7.惚れ薬じゃない惚れ薬と友人
やや短めです。
「恋してるって、どんな感じ?」
薬の納品を終え、ミアはカフェでシノとティーセットを楽しんでいた。
シノの話では、毎日がキラキラして生きとし生けるもの全てが輝いているらしい。しかし輝いているだけではなく、ちょっとしたことで不安になったり自信がなくなったりするようだ。
シノの場合は仕事の中で、『想い人に来る縁談を断る』という作業が胸を痛めるようだ。縁談を申し込むのも断られるのもシノでは無いのに、まるで自分が断られているような気分になるという。断ってるんだから別に良いのでは、とミアは内心思ってしまった。
「平民のわたしには家から縁談を申し込むことすら出来ないのに」
シノはポツリとこぼす。
ミアから見てシノは美しく自身の生き方に誇りを持った大人の女性に映る。幼い頃の騎士団への憧れをそのままに、騎士団本部で管理職の秘書として勤めているのだ。
シノもミアと同じく平民であるが、シノは母親が男爵家の末娘であり、生粋の平民というわけではない。ただ本人に貴族意識はまったくない。
今まで何度かこうしてお茶をしてシノの想い人の話を聞いてはいたが、今日のように悄気ているシノをミアは見たことがなかった。恋とは総じて楽しいものだけではないようだ。
「そうだ、シノ。余り物なんだけどね、これシノにどうかな。」
ミアはトートバックの底から小瓶を取り出した。一番小さな小瓶に半分も入っていない、薄めた惚れ薬。
本来ならば、1滴で緊張を解き2滴で惚れさせる代物だ。惚れさせるといっても、永久的ではなく、何度か使用することによって、心から惚れられるというものだ。ただこれは薄めてある。
ミアは依頼に応じて薬を提供することはしない。見習いだからだ。依頼を受けて、その依頼に合う薬の選択に渡す量、薬の使い方の説明、どれも判断が重要である。ここ半年ほどレオンは依頼を受けるとミアに考えるように問題を出し、議論を交わしていた。先日の惚れ薬を渡した依頼はミアの意見は聞かれなかったのだがそれは置いておいても、使い方の説明の練習はあまり行っていない。レオン相手に説明してみるも、何か違うのである。
「恋の手助けをする少しだけ積極的になれる薬。ほら、シノ、前にその人と近付くと緊張しちゃうって言ってたでしょ? あなたにピッタリだと思うの」
「まさかコレ惚れ薬じゃないでしょうねぇ」
間髪を容れず言い当てたシノに対して、ギクリと表情に出さなかったことをミアは自分で自分を褒めた。実のところ想定内である。ミアだって考えなしで実習に挑むわけではない。
「惚れ薬じゃないよ。そこまでの効果ないもん」
薄めてるからね!とは口には出さない。
「香水がわりに1滴つけて、お相手の方の近くに行ってみて? リラックスしてきっといつもより自然なシノでいられるわ。普段のシノを見てもらおうよ」
通常の惚れ薬であれば1滴で強い緊張でも解れる。これは薄めているため1滴では強い緊張は解れない。
「くれぐれも量を誤らないで」
いくら薄めていたって多量投与はいけない。もし誤って多くつけてしまって別人に近付いては最悪だ。好きな人どころではない。
「用法用量と使用方法は守ってね」
シノはミアから小瓶を受け取った。
ミアは満足気にニコニコしていたので、シノもまぁいいかと自身のカバンに小瓶を仕舞った。
「それはそうと、ミアはいい人いないの? ほらいつも話している彼とか」
いつも話している彼とはレオンのことだ。毎日魔女の修行をしているミアにとって、ほぼほぼレオンと過ごしているので、なにか話題があれば十中八九レオンとのエピソードになる。
レオンがいい人かどうか。悪い人ではない。
「いい人だよ」
「多分それ違うわ」
「え! 違う? 口が悪い時もあるけど、そんな悪い人じゃないよ!!」
「うんそうね。悪い人じゃないと思うけど、わたしが言ってるのは善悪の問題ではないのよ」
恋愛対象としていい人はいるのかという意味だった。そうかなとミアは薄々思っていた。
「……そういういい人っていうのが、どういう人なのかわかんない」
「一緒にいてドキドキしない?」
「しない」
一刀両断、即答である。
「あら、そう……そのうち現れるわよ、ドキドキするいい人が」
ミアは仕事熱心で出会いがないのでは無いかと、シノはわずかに心配していた。職場の独身男性に女友達を紹介してくれと頼まれた時、ミアが頭に浮かび声を掛けてみたが仕事だと言って断られた。今日も仕事の途中でお茶をしている。ミアに休日というものが存在しているのか、働きすぎなのではないか、出会い云々よりも、過労の方がシノにとっては心配だったりする。




