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2.魔女の弟子入り

 レオンは魔女である。

 人々が言う“西の森奥深くに住む魔女”とはレオンのことであり、その前はレオンの母であり、レオンの祖母であり、レオンの曾祖父であった。

 しかし人々は魔女が代替わりしている事を知らない。それは何十年とわたって何度も魔女の元へ行こうという者がいないことがひとつの要因ではあるが、魔女は魔女のローブを纏う事で、人に同じ姿として認識させる。男だろうが女だろうが、若かろうが年老いてろうが、代が変わろうが、同じ魔女に見えるのだ。



 魔女に弟子入りするにはどうすれば良いのか、ミアは毎月魔女の薬を持ってくる少年に尋ねた。少年はあまり良い顔をしなかったが、魔女に確認してみる、とその日は帰っていった。

 ひと月後、少年は魔女から手紙を預かってきたとミアに手渡した。すぐに返事を書くから待っててと言い、ミアは自室へ駆けて行った。

 “ミアへ”という書き出しから始まった魔女からの手紙。憧れの魔女に名前を記してもらえた事が嬉しかった。きっと少年がミアの名を伝えてくれたのだろう。あとでお礼を言わねばならない。返事も渡してもらう事を考えるとお礼の言葉だけでは足りないかもしれない。

 魔女の手紙にはこう記されていた。


 “未来あるお嬢さんが魔女になりたいと言ってくれる事はとても光栄です。魔女になるためにはしっかりと人の暮らしを学ばねばなりません。家族やお友達と過ごすこと、学校に通うこと、今のミアの生活をきちんと続けて欲しいです。それがまずは魔女の弟子への第一歩ですよ。初等教育が終わったら、ミアの希望を聞かせてください。”


 初等教育は6年までで、ミアはあと2年残っている。それが終わって心変わりしていなければ弟子にしてもらえるということだろう。ミアは急いで返事を書いた。


 “けいあいなる魔女さまへ。お手紙ありがとうございました。わたしはあと2年初等教育が残っています。毎日の生活がんばりますので、卒業したら必ず魔女さまの弟子になりますね。弟子こうほのミアより”


 少年に魔女への手紙を託した。


「魔女さまにわたしのこと伝えてくれてありがとう! お手紙持ってきてくれてありがとう! お返事書けたの、魔女さまにお渡ししてください! お願いします! レオン大好き!!」


 ミアは少年の頬に唇を寄せた。


 2年はあっという間に過ぎた。ミアの魔女への憧れは変わることなく、むしろより強くなっていた。

 卒業式の日、帰ってきたミアを待っていたのはレオンだった。ミアの意向を確認しに来たらしい。もちろん魔女になりたい、弟子にしてほしいと伝える。わかった、と頷いたレオンはこれから西の森の魔女の家へミアを連れて行くと言う。そこでもう一度ミアの意思を確認するということだった。


 西の森に入るのは初めてで、聞いていた以上に険しい道だった。弟子になればこの道を毎日通らねばらなないとレオンは言う。ミアは体力には自信があったが、それでも魔女の家に着く頃にはヘトヘトだった。

 魔女の家のドアを開けてミアに手招きをするレオン。いよいよ憧れの魔女に会えると昂る気持ちを落ち着けるために深呼吸を2回繰り返し、家の中に足を踏み入れた。


「はじめまして魔女さま!ミアと申します!」


 元気よく挨拶を。人は挨拶が大切だとミアは知っている。きっと魔女の世界でも同じだろう。

 ミアが90度のお辞儀から頭を上げると期待していた魔女の姿は無かった。魔女さまはお留守なのだろうかとレオンの方を見遣ると、レオンは真っ黒な布を手にしていた。


「ミア、よく見てて」


 布をバサリと翻し身に纏ったレオンは、髪の毛の色も長さも違う別人、ミアの母よりも少し年上くらいの女性に見える。真っ黒だと思った布は、少し青味がかった黒色のローブだった。


「初めましてミア。西の森の奥深くに住む魔女は俺だよ。さあ、ミア。どうする?きみの憧れの魔女さまは男だ」


 レオンは毎月訪れるたびにミアの魔女への憧れや妄想を耳にしていた。

 人が魔女に持つイメージはあまり良いものではない。しかし、ミアは魔女を女神だと勘違いしているのせはなかろうかと思うほどの理想を抱いている。この2年の間にミアが心変わりしてくれたら良いのに、というレオンの期待とは裏腹に、ミアは眩しいほどに魔女への憧憬を口にした。

 レオンが魔女だと知ればきっと幻滅するだろう。嘘つき、大嫌い、と言われてしまうかもしれない。


「レオン…?」


 ミアの声が震えている。さぞかしショックを受けているのだろう、レオンとして一言謝ろうとキュッとローブの端を握りしめたところ、大きな衝撃を受けた。


「本当にレオンなの! すごい! レオンが魔女さまだなんて!! レオンすごい!!」


 ミアが魔女に抱きついた。傍目から見れば母親に娘が抱きついているようなものだが、レオンにとっては12歳の少女が16歳の自分に抱きついているのである。

 ちょっと止めなさいと引き剥がすがミアはペタペタとレオンの胸元を触る。


「すごい…レオンおっぱいもあるよ!母さまよりも大きい!」


 実際はレオンの身体に変化は起こっておらず、ローブにかけた幻覚作用によりミアの視覚や聴覚、触覚がおかしくなっているだけだ。レオンの胸は真っ平らであるし、どんなものであるかはレオンの知るところではない。


「あ、あの、ミア?」

「レオン! これからご指導よろしくお願いします!! わたしがんばるよ!!」


 キラッキラの瞳で見つめるミアに気圧されたレオンは、うんとかおおとか了承の返事をしてローブを脱いだ。


「やったー!レオン大好きー!!」


 今度は正真正銘レオンに抱きついた。


 こうしてミアは無事に魔女の弟子となった。




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