午後
こんな無駄な時間を過ごしているだけで、もう昼過ぎだった。午前はこいつに付き合わされて散々な目にあったとは言わずとも、これが世間一般からしてみれば充実しているのだろうか。隣でスマホゲームをしている彼からしたら、それはどうでもいいことなんだろうか。
時々、今彼は何を考えて行動しているんだろうと考えることがある。人を連れまわし存分に楽しむその姿は、まるで自分勝手な猫のようだが、それに付き合ってあえて振り回されるのも正直悪くない。元から充実していないからそういったことがいえるんじゃないかと勘繰りされても仕方が無いと思うが、彼の横顔を凝視することでそんな野暮ったらしい考えも吹き飛んだ。
「そういやさ、なんでお前ってバイトとかせんの?」
彼は全く脈絡もなく適当に聞いてきた。そういえば、前のバイトを辞めたのももう三か月前か。そろそろ新しいところを見つけておかないと、こいつのわがままには付き合いきれなくなる。遊ぶ金は欲しいが、それを稼ぐために遊ぶ時間が無くなってしまうという悲劇に苛まれてしまうことを、心の奥底では懸念してるいるんだろうか。
「まあ、気分の問題やな。今年の夏は何もせんと適当に過ごしとくわ」
「そうなんや」
木陰で表情がよく分からなかったが、少しばかり嬉しげな表情に見えた。確かに、バイト漬けの友達がいたら、いざ遊ぶぞってなるときに少し萎える気持ちも分からないこともなかった。
ああ、これで今年の夏もこいつとずっと無駄な時間を過ごすことが決定してしまった。なにも人間的な進化をみせず、ダーウィンにも見てもらえないレベルの発展途上で、僕たちはこの暑い日差しをTシャツに染み込ませていく。でも、この僕たちの夏が発展途上と言えるだろうか。夏だから発展途上ではないかと一人彼の隣で考えこむ時間だった。
明日は明日の風が吹くとは言うけれども、確かにその通りとは思ったことはなかった。明日はきっと昨日の残り香が混じっていてもおかしくない。むしろそうでなくては困る。このスローガンを考えた奴はきっと毎日を頑張れない奴が言い放った言い訳、若しくは、やっぱり言い訳か。でも僕は、毎日を頑張れない。証拠として毎日を毎日を毎日を無駄に過ごしている。こんな気色の悪い、捻くれた独り言を、折角外に出ているというのに頭の中で張り巡らせている。
つくづく隣にいるこいつの脳みそと交換してほしいと願う。でもそれはきっと、こいつのことが羨ましいんだ。こいつは何も考えてないように見せて、僕を家から引きずりだしてくれる。こいつは無邪気な笑みを見せるために僕と遊んでいるんだろうか。それは違うよと、彼の横顔に書いているなんて思ってない。こんな捻くれた思考を捻じ曲げるくらい、こいつは何も考えずに生きている。そう自分に言い聞かせると、彼のようにこの夏を過ごせばいいんだとは思わなくはないけれども、こいつと夏の時間を共有すると、きっと無駄な時間になると思う。そしてこの無駄な時間が、無駄ではないということを、彼は知っているんだ。そう自分の中で答えを導きだした時、
「今日晩飯、びくドンでええ?」
「ええけど、お前鼻毛出てるで」
彼は、ひどく怒ったような、それでもって笑みをこぼさずにはいられないような表情で、脇腹を小突いてきた。