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久遠の刻  作者: 犬崎 エイジ
0章 プロローグ
1/12

プロローグ

初投稿です。よろしくお願いします。

 燐奈が目覚めると[最期の選択]が表示されていた。


『Will To Liveをご利用していただき、ありがとうございました。プレイデータを引き継ぐことができます。引き継ぎますか?』


 【いいえ】が正解だ。【はい】を選ぶと死んでしまうらしい。


 ヘッドマウントディスプレイに質問文と【いいえ】だけの選択肢が表示されていた。おもしろ半分で【はい】を選択した結果、本当に死んでしまった人の話を聞いたことがある。なぜこのシミュレーターがまだ存在しているのか不思議でならなかった。けれど、"見かけ上は"【はい】の選択肢は消えているためだ。


燐奈はヘッドマウントディスプレイを両手でつかみ。思いっきり右下にずらす。


「くそっ、この!」


 頑丈に固定を強引に動かしたことで掛け布団を蹴飛ばされ寝巻姿が露になった。

 黄色いストライプの入った寝巻は汗で湿っており透明感のある匂いが漂う。押し上げられた布地は絶妙にはだけ白磁の双球の谷間が見え隠れして"ちら見せ"状態になっていた。もし思春期の狼さんがこの場に居たら襲い掛かってくるに違いないが、幸いにも彼女の自室はそんな危ない所ではない。

 癖っけのある茶髪を振り回しながら、何とか右下にヘッドマウントディスプレイを固定したころには肩で息をしていた。


「はぁ、はぁ……うわっホントに出てきてる……」


 【はい】が消えたというのはそれはあくまで見かけ上の話。描画領域の端に一ドットだげボタンの判定があり、そこを押すと「本当によろしいですか?」と確認メッセージが表示された。燐奈は今まさにボタンを見つけて、ただの噂ではないことに驚いていた。

 押してしまったのは、好奇心もあったがこんなボタンあるはずが無いとたかを括っていたからで本気で【はい】を押すつもりはない……。


「こんな危ないものが残っているなんて……」


 確認メッセージをすぐさま消し、【いいえ】を選択する。ふうっと一息つく。

そしてまた体を捩りまわしてディスプレイの位置を元に戻すと、端末の中身を確認しだした。


「肝心の"目的"はあるんでしょうね? 頼むわよ~!」


 ストレージ空間を探るとWill To Liveを起動した時にはなかった一つのドキュメントファイルを見つかった。そのファイルは『夏休みの宿題』と書かれていた。

パラパラとページをめくり全て答えが書かれているのを見て思わずガッツポーズを取ってしまう。


「完璧、すっご~い! マナの話はホントだったんだ」


 やった覚えが一切なが燐奈が本人の筆跡で書かれた『夏休みの宿題』があったのだ。あまり期待をしていなかったが、想像以上の完璧さだ。思わず自分の肩を抱き、右へ左へとのたうち回って喜んだ。

 筆跡鑑定ツールのため、直筆以外だと簡単にばれて再提出を食らってしまうから困っていたが本当によかった。


 この夏も終わりに迫っていた8月25日とてもピンチだった。誰だって夏休みの半分は費やさないと出来ないような膨大な量の宿題だ。残り少ない夏休みで片付くはずがない。藁にも縋るつもりで、マナに宿題を貸してくれと頼んだら、なぜかこの『Will To Live』を紹介してくれた。


 『Will To Live』――脳地図を精密に複写したAIを使って、仮想の都市に百年間住まわせてその様子を観察するシミュレーター。"目的"を決めて、百年分の時を過ごさせることができる。リアルタイムでその様子を観察することはできないが、ログなどでAIが何をしていたのかを確認することができる。

 もし自分がサッカー選手を目指したり、宇宙飛行士を目指したらどうなるのか。

 自分と同じ思考同じ能力をもつAIがソレを目指して百年間努力し、その結果どうなるのか見ることができる。

 このシミュレーターで実際に夢が叶おうと叶わまいと実際に現実世界の自分がそうなれるのかはわからないんだけど、でも自分にその資質があったのか、あるのかと言うのは誰でも知りたい。そんな疑問に答えてくれるわけだ。


 だけど、このシミュレーターには裏ワザがある。

 "目的"に『夏休みの宿題を終わらせて』というように実際に何かをやらせるのだ。

 そうすると"目的"にそってAIが最適な答えを出してくれる。

 まあ、百年もかけてこの宿題をやったと考えるととんでもなく無駄なことのように思えるが、燐奈自身は一夜のうちに行われた事なので、別に気にも留めなかった。


「あれ、何これ?」


 最後のページまで捲りきると、背表紙の不自然な書き込みに気づく。そこにはこう書かれていた。


『ワタシへ、このメモを見るのは[最期の選択]の後だということはわかっている。それでもこれだけは言わせて、ワタシはこの選択をすごく後悔する。私は消滅を恐れているわけじゃない、この記憶を残せないのが悲しくてならないの。でも、この世界に私の生きた痕跡は残っている。ワタシが再びこの世界に降り立ったとき、更なる高みへ押し上げてくれる。それだけが私の唯一の救い。

ワタシへ、今度は[最期の選択]を間違えないようにして。そして傍らに居るであろう彼を救ってほしい』


 私とワタシが違う意味を示しているような不思議で不可解な文章だった。この文を書いたのは脳地図(ブレインマップ)をフルマップコピーした私のAIなのだろうか。それとも『Will To Live』の演出?

 辛うじて分かるのは[最期の選択]というのがリンナが先ほど行った【いいえ】を表していることだけ、マナからも注意を受けていたから知っていた。でも文面的には【はい】を押せということなのだが、勿論そんなことはできない。


「麻菜はこんなのがあるって言ってなかったわね、後で聞いてみようかしら」


 こうしてリンナの夏休みは無事終わりを告げた。

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