ショートショートなぞなぞ 3
俺の主人はいつもいつもいつも部屋にいる。
この部屋から出るのは、トイレに行くときと、週に一度のシャワーのみだ。
そして起きるのはいつも夕方をすぎてから。
飯を食って、パソコンをして、夜にまた少し寝て。
そして、夜中に再び起きては、パソコンをして、また夕方まで寝ている。
睡眠時間が長いとはいえ、部屋にこもって外に出ないものだから、
俺の労働時間はいつも誰よりも長い。
あぁ、やっと仕事が終わった。
全く、労働基準法ってもんを見直してほしいものだ。これでは寿命が縮まるばかりじゃないか。
文句を言うと、奥さんが俺に言う。
「でも良いじゃない。働けるだけ。私なんかめったに動けないものだから、身体がなまってしまうわ。」
「そうねぇ。でも、彼が過労死にでもなったらと思うと、私怖いわ…。」
2人目の奥さんが会話に参加する。
「大丈夫だ。死んでも記憶は次の奴へと引き継がれる。」
話を聞いていた、確か二人目の奥さんの夫だったか。頭が良く、いつも冷静沈着な彼が会話に参加した。
そうはいってもなぁ…
「そうだぞ。お前はもっと心配するべきだ。」
これはいったいどういう繋がりだったか。
血のつながりが多すぎて、もはや覚えることは困難だ。ただ、俺の少し上だったことは覚えている。
「記憶は引き継がれるが、それは自分であって自分ではない。お前は、怖くないのか?」
「あぁ。当たり前だ。」
すごいな。俺は怖いよ。
「私もよ。」
「私も怖いわ。」
「女性陣が死ぬことは滅多に起こりえないらしいから、心配する必要はない。」
そういって、女性陣が死なない理由について、冷静沈着な彼が蘊蓄を語り始める。
一体何度この蘊蓄を聞いたことだろう。
「しかし、まぁ、この会話も飽きてきたな。」
蘊蓄を遮るように、年上の彼が言葉を発する。
「ふふっ。確かに。何度目かしらね。」
「でも、まぁ、それだけ平和ってことよね。」
1人目の奥さんの言葉を、2人目の奥さんが繋いだ。
そうだな。
このやりとりも何度目だろうか。もう数えることさえも困難だ。
生まれて主人に仕えるようになってから、
そして彼らと出会ってから、もう20年以上が過ぎている。
俺は後何年生きられるのだろう。あと、何度同じ会話ができるのだろうか。
そんなことを考えていると、2人目の奥さんの声が聞こえてきた。
「あなた。ご主人様が起きたわ。出番よ。」
俺は再び仕事に戻った。
正解は、
今や私たちの生活に欠かせない存在。
電気
です。
女性陣は電気をつけるボタン。
ボタンは色んな電球と繋がっているため、
1人の夫に何人かの妻、
1人の妻に何人かの夫
がいるという設定です。