首吊りの予定
2作目。暗くて短いお話です。
今日も、首を吊らなかった。私は寝床でそんなことを考えながらラジオを聴いている。プロの話は面白いなあと笑いをこぼしつつ、深夜も2時になっていたのに気付く。もう眠らなくては。のろのろとイヤホンを外し、本当の意味で寝床に就いた。以前、イヤホンをしたまま思い切り寝返りを打った、あの時は耳の穴が広がったのではないかと疑うくらい痛かった―そう思い痛みを心で再現しようとした途端、私は意識を失っていた。
早く眠らなくては、つまり早く起きなくてはと予定立ててはいた。しかし起きたのは午前ももう終わりかけた頃だ。別に、困ることはない。はじめから社会的なスケジュールなど1つもないのだ。
「ああ、早く首を吊って、首を吊って・・・」
呟きながら起き上がる、数日剃っていない髭を身に纏った28歳。見た目年齢とでも言うのだろうか、20歳とも40歳ともとれる。これは人の役に立った過去がない人間に見られる現象だ。人は無意識のうちに、初めて会う・見る者の容姿から経験を読み取り、その平均を「何歳ぐらいかな」という想定として準備している。経験を持たない者からは、算出のために必要な2要素のうちの1つである後者が得られない。だから分からない。
仕事が、続かない。それが役に立った経験がないということだ。何度かした分だけ、ニートというやつよりマシなのかもしれない。男が部屋を借り公共料金を払えているのはその何度か就いた仕事で蓄えたものの数十万ぽっちが残っているからである。
「もう終わりだ。あの時に戻れたら。」
そう言いながら、着替えた男は飯を食い食器を洗う。歯を磨き、テレビを見る。パソコンを開き、目的もなく架空の世界を彷徨う。
「首、首、首吊り。」
苦労していないことを裏付ける綺麗な首筋に、ただ進んでいく時計の針。こいつは明日も10年後も生きているだろう。彼に予定など、ないのだから。
ありがとうございました。タグを「バッドエンド」としましたが、主人公の状態は1行目から何も変わっていないので違う気もしています。