最終話 さくらの木の下で
青年は、昔親に連れられてよく来ていた丘の上の公園に来ていた。爽やかな風が吹く中、公園のフェンスに寄りかかり、眼下に広がる街を見下ろす。何故ここに来てしまったのか、彼には分からなかった。思えばこの大きな木に誘われるようにここまで来てしまっていた。
「しっかし…ここは変わんないな…。」
青年は一人、そう呟く。沈んで行く夕日を見て小さく息を吐く。不意に強い風が吹き、少し冷えた風が閉じた瞼の熱を持って行く。
「そろそろ帰るか…。」
そう言って公園の入り口近くのベンチへ向かう。そこに置いてある鞄を持ち上げようとした時、ふと彼は入り口に目をやった。そこには一人の女性が立っている。会ったこともない初対面の女性が。綺麗な黒髪の、整った顔立ちの女性が。年はあまり変わらないように見えた。
何故だろう、青年はその女性から目を話すことが出来なかった。二人の間を風が吹き抜ける。その風に乗って淡いピンク色の花弁が舞う。青年は一歩、彼女に近寄った。女性もまた、彼に一歩近寄った。
「貴方も、よくここへ?」
透き通った声でそう問いかける。
「あ、いや…昔、この花を見によくここへ来ていて…それで…今日は何故か…。」
「…そうなんですね。ここの花…この街にあるどれよりも綺麗なんです。私、この花が好きで…あ、まぁ…好きな理由は私の名前がこの花と同じだからって言うこともあるんでしょうけど。でもやっぱり一番綺麗な時に、一番綺麗な花を見たくて、今日はここに。」
そう言った彼女は眩しい笑顔を彼に向けた。初めて見る筈のその笑顔が彼にとって何故だかとても懐かしく感じた。静かに木の下へ歩み寄る彼女を、青年は目で追う。
「あ、あの、このベンチ、どうぞ。鞄どけますから。」
「ふふっ有難う。でもいいですよ。」
風に吹かれ、振り返った彼女の長い黒髪が揺れる。長身でわりとがっしりとした体つきの青年とは違い、彼女は小柄で色白だった。そんな彼女の隣へ青年は静かに歩み寄る。彼女に惹かれる自分がいることに気が付いていた。彼女もまた、そんな彼に惹かれていることに気が付いていた。
二人はフェンスに寄りかかり、夕焼けに染まる街を眺める。
「何で…泣いているんだ…?」
隣で静かに涙を流す彼女に、青年は優しく問いかける。
「どうして…でしょう…。悲しくないのに、涙が止まらないんです、ふふっおかしいですね。」
そう言って二人は笑いあった。二人が大好きだった、その木の下で。二人を繋ぐ…さくらの木の下で。
「薫様…お帰りなさいませ。約束…守ってくださったんですね。」
「佐保、待たせてしまってすまなかったね…。」
寄り添い合う二人は、縁側に座る二人のようだった。
短編で描かせていただいておりました君と僕を繋ぐ花、これで終わりになります。この話は「桜」をお題物語を考えてと言われ構成を練って練って練りまくって考えたものです。個人的に桜の名前を出さずに桜を表現したいと思い描いていました。そして最後にポッと名前を出す、しかも平仮名で。強調させたくてわざと平仮名で描いています。プロの方から見れば浅はかかもしれませんが、凡人の凡人による作品の個人的な拘りでした(*´罒`*)終わってみれば少し寂しく感じます笑拙い文章力ですが楽しく描かせていただきました。少しでも興味を持ってくださった方が居ましたら、是非前作BR∃AK∃Rも読んでやって下さい!戦闘シーン多めの少年漫画風なストーリーとなっております!また次回作にご期待下さい!




