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神に閉じ込められたので、誰か助けてください。

 その教室には誰もいなかった。いるのは俺と、この突然現れた神様だけ。俺にはわかる、彼はイエス・キリスト、聖書において神の子とされている者。しかも三人、まったく同じ顔でこちらを見ている。やめてほしい。人見知りの俺にあの目線は耐えられない。イエス一号は言われた。

 「どうされたのですか。何も恐れるものは無いのですよ」

 いや、お前らだ。今ここにあるものでお前らが一番恐ろしいよ、怖えよ。まだ一人なら耐えられるが、それが三人もいるんだ。やめてくれ、そんな神様みたいな穏やかな笑顔で俺を見るのはやめてくれ。

 七月、もう期末テストまで残りわずかというのに、これじゃあ勉強ができん。

 イエス二号が言われた。

 「まあ、とりあえず席に座りなさい、恐れていては、何も始まらない。はっきり言っておく、神はどんな不安の中にいようと、あなたのそばにいる。だから恐れるな。自信を持って前に進みなさい」

 違う、そうじゃない。お前らが怖いの。とりあえず分身はやめてくれ、怖い。

 シーン、と静かな教室に男四人は立っていた。一人は目の前の光景が理解できず、残りの三人は優しい笑顔で、一人の男を見ている。


 キーン、コーン、カーン、コーン。キーン、コーン、カーン、コーン。


 「予鈴がなった。とにかく座らなければ始まらない。座りなさい」

 イエス三号が言った。

 仕方なく、俺は席に座った。椅子を引く音が、教室に響いた。いつもの音だが、どうにも落ち着けない。そりゃそうだ、神が三人いるのだから。とにかく礼拝が始まる、早く移動しなければ、と目の前の光景を無視して俺は聖書と賛美歌を持って教室を出ようとした。

 「待ちなさい。まだお祈りをしておりません」

 「お、お祈りは、礼拝の最後にやるものじゃ・・・。」

 少なくとも、俺のクラスでは、礼拝に行く前のお祈りは無かった。いや、お祈りがあろうと、無かろうと、この教室からいったん出たかった。

 教室には俺の机と以外の机は無かった。どうやら俺はこの神三兄弟と三対一で話すらしい。話す?そもそもこいつは何でここにいる。さっきは俺が祝福を受けたとか何とか。

 「天に致します、我らの父よ、・・・」

 うわ!いきなり祈りだした!仕方ない、俺も祈るか。

 俺はゆっくり席に座り、手を組んで、目を閉じた。

 「今日も穏やかな朝を迎えることに感謝いたします。今日も一日、私、そして彼に祝福がありますように、あなたがどうぞ、お導きください。この祈りを主イエスキリストの名によっておささげ致します。アーメン」

 「ア、アーメン」

 アーメンとは俺もそう思います、という賛成の意味を持つらしい。

 短く祈りをささげたあと、俺は教室を出た。すぐ目の前に階段があった。それを降りた。礼拝堂は一回にあった。朝早く四階まで上ったのにまた降りなきゃいけない。階段を下りたら、立派なステンドガラスによって色鮮やかな光が差し込んでいる明るい礼拝堂があった。いつもの礼拝の席に座ろうとする、そして気づいた。誰もいない。普段なら司会である校長が舞台の前で立ち生徒全員がそろうのを待っているはずなのに。誰もいない。今日は学校は休みなのだろうか、と思ったらほかの学年の生徒が十五名ほど礼拝堂の扉から入ってくるのが見えた。彼らはいったい何なんだろう。俺はいったい何をしたのだろう。

 舞台の上にあのイエス一号が立った。続けてイエス二号が礼拝堂にあるオルガンピアノを弾く準備をし始めていた。

 予鈴が鳴った。礼拝の始まりの合図である。

 「これから、朝の礼拝を始めます」

 イエス一号が言われた。

 「ちょっと待てええええええ!」

 前のほうに座っている男が叫んだ。あれは中学三年生だろうか。ヤンキーだ。

 「これがいったいどういう状況なのか説明しろや!」

 ヤンキー君気持ちは分かるがやめてくれ。今は礼拝の時間だ。

 「何で俺らだけがここにいる!何でみんなはここに来ない!俺らだけ学校に来させて!ぶっ殺すぞゴラア!!」

 「そうよ!早く説明しなさいよ!」

 うわあ、なんだあれ、ギャルだ。はじめて見た。金髪にロングヘア、顔は見えないが、後ろ姿を見るだけで分かる。ギャルだ。

 「仕方がありませんね。ではこの礼拝の時間はここにいる人間たちについて説明しましょう。ここにいる人間は、皆ある三つの条件のどれかに当てはまる人たちです。一つは、神を拝むことすらできない弱者たち。神を求めるべき弱者です」

 「俺たちが弱えって言いたいのか。よしぶっ殺す、表で出ろゴラア!」

 落ち着いてくれヤンキー君、まだ話は終わっていない、と言いたかったやめておこう、ああ言うタイプは苦手だ。

 「落ち着けこの馬鹿。話は終わっていない」

 ああ、言ってしまった。ああいうタイプの人間を止めると大体けんかになる。だからああいう人間は嫌いだ。

 「ああ?てめえ今馬鹿つったか」

 「事実だろ」

 「てめえもう一回言ってみろ!殺すぞ!」

 彼らの声は、礼拝堂中に響いた。まったくこれだから中学生は。だが止めない、止めるのがめんどくさい。

 「言っただろ、ここにいるのは、三つの条件どれかに当てはまる人間だお前は後の二つかもしれない。落ち着いて話を聞いたらどうだこの馬鹿」

 「なんだと!!!」

 「やめて!二人とも!私は聞いてからあの神様の話を聞いてからにしたほうがいいと思うの。だからその・・・やめて」

 おお、美人だ。アニメで言うところのヒロインだ。実際かわいい。

 「彼女の言うとおりだ、くだらないけんかはよそう。時間の無駄だ」

 こっちは天才キャラだ。めがねを上げて相手を正論で煽ってくるいやなキャラだ。

 「チッ!分かったよ。続けろクソ神」

 「二つ目は神にまったく信仰心が無い人間。神を拒む人間」

 なるほど、そういった人間に信仰心を植え付けるのが目的か。実に神らしい。

 「そして三つ目は、罪人、人を殺す、金を盗む、嘘をつく、これらなどの罪で人を傷つけた人間。あなた方全員がこのどれかに当てはまります。これに当てはまった人間は、これから三年間。子の学校『聖心学園』に通ってもらいます。そしてここにいるあなたたちは三年間、ここから出ることができません」

 「何だと!!」

 ヤンキー君が口を開いた。そりゃそうだ、俺も驚いてる。つまりこの学園は牢獄になるということだ。神にとって都合の悪いもの、神にとって救うべきものを閉じ込める牢獄に。俺は思った、ここは牢獄だと神が作られた聖なる牢獄。そこで俺たちは学園生活を送らされることになった。

 ・・・誰か・・・助けてください。

 

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