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君と僕を繋ぐ花  作者: 笑夢
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第十話 変わりゆく

 いつも薫が素振りをする時間、庭に薫の姿はなかった。不思議に思った佐保は、女将…梢に薫の居場所を訪ねた。


「薫さんなら朝早くに出て行かれましたよ、時々していることなので心配しなくても大丈夫ですよ。町の皆さんにお話を聞きに行っているだけなんですよ。」


 梢は笑顔で答えた。その言葉に佐保は安堵した。梢の話では薫は午前中には帰って来るらしい。


(表で掃除をして待っていようかしら。)


 佐保は梢からお下がりで貰っていた着物に着替え、薫から貰った簪で髪を留め表へ出た。朝に外へ出るのは初めてだった。


「あら綺麗な娘さん、どちら様?」

「名はなんと申すのだ?」


 表で掃除をしていると、通りすがる人々からそんな声をかけられた。佐保にとっては初めてのことで戸惑った。自分の素性は明かしてはいけないと思い、質問に対しては笑顔で誤魔化していた。そこへ薫が帰って来た。


「佐保…!?何故ここに…!?」


 佐保には気が付き駆け足で彼女の元へ行く。慌てた様子の薫に彼女は笑顔を向けた。


「薫様、お帰りなさい。」


 そんな彼女を見て薫は小さく笑い、佐保を連れて足早に宿屋へ入った。そしていつものように縁側に腰を掛ける。


「それにしても佐保は分かりやすいな。」

「そうですか?あ、でも通りすがる方からはよく声をかけられていたような…。」

「…声を?」


 急に真剣な表情になる薫に、佐保は違和感を覚える。


「…どうやらまずいことになっているようだ。佐保の家の者達が俺達を探し回っているようだ。特に佐保、お前は目立ち過ぎる。見つかるのも時間の問題かもしれない。だから…一人では動くな、お願いだ。」


 そんな真剣な薫に佐保は頷くことしか出来なかった。


「出かけたい時は声をかけてくれ。そうすればお前は俺が守るから。そうだ、外へ行く時はその髪を隠した方が良さそうだな。」


 そう言って薫は佐保の頭を優しく撫でた。


(何があってもお前は殺させない。俺はどうなってもいい、お前だけは…。)

「ここは……離れた方がいいな。梢さんに迷惑は掛けられないし…。」


 ここにいればじき見つかる、それくらい薫には分かっていた。今まで世話になった梢に迷惑をかけることだけはしたくなかった。危険な思いはさせられない。


「佐保、近いうちにここを出る。荷をまとめておいてくれ。」


 佐保は少しだけ寂しげな表情をした。それでも、深く頷いた。そんな彼女を見て、薫もまた覚悟を決めていた。


 荷をまとめ終えた二人は明け方、梢がまだ眠っているうちに静かに宿屋を後にした。居間には文と少しの金銭を置いてきていた。最後に庭の木を見て、また見に来ると約束をして…。

 佐保には布で顔を隠すように言った。綺麗な黒髪は覚えられやすかったからだ。自分達を知らない町へ行かなくてはいけなかった。荷運びの仕事をしていた薫とは違い、山道を歩き慣れていない佐保にとっては容易な事ではなかった。


「貴様ら、こんな時刻に何をしている。」


 不意に声をかけられ、二人は息を呑む。


「何者だ、素性を明かせ。後ろのお前も、その布を取れ。」


 月明かりの中薄っすらと見えた声の主が着ている鎧には佐保の家の家紋が刻まれている。薫は咄嗟に佐保の前へ出る。


「いやぁ…私達は行商人でして…次の商売どころへ移るところなんですよ…。」

「……行商人…?」


 声の主は目を凝らして薫達をまじまじと見る。


「そんで旦那はどうしたんですか…?鎧なんか着てこんな時刻に…。」


 薫の対応に疑いを持つ事をやめたのか、声の主はため息を吐いて口を開いた。


「…ある人物を探している。こんな面倒な事早く終わらせたいからな、お前らも見つけ次第知らせろ。隠していたら即刻打ち首にしてやる。」

「そ、そんなに必死になって探している人物とは…?」

「長い黒髪の肌の白い綺麗な女と、背が高くて浅黒い肌をした女と全く正反対の容姿をした男だ。」


 その言葉に薫と佐保は息を呑んだ。

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