬉しそうに、笑ってくださって……そして、僕の、新しい両親になる……エルビン子爵夫妻も…………そんな、僕達を……優しく……見守ってくださって…………………………。
※
それから……四年後の、現在。
僕の名前はルイス・レンゲルからルイス・エルビンになって……そして同時に、僕は、イーファ嬢の婚約者になって――。
「ッ!? ほ、本当だ! 凄く美味しい!」
「こ、こんなに美味しい料理……私の祖国の東亞合衆国にもありませんよ!」
「うぅ……うンめぇぇぇぇ~~~~ッッッッ!!!!」
「こ、こんなに美味しい大衆食堂を、庶民なのに知らなかったとは……一生の不覚です!」
――そしてなぜか大衆食堂『アナトリア』の……料理長にも、なっていました。
いや、何があったか……理解はしてます。
あれから、僕は料理学校に通いつつ……イーファ嬢の提案で、従業員などはそのままで、そして一年前、雇い主の犯罪のせいで偏見を持たれて、路頭に迷っていたフレイさんを始めとする元レンゲル家の料理人数人もバイト……というか、後継者候補、というか……支店長候補、というか……とにかく、大衆食堂『アナトリア』のさらなる発展ために、雇って。
ここで、料理長をしていたフェリスお母様の味を……数年前、イーファ嬢が見つけたという、この大衆食堂の味を……王国民だけでなく、世界中のみんなに知ってほしくて……現在僕は料理長をしている。うん、なんというか……まさかこうなるとは思っていなかったほど、幸運な……充実した人生だと思います。
ちなみに、味については。
僕と、イーファ嬢が食べたあの時の味付けと、フェリスお母様の味付け……の、どっちかを選べるようになってます。イーファ嬢と食べた、あの時の味を……否定したくないから……僕が提案しました。
「フフッ……そうですわよね♪
私のルイス様の料理は世界一なのですわッ♡」
「ちょ、イーファ嬢……さすがに言い過ぎだよぉ」
そして、そんな僕は現在……僕が作った豚肉の、しょうが焼き定食を食べつつ、そう自慢してくださっているイーファ嬢と……彼女と、同じ物を食べてくださっている、イーファ嬢のご友人のみなさんの相手をしてます。
「いいなぁ、今も仲良くて。私の婚約者は最近……忙しいのか、なかなか会えないから羨ましい」
「王族だから、仕方ないでしょうそこは……まぁ、お二人の仲が良い事を羨ましく思う事には同意しますが」
「アオちゃん、婚約者いたっけ?」
「いえ、いませんけど……ちょっと、フラン様? なんですかその目は!? 婚約者がいないのはお互い様でしょう!?」
「まぁまぁ、落ち着きましょうよ!」
「そうだよ、料理が冷めちゃうよ!」
「…………凄く賑やかで、楽しいご友人ですね」
ご友人の四人には聞こえないよう、僕はこっそりとイーファ嬢に……カウンター越しに告げた。
「フフッ。私の自慢の親友達ですので、そう思っていただけて嬉しい限りですわ。ですが」
イーファ嬢の友人達に抱いた第一印象を告げると、彼女は笑顔になった。
すると次の瞬間。なぜか彼女は、懐から扇を取り出して……それを素早く、僕とイーファ嬢の顔を、ご友人以外のお客様から隠すようにかざして、そして――。
――時間にして…………ほんの、一瞬…………。
――ぼ、僕は、どういうワケだか、イーファ嬢か、らの…………き、キスを……受けたッ!?!?////////////////////
「「「「ッッッッ!?!?////////////////////」」」」
そ、そそそそして、それは……と、当然ながら、ご友人達には……見られてる、ワケで……////////////////////
「私の自慢の親友達だからこそ、そんなみなさんにちゃんと……すでにルイス様が私のものだという事を、今の内から見せ付けなければいけませんわ♪」
「い、いやいやいやいや」
た、確か……フラン、嬢? 彼女は、顔を赤くしながら……手を否定的に、ブンブン振った。
「さ、さすがに親友の婚約者を取ったりしないよぉ」
えっと、レラ、嬢……だったかな? 彼女も、顔を赤くし……手をブンブン振りながら……そう言った。
「と、というか……人前で接吻など……恥ずかしくないのかッ?」
アオイ、嬢……と言ったっけ? 彼女は、肩を震わせ、顔を、赤くしながら……イーファ嬢に、問うた。
「というか、イーファ様……もしかして独占欲、強め……?」
そして最後に、僕とは違い、本当に……平民の血も引いているクリスさんが、顔を赤くしつつ……イーファ嬢には聞こえないような、小さい声でそう言った。
た、確かに……お互いに想いを伝え合った、あの日以降……イーファ嬢は僕に、いろいろと……積極的……どころか、ちょっと束縛的……いや、自由がない、ワケじゃないけど……なんだか、僕に構う時間が物凄く増えている、ような……?
「アオイ様、人前で口付けができずして……結婚式の時に誓いの口付けができますの?」
「いや、そういう事を言っているのではなくてだなっ」
「いや、でも……一理、ねぇか?」
「わ、私も……結婚式を挙げる前にイメトレをしといた方がいいかなッ?」
「もしもし? レラ様? ちょっと熱暴走してません?」
そして、なんだかみなさんの会話が……いつの間にか、食べ終えていたみなさんの会話が、さらに熱を帯びてきて――。
「ルイス様、デザートが出来ましたよ」
――そんな時、声が……今やすっかり、調理場での立場が逆になった……そしてここだけの話、イーグル義兄さん曰く……夜のレンゲル家の屋敷の、僕の部屋へと向かう際の侵入の手引きを……どういう取引をしたのか、とにかくイーファ嬢達に協力をしていたらしいフレイさんの声がして…………ちょうどいいタイミング!!
イーファ嬢と婚約して……そして積極的な彼女と交流したおかげか、少しは緊張で、オドオドしないようになったけど……それでも、盛り上がった話に介入したりとか、僕はまだ苦手だ。
だからこうして、新しい料理が出来るなどの、話題を変える何かが起こらないと……彼女達の会話には、入れる気がしないのだ。
「は~い、みなさん! お待ちかねのデザート……フェリスお母様直伝のフルーツ特盛ゼリーですよー!」
「わっ! 量が凄い!」
「いよっ! 待ってまし……って凄ッ」
「ちょ、こ、これは……なんて量ですかッ」
「これ……軽く二、三人分はありません?」
「フフッ。残してしまった分は、私が責任をもって食べますので、どうぞ遠慮なく召し上がってくださいな♪」
「も、もしかして……より多く食べたいから私達にこれを注文させてッ!?」
「イーファちゃん……なかなか策士だなッ」
「いや、これ……策の内に入れていいのですか?」
「ま、まぁ注文した料理が無駄にならなくていいですけど」
「まぁとにかくみなさん、改めて……いただきましょうッ」
僕とフレイさんが運んできたゼリーを見て改めて盛り上がる、イーファ嬢とそのご友人達。そしてそんな中でイーファ嬢は、ゼリーが温くなるのを心配したのか、すぐに会話を切り上げ……合掌する。
アオイ嬢の故郷である、東亞合衆国から伝わった……食前の挨拶だ。
まだまだこの国には、その挨拶をする人は少ないけれど。
数年前よりイーファ嬢が、数々の食堂でその挨拶をしてきたのをキッカケに……する人が、貴族平民問わず増え始めているとか、いないとか。
そしてそんなイーファ嬢に、ご友人のみなさんはすぐに応じる。
みんな嬉々とした表情で、ほぼ同時に両手を合わせて、そして――。
「「「「「いただきますッ」」」」」
――聞いているこちらが、逆に元気を貰える……そんな声が店内に響く。
そして、その直後。
デザートを美味しそうに味わい、そして食べること自体に幸せを見いだして笑顔になっているイーファ嬢、そして彼女のご友人のみなさん……さらには他の席で、彼女達のように笑顔で食事をしている、他のお客様に目を向けて……僕は……自分が進んだ道が、間違ってはいなかったのだと……亡くなってしまったアランお父様とレイナお母さまや、現在エルビン家で療養している、フェリスお母様に恥じない道であった事を…………改めて、実感した。
※
そして、さらにその数日後。
僕は、車椅子に乗るフェリスお母様と一緒に……墓地に来ていた。
実質、僕は両親の遺産の在り処を知るための手掛かり……というより人質としてレンゲル家の屋敷に軟禁状態にされていたから、なかなか外に出る機会がなかったけど。レンゲル伯爵が逮捕されて以降、僕はフェリスお母様と……僕の亡くなってしまった両親の墓参りに来れるようになったんだ。
「アランお父様、レイナお母様……何度目になるか、分からないけど……改めて、この場で言わせてください」
この国では……火葬が主流だ。
三百年前より以前は、埋葬が主流だったらしいけれど……とにかく、この墓地にある墓石の下には、僕の両親の遺骨しかない。
そして、そんな墓石に刻まれた名前を見つつ、花束を供えて……僕は何度でも、こう言うんだ。
「僕を、この世に生んでくださって……ありがとうございました」
墓石に刻まれた、父の名前――ALAIN ROWER。
同じ墓石に刻まれた、母の名前――LEINA ROWER。
その文字を見る度に、僕は……アランお父様と、レイナお母様、そしてフェリスお母様が、どれだけ固い絆で結ばれていたのかを……そして、その絆があったからこそ、僕という存在がこの世に在るのだと、実感するからだ。
※
僕の名前であるルイスはLewisと書く。
そしてフェリスお母様の名前はFerrisと書き、前述した通り……レイナお母様の名前はLeinaと書く。
…………そう。
僕の名前には、二人のお母様の名前の一部が入っている。
そして間のwは、そんな二人の永遠の親愛を表しているのだと。
イーファ嬢のお兄さんこと、イーグル義兄さんが調査で突き止めたんだ。
※
「二人がいたから、僕は、イーファ嬢と出会えました。本当の事を言えば、レイナお母様と、アランお父様とも……また、会う事ができたなら、もっと……幸せなのですが…………ごめん、なさい……ワガママを言って」
そして、今の幸せを噛み締める度に……レイナお母様と、アランお父様がかつて占めていた、心の片隅の穴の存在に気付いて……悲しくなってしまう。でも、いつまでも泣いてては、楽園に逝ったレイナお母様と、アランお父様に申し訳ないから……僕は涙を拭い、改めて前を向いた。
「まだまだ、弱い……僕だけど。でも、楽園で……見守っていてください。きっと……僕は、大切な人達の笑顔を護れる……強い男になってみせますからッ」
そして、最後に黙祷をして……僕はフェリスお母様と一緒に、その場を後にしたのだった。
※
「…………ドクター・アラン。そして、ドクター・レイナ」
ルイスとフェリスが、墓地の出入口から去った時の事。
同じタイミングで、墓地の出入口から神父服の男性が入園し、ルイスとフェリスの二人とすれ違うと……彼はルイスの両親の、墓前に立った。
「あの子を創った時の……君達の研究データを見せてもらった。
まさに、驚くべき内容だったよ。もし、あの内容が事実であれば……我々現代人の寿命が、三百年以上前と比べると三十年も延びて、代わりに生殖能力が低下した原因を……君達は無自覚にも解析し、分離した事になる」
墓石に供えられた、ルイスが持ってきた花束の隣に、別の花束を供えつつ、男はさらに死者に向けて話しかける。
「そのデータは……私が考えるSS計画にも必ず活かしてみせる。もちろん、君達の息子も必ず護る。だから安心して……眠っていてくれ。我が友たちよ」