ゆるやかな餓死
しゃりしゃり。
空虚な心に、セロリをかじる音だけが響く。
しゃりしゃり。
美味しくはない。元々セロリは食べられないほど嫌いではないが、進んで食べるほど好きなものでもなかった。
でも最近はセロリばかり食べている。
しゃりしゃり。
きっかけは数日前に見たネットの記事だった。
――セロリは摂取するカロリーより消化に使うカロリーの方が多いため、セロリだけ食べているとゆるやかに餓死する。
その記事にはそんなことが書いてあった。
はっきり言って、眉唾な話だと思った。記事内で語られている理由には科学的根拠はないし、そもそも食品ごとの消化カロリーなんてどうやって調べるのだろうか。巷にはマイナスカロリーダイエットとか、食べるだけで痩せるとか、同じような理屈で紹介されているものも多いが、どれもこれも胡散臭いものばかりだ。
そもそも私はダイエットの必要性を感じてはいない。もう少し太った方がいいのではと思っているくらいだ。
それでもその記事に惹かれたのは「ゆるやかに餓死する」という表現のためだった。
しゃりしゃり。
それ以来、セロリばかりを食べている。
しゃりしゃり。
本当にゆるやかに餓死するのか。別にそれが知りたいわけじゃない。きっとその前に栄養が偏りすぎて倒れてしまうだろう。
そうなる前にこんなバカなことはやめなきゃな。
そう思いつつ、今日もひたすらセロリをかじる。
しゃりしゃり。
いったい、私は何を求めてゆるやかな餓死に向かおうとしているのだろうか。
しゃりしゃり。
その答えは内心ではわかっている。
けれども、それを直視することはできなかった。
しゃりしゃり。
絶望から目を背け、絶望へ向かってセロリをかじる。
しゃりしゃりしゃり。
「にがい」