表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

午前

 夏の眩しい太陽を浴びたセミの死骸を見つめていると思いきや、彼は優しく笑みをこちらに振りまいてくれる。氷がカランと溶け落ちるグラスの音が小気味良いと思えば、無邪気でひょうきんな笑顔でチョコパフェをつついている。自転車で並走するその姿はまるで入道雲をも突き破る、それはつまり風の申し子なのかもしれないと思えば、さらりとした汗で額を濡らしている表情、その清涼感は柑橘系の如し。

 どうしたんだと聞かれることがあれば、きっと何も答えることなく、特に必要のない会話の世界に彼を引き戻すだろう。そしてただいたずらに時間を浪費することは厭わない。この夏という時間は、人間本気を出せば、一体どれだけの利益を生み出すことができるだろうか。少なくとも、朝から町中を男二人が練り歩いても化学反応はきっと、起きやしない。夏の一か月半、僕たちには何もない。

 言い訳をしても無駄だった。そもそも言い訳をするための言い訳を思いついておらず、言い訳ができる人間は、少なくともこの無駄な時間をもっと別な無駄な時間、言い換えれば、無駄ではない時間として使うことができている。でも、僕たちのこの時間は、ハッキリ言ってクソ以外の何物でもない。一体、何が悲しくて野郎二人で朝から晩まで一緒にいなければならないのか。特に何をするわけでもなく、これといって思い出になるようなことは無い。

 でも、彼と過ごす時間がクソであることに変わりはないけれど、彼の背中にはまさしく”夏”と書いているように見えた。

 公園の自販機のそばでウンコ座りをしている彼の横顔は、きっと11月中旬ごろにふと思い出すタイミングが来るだろう。寒い冬には温かい食べ物を欲するとよく言うが、僕は真っ先に夏としての彼を思い出す。そうして冬である僕の中に住む、夏である彼は必ずこう言う。「パピコ奢ってや」と。

 朝から迷惑な客として扱われている、チョコパフェ最下層の白玉を飲み込んで自慢してくる、ドリンクバー不法占拠民である彼の表情は、海を見てはしゃぎまくっていた幼少のころを思い出す。ビーチから少しばかり沖合のブイに足を掛けた僕を、屈託のない笑顔で突き落としたあの表情。メロンソーダを飲みながらだと、余計にそのことを思い浮かべてしまう。そんな彼も今はチョコがぐるぐる巻きにされたパフェを攻略している。見るからにアホだった。

 そういえば、ここに来る途中に彼がスマホを忘れたと言っていたので、ダッシュで取りに帰るのを付き合わされた。公園前の坂道をもう一度上るのは本当に勘弁してほしかった。上れば上るたびに、チャリのペダルが軽くなるのやら、重くなるのやら。まだ上りかけの日差しを右頬に受けながら、横目で、彼が何故かは分からないけど爆笑しながらずんずんとタイヤで踏破していくその姿を見るだけで、イラ立ちと、汗と、そして爆笑しながら彼の背中を追いかけていった。


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ