表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第2話 食堂デートは、お忍びで。


『ねぇフェリスさん、お父様とお母様って……どんな人だったの?』


 レンゲル家の養子になって、フェリスさんから料理を教わって……少しは孤独が薄れて……でも、時々は、(さび)しくて……夜に泣いてしまって……そんな時に、僕が眠るまで一緒にいてくれたフェリスさんに……そう訊ねた事がある。


 お父様とお母様が亡くなったのは、まだ僕に物心がつく前で。そのせいか、二人には悪いけど……二人が亡くなって数日した頃に……お父様と、僕を抱いたお母様と……そしてフェリスさんが写っている集合写真を見せられるまで……僕は両親の顔を思い出せなくて……だからこそ、両親の事を知りたいと思ったんだ。


『それはそれは、とても立派な方々でしたよッ』


 フェリスさんは、昔を(なつ)かしむように、微笑(ほほえ)みを浮かべて……それから、僕の両親の事を話してくれた。


『私は最初、ルイス様のお母様のレイナ様専属のメイドでした。ですが小さい頃は姉妹みたいに育ちましたから……ご主人様というよりお姉様、な感じですね。


 とにかくそんなレイナ様は、最初はお嬢様だったんですが……なんとお(うち)が没落しまして……でもそんな時、お(いえ)再興のための勉強の過程で、あなたのお父様……レイナ様とは違って、魔力が少なかったという理不尽な理由で家を追い出されて、貴族ではなくなったアラン様と出会いまして、そのご(えん)でお二人は結婚しました。


 お二人は共に勉強熱心な方で、二人で協力して、この王国の将来のための研究をなさって……その功績が王様に認められ、男爵位を叙爵されて……本当にご立派でした。特に、アラン様……私の、お姉様を(たく)せるような……本当に、立派な、方でした……』


 最後の方は、少し……涙声がまじりながら。

 それでもフェリスさんは……全てを話してくれた。


 でも、その時……聞いた話は。

 カウロス兄さんから、聞かされた話のせいで……僕の中で、今にも()()()()()()()()()()()……。


     ※


 お茶会が開催された日の、夜の事……。

 カウロス兄さんから告げられた話に、衝撃を受け……僕は自室のベッドの上で、パジャマにも着替えず…………泣いていた。


 信じたく、なかった。

 でも、カウロス兄さんが……(なん)の確証もなく、あの話をするとは……後々(あとあと)、自分が不利になるような嘘を吐くとは……到底思えない。


「おやすみ前に、申し訳ありませんが」


 すると、その時だった。

 僕以外、誰もいないハズの僕の部屋で…………聞いた事のある女性の声がした。

 でも、いったい誰だったのか……思い出せなくて。思わず大声で、相手が誰なのかを訊こうとして…………意識が途絶えた。


     ※


「そろそろお目覚めになってくださいませんこと?」


 またしても、聞き覚えのある声がして……僕の意識が、覚醒し始めた。

 でも、その声は……僕の部屋で聞いた声じゃなくて……でもどっちにしろ、僕にとってはあり得ない声で……。


「そろそろ強引な事をしたお()びをしたいと思ってるのですが……ッ! ようやくお目覚めですわね、ルイス様♪」


 そして、(いぶか)しげに、おそるおそる目を()けて……僕は絶句した。

 なんと、目の前に……()()()()()()()()()()()イーファ・レイクス男爵令嬢と、その護衛の、イーファ嬢と同じく金髪碧眼(へきがん)の男性……それから、イーファ嬢の専属メイドさんである、黒髪に(とび)色の瞳の女性が……あっ、今、思い出した。僕の部屋で聞いた声、アレは……イーファ嬢の専属メイドさんの声だッ!?


 って、いやいや、それより……なんでみなさん、僕の目の前に……しかも庶民の格好で…………というかここはいったい!?


 すぐに周りを見回す。

 するとそこは、見知らぬ……公園のベンチの上だった。


「いきなりごめんなさい」

 そして、僕が……とりあえず、何が起こったかはともかく、今がいったい、どういう状況なのかを確認した……その時だった。


 なんとイーファ嬢が、僕に……護衛の男性と、メイドさん共々頭を下げた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ゆっくりと二人で話し合える場所に、あなたをご招待するには……もう、こっそり身代わりを置いた上で拉致(らち)するしかありませんでしたの」


 そして、貴族の令嬢が吐くとは思えない、台詞を言われて……僕は、当然ながら困惑した。もしかして……夢じゃないかって、思えるくらいには。


 でも彼女は……イーファ嬢はそんな僕の困惑など()(さい)な事と思っているのか。

 数時間前に……料理のお礼のために呼んでくださって……それで、その時に僕に向けてきた、あの笑顔を……もう一度僕に、向けてきて……。


「ルイス様、ほんの数時間でいいですから……お付き合いくださいませんこと?」


 僕を……秘密の、デートへと誘った。


     ※


「いただきます」


 そう言いつつ一度合掌し、イーファ嬢は……なんと庶民の服装の(ふところ)からマイ食器――ナイフとフォークを取り出し、構えた。


 そして彼女は、目の前に出された料理……ハンバーグ定食を……見ているこちらまで(とろ)けてしまうような笑顔で、食べ始めた。


「んん~~ッ!! 美味(おい)しいですわ!!」


 右(ほほ)に、右手を当てながら……彼女は言う。

 この国の、同盟国である……東亞合衆国には『美味(おい)しい物を食べたらほっぺたが落ちる』という、言葉があるらしいけど……まさに、それなのだろうか。


 というか、いったいここはどこなのか。

 いや、店名は……さすがに分かってる。


【大衆食堂アナトリア】。

 確か、隣国で『日の出』を意味する……そんな、名前を付けられた食堂だ。


 だけど、そのアナトリアがある場所は……いったい、どこなのか。

 屋敷から、一度も出た事ない僕には……まったく見当がつかない。もしかして、イーファ嬢の実家がある町の……中だったりするのかな?


「…………ルイス様? 早く食べましょう? 料理が冷めてしまいますわ」


「ッ!? え、ぁ……い、いただきます」


 でも、その思考は……すぐに、途切れた。

 どういうワケなのか、僕が……イーファ嬢と、そのアナトリアで……一緒にで、デート……というか、食事……を……する事になったのを……改めて、思い出したのだ。


 本当は、こういうのは……婚約者がいる方との、デートは……貴族として、してはいけない……事だと思うけど……でも、出された料理を冷ますのは……料理人として、(かん)()、できなかった。


 だから僕は……僕の前に出された、イーファ嬢が食べているのと、同じ……ハンバーグ定食を食べて…………()()()()()()()


 (なん)だろう、この味は……。

 とても、(なつ)かしいけど……()()、違う……よう、な……?


「…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……ぇ……?」


 そして、僕が目の前の料理の味に……困惑している時だった。

 その僕に、真っ直ぐな視線を向けて……イーファ嬢はそう言った。


「しかし、彼女は弟子を取る前にルイス様の屋敷へと異動する事になり、この食堂の近所の方々は……もうフェリスさんの味が忘れられなくて、それで彼らの中の、特に料理が得意な方々が、フェリスさんの味の再現と並行して、現在経営しているんですの」


「な、んだ……って…………?」


 衝撃的な、さらなる……予想外の事実に、僕は気が動転して……目が回りそうになった。フェリスさんが……食堂を、経営? え、どういう……事なの? 時系列が……分からない……でも、この食堂の、味…………確かに、フェリスさんの味と……()()()()()……()()()()()()()()……。


「ッ!? ご、ごめんなさい、ルイス様」


 すると、どうしたのだろうか。

 突然イーファ嬢は……僕に、ハンカチを差し出して……目元を()いてくれて……もしかして、僕……泣いてた…………?


「……今は、全ては話せません」

 そして……僕の涙を(ぬぐ)い終えたのだろうか……イーファ嬢は、ハンカチを(ふところ)へと戻すと、悲しげに目を細めながら……いきなり、ワケが分からない事を言った。


「ですが、これだけは言わせてください。

 私は、あなたの専属メイドであったフェリスさんを捜していますの。

 もしも、彼女の行方(ゆくえ)をご存知なのであれば……どうか、教えてくださいませんでしょうか? 彼女の主であったあなただけが頼りなんですわ」


「ちょ、ちょっと待ってくださいッ」


 僕は、混乱のあまり……思わず大きめの声を上げて、その場で立ち上がった。他のお客さんの視線を感じて……さらに緊張して、膝が、震えそうになる……でも、どうしても、訊かなきゃ……!


「な、んで……フェリスさん、を…………()()()()()()()()()捜しているんですかッ? も、もしかして、あ、兄に……近付いたのは――」


「…………ぇ?」


『『『『『…………え、えぇえええええええ――――ッッッッ!?!?』』』』』


 次の瞬間、僕はさらに驚愕した。

 どういうワケだか……フェリスさんを…………僕のお母様の事を知っているハズの、イーファ嬢が……(ほう)けた顔をして…………そして、周りのお客さんが、僕へと視線を向けつつ……驚いた声を出したからだ。


「オイ坊主! どういう事だ!?」

「お前、フェリスちゃんの息子だったのか!?」


 途端に、食堂内は……混乱に見舞われた。

 そしてその混乱の中心は……当たり前だけど、僕だ。


 僕が、後先(あとさき)考えない発言をしたせいで……こんな事になっている。


 でも、その混乱はすぐに収まった。

 イーファ嬢の護衛の男性と、専属メイドさん――僕とイーファ嬢の近くで、飲食をしていた二人が立って、何かを(つぶや)いて……お客さん達にいったい何をしたのか、すぐにお客さんが席に戻ったのだ。


「…………詳しいお話を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 そして、そんな二人の主たるイーファ嬢は……僕へと、改めて質問をしてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すいません! ち、ちょっとついて行けてないのですが……?!
[一言] えーーー!?!?!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ