第七話 外の世界
佐保が宿屋へ来て十日、佐保の足はもう痛まなくなっていた。骨に異常は無いようで薫は安心していた。佐保を宿屋へ連れて来てからも、薫は変わらず毎朝剣の稽古を欠かさずしている。佐保は縁側に座り、庭で素振りをする薫を今日も見ていた。
「そうだ、佐保、今日は天気が良い、都の街並みを見てみるか?」
素振りを終え、思い立ったようにそう言った薫に佐保は詰め寄る。
「それは本当ですか!?外に、連れて行って下さるのですか!?」
そんな佐保は無邪気な子供のようだった。
「あぁ、あまり遠くに行く訳にはいかないが、佐保、お前が見たい所を言ってみろ。連れて行ってやる。」
面倒見の良い薫は不器用にそう言うと小さく笑った。佐保は身を乗り出し、真っ直ぐに薫を見て言った。
「店というものを…見てみたいです…!!」
暖かな日差しの下、二人は歩く。佐保は行き交う人の群れを縫って先を行く薫を必死で追いかけた。人混みを抜けると目の前の道には店が立ち並んでいる。佐保は目を輝かせ、薫を追い抜かして行く。薫はそんな危なっかしい佐保にハラハラさせられながらも、無邪気な姿に安心もしていた。不意にある一軒の店の前で佐保が立ち止まった。何事かと歩み寄る。
「どうした?何か気になるものでも見つけたか?」
そんな薫の問い掛けに、佐保は笑顔を向けた。
「見て下さい…!この簪…!!」
嬉しそうに言う佐保を見て薫の頰は緩んだ。
「それが欲しいのか?本当にあの花が好きなんだな。」
「い、いえそんなっ!頂くつもりはありません!」
「これを頂こう。いくらだ。」
薫はそう言って簪を買うと佐保を連れて茶屋に入った。そこで佐保を座らせると簪を挿した。
「この花はお前によく似合うな。俺もこの花が好きだ。」
「でもこんな…!申し訳ないです…!」
「何を言う。この間の約束を守らせてくれないつもりか?」
綺麗な黒髪によく似合う、淡い桃色の小さな花。簪の花が小さく光る。佐保は眩しい笑顔でお礼を言った。
「ずっと…!ずっと大切にしますね!!」
そんな眩しい佐保の笑顔が薫は好きだった。その笑顔を見ると、安心出来る自分がいる事に薫は気が付いていた。
「…………お前はそうやって笑っているといい。」
そう小さく呟く。その言葉は佐保には届いていなかったが、もう一度佐保は眩しい笑顔を薫に見せた。それから二人は茶を飲み和菓子を食べて語り合った。美味しいと言って和菓子を口にする佐保を見ていると、薫はまたここに連れてきてやりたいという気持ちになった。
更新が遅く、また内容が短く申し訳ないです