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第二十二話 ー決戦①ー

「お前達の命は我輩が預かる! 皆々は攻撃に専念してくれッ!」

「イエス・サーッ!」


 それぞれが城壁上から大砲や大型弩砲バリスタの砲身を、ヴォルトプスへと向けた。


「マルコじぃ、これを」

「大統領閣下、これは……⁉︎」


 傍らに付いていた老人に、レオニールは指輪を託す。マルコは目を見開き、レオニールを見つめたが、レオニールは視線すら寄越さなかった。


「皆の指揮を頼むぞ」

「おやめくださいッ! あなたに万が一の事があれば──」

「我輩が前線を守らずして、今この面々で誰が守れると言うのかッ!」

「そ、それは……」


 声を荒げたレオニールに、マルコは言葉を詰まらせる。ギルドメンバーで残った者達は、一様に若者か、女ばかりだった。

 長らく戦場に身を置いていた者達は、経験則から勝ち目がないと踏んで立ち去ったのだ。

 マルコが言いよどんでいると、レオニールはフッと笑う。


「一人で心細いなら孫を頼ると良い。あれはあれで良く考える」

「マルクを、ですか……?」

「危なっかしい所もあるが、命を守る事に関してはしっかりしている。吾輩も死にに行く訳ではない、勝算はある」


 レオニールがそう言って振り返ると、マルコの後ろから影が迫る。


「わっちもおる、安心せい。金を払ってもらう者がおらねば、わっちはこのコートより真っ赤な大赤字になってしまう。必ず守って見せようぞ」

「銀騎士殿……」


 ヴァレリはクッフッフッと笑いながら、妖艶ようえんな笑みを浮かべると、マルコの頰を撫でた。


「この国の最大戦力である二人で出向く。皆々の沈んだ士気を高めるのにこれほど効果のある事はない」

「わっちは士気などは分からんが……まあ、戦って金がもらえるならばそれで良い」


 くるり、と。ヴァレリは向き直る。遥か彼方……地平線から闇を背に現れた、黒霧と王者の風格を纏う怪物へと。


「よーし、畜生め! さっさと変化へんげせぬか!」

「む……もっと言い方があるだろう。上官だぞ、わたしは」


 冷や汗を流しながら──レオニールは林の間にある街道を駆け出した。


獣爪術じゅうそうじゅつ……トランス・ウォー」


 レオニールがそう呟いた時──顔に広がるたてがみがぞわりと伸びきり、小さな少年の体は瞬く間に包まれた。

 バチバチと白い雷が走り、緋色と黄金の鬣は球状に纏まり、それを突き破るようにして巨大な爪と前脚が、その毛玉の中から突き出してきた。

 たてがみから背中にかけて、緋色と金色こんじきの長い毛が覆った獣が現れた。鋭く長い犬歯を持つその獅子の王は、周囲を揺るがす程の咆哮を、響かせる。


「あれは……」

「ギルドマスターっス。獣人族ベスティアの持つ力……トランスウォー。本来の姿ってヤツっスね」


 スティリアの言葉に、マルクが解説する。


「大きくなったテレシアみたい……」

「言われてみれば、そうっスね? ただ、テレシアさんのがかわいいんスけど」


 マルクの言葉に、スティリアは冷や汗を流して苦笑を浮かべ、赤いコートを纏った美女を背に……怪物へと向かう巨大な獣へ視線を送る。


「ぼうっとしてる暇はないっスよ。風魔法で敵の霧を振り払うんス」

「うん」


 スティリアが詠唱えいしょうに入ると、マルクはレイチェルを見る。


「いけるっスか?」

『イエス、問題ありません。内蔵型の小型魔素式高圧電磁砲マギアレールガン……エネルギーの充填じゅうてん、済んでいます』


 マルクは苦笑を浮かべると、帽子越しに後頭部をガリガリ掻く。


「タイミングはオイラに任せてほしいっス」

『イエス、一号』


 マルクは豆粒ほどの大きさになった、変身したギルドマスターに視線を向けた。


「支援は任せてほしいっス……」


 悔しげに下唇を噛んだマルクの手は、震えていた。そして……


「サイクロンッ‼︎」


 スティリアは魔法を放つ。巨大な竜巻が空飛ぶ闇の王を襲い、霧を舞い上げていく。


「よっし……これで霧が晴れた。二人が近付けるっス!」


 マルクは、嬉々とした表情で拳を握りしめた。




 一方で、地を駆け抜けていた一人と一匹は、真剣な眼差しをしていた。


『うむ、近付けば近付く程に……出鱈目でたらめな大きさだな』

「怖気付いたか?」


 しかし、表情に似合わない呑気な言葉が交わされていた。重厚な声を響かせてそう語るレオニールに、背の上からヴァレリが小馬鹿にしたように笑って言えば、レオニールは「まさかっ!」と鼻で笑い飛ばす。


『我輩は一国のあるじに等しき存在。普段の姿ならいざ知らず……この姿を晒した我輩はまさに王者! そんな吾輩に敵などいないッ!』

「ならば前回もそうすれば良かったではないか、クッフフフフフ」

『……相変わらず性格の悪い女狐だ』

「そうかえ?」


 怒るな怒るなとその背をポンポンとヴァレリが叩いた時──ヴォルトプスの背から触手が伸びてきた。


『──! 任せるぞ、銀騎士のッ!』

「生意気に命令などするでない!」


 ヴァレリは槍を遥か彼方へと放り投げ、その矛先を地面に突き立てた。


かわすのはお前さんの仕事じゃッ!」

『──! 獅子使いの、荒い事だッ!』


 地に触れると同時に、ボチャリと水が弾けるように先端を散らせる触手を、飛び散った酸液に当たる事もなく、レオニールは鮮やかに舞うが如く回避していく。


「お見事!」

『なれば攻撃はお前の役目だ、銀騎士!』

「既に種はいたわい」


 ヴァレリの言葉に、獅子は「フム」と小さく唸る。


「天を突け、牙龍天晶がりょうてんしょう


 ヴァレリの言葉に応じるようにして……槍の落ちた地面からはバキバキと樹氷のように、結晶が枝分かれを繰り返しながら伸びていき、あっという間に怪物の進行を妨げる壁となった。


『うむ、相変わらず君の槍も出鱈目でたらめだったな!』

「ほほっ、そうじゃろそうじゃろ?」


 嬉しそうにヴァレリは笑う。やがて結晶の樹木は伸びきり、バキりと音を立てながらトゲトゲしさを増した幹と枝を以ってして、闇の王を待ち受けた。


 ヴォルトプスは……少し進行速度を遅くしたかと思うと、上部の触手を無数に解き放ち、枝へと巻きつけた。


「無駄じゃ。オヌシ如きでその槍を砕く事は叶わぬよ」

『ほう! 何故そのことを伝えなかった?』


 聞かれなかったからじゃ。と返すヴァレリに、レオニールは「ムム、これは失態」とくぐもった声を返す。


「まあ、時間は稼げるじゃろ」

『攻撃には転じぬのか?』

「わっちが試しておらぬとでも?」


 それもそうだ、と駆けながらにしてレオニールは笑う。そこで、ヴァレリは


「掴み取れ、大星包檻たいせいほうかん


 パチリ、と指を鳴らす。すると枝からさらに結晶が伸び、触手を伝ってヴォルトプスの体を網目状に青水晶で包み込み、怪物の動きを抑制した。


「こんな事ならできるぞ」

『ほーう! これは真っ先に知りたかった』


 レオニールが大袈裟おおげさな声を上げると、ヴァレリは「クフフ」と笑う。


『これはわざと黙っていたな?』

「奥の手は隠しておくものじゃ」

『それなら使い方を間違っている』

「なぬっ⁉︎ そうなのか?」


 驚くヴァレリに、レオニールはため息をつく。


『味方を騙してどうする?』

「なるほど、これは一本取られたわい」


 などと話していると、上から降ってきた半透明の触手が、どちゃりと音を鳴らしながら地面で弾け飛んだ。


『言っている場合か! 退避するぞ!』

「うむ。む……? あれは──」


 ヴァレリは気付いた。触手の中に黒い球状の塊がある事に。その塊はパキッと亀裂を走らせたかと思うと、殻を割って中からどろりとした人型に近いカエルのような生物を生み出す。


「悪趣味にも程があるじゃろ……」

『如何した、銀騎士の?』

「……敵が増えた。信号弾を出すぞ」

『──なんと! すぐに頼むぞ!』


 ヴァレリはレオニールが言い切ると同時に、胸の谷間から筒を取り出すと、伸びていた紐を引っ張る。

 赤い光と煙が空高くへ舞い上がり、狼煙のろしを上げた。




「──ッ! 敵に増援出現っス! 警戒されたし!」

「なんですって⁉︎」


 マルクの言葉に、スティリアは声を荒げて反応した。その動揺は、周囲の人々にも広がる。


「すぐに戦える人々を集めて前衛を固めるっス! いくらヴァレリさんとギルドマスターが強いと言ってもわざわざ狼煙を上げるくらいとなると多勢に無勢……絶対取りこぼすはずっス!」

「そんな! ……ッ! キャロルッ‼︎」


 スティリアは声高く名を叫ぶ。しかし、城壁の上、その下……どこを探しても赤髪の少女は見つからなかった。


「キャロル……?」

「どうしたんっスか? スティアさん」


 オロオロと周囲を見回すスティリアの様子に、マルクが声をかける。するとスティリアはすぐに振り返り、マルクの肩を掴んで揺さぶった。


「マルクさん! キャロルがいないのッ‼︎」

「そんなッ⁉︎ まさか……ッ!」


 マルクは首元に垂らしたレトロな単眼鏡を伸ばし、前方を見る。その中に……早馬を走らせていたキャロルを見つけた。


「んなッ……⁉︎ キャロルっス‼︎」

「──! 貸してッ!」

「どぉぅッ⁉︎」


 マルクの首元に手を回したスティリアは、単眼鏡を奪い取るようにして持つと、すぐにキャロルを捉えた。


「キャロル……!」

「ちょ、スティアさん⁉︎」


 投げ捨てられた単眼鏡を慌てて拾い上げたマルクは、スティリアの行動に驚愕の声を上げた。


「何してるんスか⁉︎」

「魔法なら、追いつくかもしれない!」

「ちょ──」


 マルクが止めるよりも早く。スティリアは城壁を蹴り、その身を投げた。


「空駆ける力を──ウォーレライッ!」


 スティリアは更に城壁を蹴り、馬よりも速い速度でキャロルへと向かった。


「〜〜ッ‼︎ 揃いも揃って勝手ばっかりっス! レイチェ──」


 声を掛けようとしたマルクだったが……お目当ての黒髪の少女は見つからなかった。

 ハッとして城壁の下を見れば、白色装甲を纏った少女──レイチェルは既にスティリアを追いかけていた後だった。


「んぬぬぬ……どんだけ自分勝手っスか⁉︎ 祖父に城壁の上任されたオイラの身にもなって欲しいっスよ‼︎ こうなったら、頼むっスよォ……」


 後頭部をガリガリと忙しなく掻き、冷や汗を流しながら、マルクは力無く呟いた。




『マスター!』

「──‼︎ レイチェル⁉︎ どうしてここへ⁉︎」


 スティリアは驚愕した。レイチェルが無表情のまま、駆ける速度を上げると、膝下から電流が走る。


「あなたは戻って‼︎ わたしもすぐに戻るから‼︎」

『すぐに戻れるなら追従しても問題ない、と回答します』

「〜〜ッ! もう! そんな頑固な所、誰に似たのよ!」

『マスターです』

「……はぁ…………」


 淡々と告げられる答えに、スティリアは口をつぐんだ。それはそうだと言わんばかりに、ため息をつく。

 そうこう話している内に、馬よりも速く移動していた一人と一機は、容易くキャロルに追いついた。


「止まって、キャロル」

「スティア⁉︎ なんでこんなところにッ‼︎」


 眼前に降り立ち名を呼ぶスティリアに、馬を止めたキャロルは、寝小便を発見された子どものようにバツの悪そうな顔をする。


「アタシは行かなきゃならねえ、退いてくれ」

「今あなたが行けば……確実に死ぬわ」

「──ッ!」


 鋭い眼光を、一身で受け止めるようなスティリアの真剣な眼差し。キャロルは歯ぎしりをした。


「ならどうしろってんだッ⁉︎」


 キャロルの悲痛な叫びが響く。しかし、スティリアは無言のまま、強い瞳でキャロルを見据え続ける。キャロルはドキリとしたように目を背けたが、スティリアは揺らがない。


「あなたが死なない事が……〝生きている二人〟にとって一番大事な事だわ」

「──‼︎」


 スティリアの言葉に……キャロルは目を見開き、逸らしていた視線を力強い藍色の瞳と交わした。揺らぎない眼光に、キャロルは瞳を揺らしてしまう。キャロルは乾いた声で「ハハッ」と笑った。


「なんて目で、見てんだよ……。戻るしか、ねえじゃねえか……」


 キャロルは下唇を噛み、悔しげに大粒の涙をこぼした。それはポタポタと……馬の鞍を伝い、馬の毛に馴染んで消えた。


「……あなたを死なせてしまったら、わたしは二人に合わせる顔がないわ。お願いだから、ね?」


 慈愛に満ちた目と声で……スティリアは歩み寄る。項垂れるキャロルの頭を、スティリアは優しく撫でた。


 ……そんな二人の光景をジッと見ていたレイチェルはガサリと、わずかに葉が擦れた音にハッとする。


『敵勢力出現! ここはわたしが時間を稼ぎます、マスターとキャロルはすぐに避難してください!』

「──‼︎」


 レイチェルの発言に、スティリアとキャロルは黒髪の少女の視線を追う。

 すると木々の上から、浅黒い緑色に黄色いラインを走らせた人型の筋骨隆々なかえるが複数、葉を掻き分けて現れた。浅黒い肌が首都側からの光を反射して、鈍く光る。


「……! 死なないでね、レイチェルッ!」

『イエス、マスター!』


 言いながらにして、跳躍してスティリア達へ襲いかかろうと飛びかかったその魔獣を、レイチェルも同じく跳躍して蹴り飛ばす。

 スティリアは、急いでキャロルの馬へと飛び乗ると、キャロルの肩を叩く。

 すると涙目になっていたキャロルはハッとしたように手綱を巧みに操って、馬を一八〇度方向転換させると、その場を後にした。

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