思い出の公園
今から妹とデートをする事にした。
いや、マジで……
展開早すぎ、マジでらのべかよ、ってまあ小説参考にしてるんだからそうなるよな。
「お、お兄ちゃん……お待たせ」
そう言って部屋から出てきた妹は……春を思わせる花柄のワンピースに黄色のカーデガン、編み込みをしアップをした髪にベレー帽姿だった。
「あ、ああ……」
「えっと……なんか言ってよ……」
「あ、ああそうだな、えっと……小説と一緒だな」
今読んでいる二人のお気に入り小説で、兄妹が初めてデートをするシーンがある……その時の妹と同じ格好……でも確かメガネが……まあいきなりでそこまではないか。
「もう~~そうじゃないでしょ!」
「あ、ああ、うん、可愛い、可愛いよ」
「うん……あ、あり……がとう」
恥じらいながら素直にお礼を言う妹、いや、本当に可愛い……やっぱり妹も女の子なんだと実感する。
「じゃ、じゃあ行こうか」
「うん」
そう言って僕と妹は家を出る、思い出の公園は家から電車で30分、駅からバスで10分位の所にある公園。
小学校低学年の時まで住んでいた公団住宅、東京の住宅街に一軒家を購入して引っ越すまで住んでいた場所、その近くの公園の事を指す。
そして僕と妹が外で一緒に遊んだ最後の公園……
「お兄ちゃん……えっと……手を……」
「手?」
「う、うん……えっとその……やっぱり……手を」
赤い顔でそう言う妹……何? 手? …………ああ!
「ああ、手ね手を繋ぐと言うイベントね!」
「い、イベントとか言うなし」
「あ、ご、ごめん」
「兄ちゃん今一入り込んでない! もっと真剣にやってよ」
「あ、ああ、うんごめん、うん……そうだな、じゃあ」
す、凄いな空は……ここまで真剣に、そうかやっぱりそこまで真剣に好きなんだな、妹物小説、兄ちゃん嬉しいぞ! 俺も頑張らないとな!
「よし、握るぞ!」
「う、うん、どんと来い!」
数回チョンチョンと手を触ると、徐に握ってくる……え、ええええ、これは……うわ恥ずかしい……さすがにこれは、すげえな空よ、そこまで入り込んでいるとは……
恋人繋ぎで手を握る妹、これはちょっとハードル高くて兄ちゃん手汗が半端じゃなく出てきたぞ。
『うーーーわ手汗凄すぎ……キモ……』
なんて言われるかもとビクビクしていると聞こえてくるのは妹の鼻歌……あれ? 平気なの?
そっと妹の方を見ると……ニコニコした笑顔で歩いている。そして俺が見ているのに気付くと、握っている手をギュっと強く握り、満面の笑みで俺を見て繋いでいる手を大きく降る。
滅茶苦茶嬉しそうなんだけど、演技だよな? 空さん流石っす、凄いっす。
そこまで入り込むとは……いや、そんな事を言ってる場合じゃない、見習わなければ、僕も見習って、もっともっとこのシチュエーションに、この二人の物語に入り込まなければ。
僕も妹を見習い、気合いを入れてこのデートを楽しむ事にした。
そのまま手を繋ぎ電車に乗る、そしてたわいもない会話、前に読んだ妹物らのべの話し、前は半分喧嘩腰の会話だったが、今は違う、今は同じ趣味を持つ恋人……という気持ちになっている。いや楽しい、こんなに楽しく妹と話した事なんて記憶がない、凄いな、半端ないな、実の妹と妹物らのべごっこ……凄すぎる……絶大な効果があるよこれ、どこかに投稿しようかな?『仲の悪い妹と一瞬で仲良くなれる方法』って言うタイトルで!
楽しい時間はあっという間に過ぎていく、僕と妹は目的地、思い出の公園に到着した。
休みの日とあって、公園には親子連れがなん組か居た。でも数年前、僕たちが居た頃より人減った感じがする。幼なじみもかなり引っ越したと聞いている。
「小さいね……」
「うん……」
妹は公園を見てそういった、僕は何が? とは聞かなかった。 同じ時代の同じ記憶……妹の「小さいね」は、すぐに公園の大きさ、遊具の大きさを言っているのがわかった。
手は相変わらず繋いだまま、僕と妹はブランコで遊ぶ子供を見つめていた。
兄妹で手を繋ぎこの公園に二人で来た……一緒にブランコに乗って一緒に滑り台で滑った。二人の記憶、二人の思い出。
ノスタルジックな雰囲気に飲まれ少しメランコリーな気持ちになる……なーんてね、小説の真似事をしているせいか、そんなお決まりの文章が頭を過る。
「どうしよっか」
来たのは良いけど、特にやる事はない、同じように子供を見つめている妹にそう問いかける。
「とりあえず……あそこのベンチに座ろ」
妹は木陰のベンチ指差した。
「あんな所にベンチなんてあったっけ?」
「前はなかったよ、だから座ってみたいの」
「そうか……良く覚えてるな」
「うん……覚えてるよ……お兄ちゃん遊んだ公園だもん、最後に一緒に遊んだ公園……」
どこか寂しげな表情、寂しげな声……ちょっと待って……これって……本当に演技なの?
名女優も真っ青な妹迫真の演技……女は皆女優だって言うけれど、本当に?
手を繋いだまま僕と妹は公園ベンチに腰かけた。
すると妹はここでようやく手を離した。とすかさず今度は僕の腕に自分の腕を絡め、さらに頭を僕の肩に……うわ、うわ、うわあああああ……
凄い、凄すぎるよ……ど、どうしよう、妹の演技について行けない。
あまりののめり込みに、妹の迫真の演技に、僕はそのまま硬直してしまった。