キスしよっか?
ベンチの周りには桜の木が生い茂る、後数ヶ月早く来ていれば満開の桜が見えたであろう。
今は梅雨入り前、少し雲っているが、雨の心配は無さそうだ。
公園には数組の家族が居るだけ、僕らの事は気にも止めていない。
僕と妹は二人木陰のベンチに座り、腕を組肩を寄せあっている。
妹は目を瞑り僕の肩に頭を乗せた。
妹の髪の匂い、僕と同じシャンプーの筈なのに、嗅いだことの無い、良い匂いが僕の鼻孔をくすぐる。
妹と二人で思い出の公園デート、同じ趣味を共有する僕と妹は妹物の小説の様に二人でお互いの好きなキャラを、理想の兄妹を演じている。演じている筈なんだけど……妹が凄すぎてついて行けない。
「えっと……空?」
暫くじっとしていたが、何をしていいのかわからない、空の意図もわからない……そもそも女の子とデートがわからない……僕はあたふたしてしまう。
「…………お兄ちゃん、好き……」
「え? ええええええええええええ!」
このタイミングで告白……えええ! 本当に? 嘘、マジで!
やっぱり妹は僕の事をこれって、演技じゃ……
「…………あーーーーーーもう、違うでしょ! そこは俺もとか私の肩をそっと抱くとかでしょ!」
「えーーーーーーー!」
「えーーーじゃないよーー、兄ちゃん真面目にやってる?」
妹が顔を上げ激おこぷんぷんの表情に変わる……やっぱり演技なんだ……
「いや、えっと……あの……」
「も~~~~、これじゃいつまで経っても私の理想のお兄ちゃんになれないよ!」
「あ、うん、ごめん」
うちの妹は僕の理想の妹の天才か? 凄すぎる……本当に僕の事を好きなのかと……
あの好きって言葉、言い方、表情……何もかも本気に見えた、聞こえた。
「もう、兄ちゃん、いつもちゃんと読んでる? キャラは生きてるんだよ? 何を考えてるか台詞以外の部分を考えて読んでる?」
「いえ……そこまでは」
「そうか……だからか……あのね、あの小説のお兄ちゃんはどこまでも優しくそして誠実なの、そして妹ちゃんはどこまでも突っ走ってるの、もう全てをお兄ちゃんに委だねているんだよ? この意味わかる?」
「い、いえ」
「兄ちゃんの理想の妹ちゃんはお兄ちゃんが好きで好きで堪らないの、全部を身も心もお兄ちゃんに捧げているの、お兄ちゃんを信じきっている女神みたいな娘なの、そしてお兄ちゃんはそれを受けて止めているの、妹ちゃんの全てを受け止め、しかも傷つかないように優しく優しく受け止め、尚且つ暴走を止める意志の強さも兼ね備えているの、格好いいの」
「そ、そうなんだ……」
そこまで考えて読む? セリフを読んで書いてある容姿を想像たり、挿絵を見たりして可愛いって思うんじゃないの?
「わかってなかったんかーーい」
「いや、ただ可愛いとしか」
「可愛いって思うのはそう言う情報を文字に書き込んで読んでいる人の心に刷り込んでいるんだよ、絵と違って文字でそう思わせるって凄いんだから」
「うーーん、でもあの作者がそこまで考えいるとは……本当に?」
「そ、それは私も自信はない」
「ないんかーーーい」
「でもでも、絵じゃ無いんだから、兄ちゃんはそう言う事を想像して読んでるんじゃないの?」
「い、いえ……挿絵とかが無いとなかなか……」
「はあ……兄ちゃんの国語の成績が悪いのが何でかわかったよ……」
「ごめん……ってなんで僕の国語の成績を空が知ってるんだ?」
「え? えっとおお、なんでだろう~~」
いや、そんな白々しいとぼけ方を……隠し場所変えないと……エロ本と一緒に悪い点数の答案用紙隠してるのバレてる……
「と、とにかく、ちゃんと考えて!」
「あ、はい!」
「じゃあ続けるよ」
「は、はい! よろしくお願いします!」
僕がそいうと、妹は再び僕の腕を自分の腕と絡め、体をピタリと寄せ頭を肩に乗せ言った。
「お兄ちゃん……好き」
すげえな、一瞬で切り替えが出来るなんて……
「えっと……俺も好きだよ」
「嬉しい…………ねえ…お兄ちゃん……キス……しよっか」
………え~~~~~~~~~~~~~~!
一体妹は本当に演技してるの? 僕をからかってるの? そしてこれってどう返せばいいの?
まさか……本気で……するの?