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ブレインムーブ  作者: トミー③
第一章 爆睡候補生は誰が為に夢を見る?
7/99

ラミアス1

「ふあ~ぁ、よく寝た……」


 俺はキョロキョロと視線を泳がせ、自分が今どこにいるのか確認する。

 見慣れた真っ白な天井、無機質なまでの真っ白な部屋、使い慣れた机、硬い床、間違いなく俺の部屋だ。

 俺は床から起き上がると、自分の体を軽く動かし異常がないか確認する。


「よし、ちゃんと動くな」


 あの夢を見ると、夢の中では体を動かせない所為か、硬い床の所為か、寝覚めたときに体が強張っていることがある。まあ、硬い床の所為だろうけれど、今回は大丈夫だったようだ。

 しかし、寝起きに体をほぐすのはほぼ日課となっていた為、今日もしっかりほぐすとしよう。

 体を良い感じにほぐした俺は、ベッドにドカッと横になる。


「今回の夢は結構濃かったなぁ」


 俺はつい先程見た夢を思い出し、二度寝をしようか迷っていた。寝覚めてすぐに二度寝に入れば、夢の続きを見ることがたまにあるのだが、先程のような夢の場合は、続きでも別の人の中に入った状況の夢となる。だから、ヒルダと話すことは二度とないのだ。

 ……俺はもう一度ヒルダと話がしたいのか? 夢の中の住人だぞ? 大丈夫か俺?

 そう悩んでいると、


ぐぅぅぅぅ~


 腹の虫が豪快に鳴き出した。

 俺は自分が空腹な事に気付き仕方なく起きることにした。

 こうも腹が減っているのは、夢の中でうまいものを食った所為だろう。味は認識できたのに腹は膨れないなんて、どんなダイエットだよ!

 とにかく、今は腹ごしらえが急務だ! 俺が餓死してしまう。……しないけど。

 俺は空腹を満たすため、寮の食堂へ向かった。

 食堂は一階と最上階の二か所にある。しかし、食堂とは名ばかりで、その機能を発揮するのは人間界の食についての講義の時くらいだ。しかもそれは一階の方が多く、最上階は休憩など、友人と語らう場として利用されることが多い。だから最上階の食堂を食堂と呼んでいるのは俺くらいだ。

 それはどういうことか……天使や俺達天使候補生は、本来食事を摂る必要はないのだ。あくまでも知識として覚えるための行為であり、それを学ぶための食堂なのだ。

 一応、食堂は常に機能しているため、食事を摂りたい者はいつでも利用できる。そんな奴はほぼ皆無なのだが。

 俺は、優雅に食事を摂るために最上階を選んだ。

 最上階は、晴れていれば地上を見渡せると言う要素もあるのだ。残念ながら、今日の眼下の空模様は曇りのようで、地上を覗き見る事は出来なかった。

 しかし、あまり除き込むと落ちてしまうから危険だ。何せこの食堂、手前半分は屋根と壁があるが、奥半分はテラスとなっていて柵があるだけなのだ。景色はバッチリだが危険もバッチリだ。スリル満点な食堂だ。

 まあ、翼があるから本当に落ちたりはしないんだけど。

 ちなみに俺が一階で食事を摂ることはない。折角なら景色のいいところで食べたいからな。

 最上階の食堂は、ガランとしていて、生徒(候補生)の数はまばらだった。いつもは賑わっているのにどうしたと言うのだろう?

 まあ、静かに食事を摂れるから別に構わないのだが。

 というわけで、何を食おうかな?

 カウンターでメニューを見ながら悩んでいると、見知らぬ者が声を掛けて来た。


「お? ラミアスじゃないか。ひょっとして飯か?」

「そういうお前は飯じゃないのか?」


 まあ、こいつは飯ではないのだろう。飯を食う物好きは俺くらいなものだ。俺も以前は食事は摂らなかったのだが、あの夢の影響か、人間がおいしそうに食事を摂っているのを見て興味が沸き、こうして食事を摂るようになったのだ。おかげで空腹という感覚を覚えてしまい、若干不便だ。

 それにしても、こいつなぜ俺の名を知っている? 俺はこいつを知らないと言うのにどういうことだ?


「俺は例の課題をどうするか作戦を練っていただけだ。それも済んだからもう行くけど、お前、そんなにのんびりしていていいのか? ここにいられなくなりそうなんだろ?」


 名前だけでなく、なぜそんなことまで知っている!? まさか、もう噂になっているのか?


「アインスはもう導く相手の目星がついたって噂だぞ」

「へ~そうなのか。まあ、あいつは行動力が違うから当然だろう」

「アインスは優秀なのに、なんでお前みたいな落ちこぼれと付き合ってるんだろうな?」


 このアホ、さらっと俺のことを落ちこぼれ呼ばわりしやがった。否定はしないがなぜ知っている!? 名前は知れ渡っているかもしれないが、顔までは割れていないはずだ。俺は目立たないように静かにしているんだからな。うん、ずっと寝てたからだな。

 ここまで俺の事を知っているという事は、クラスメイト、なのか? しかし俺は知らない……あ、寝てたからか。俺の知っているクラスメイトはアインスと、その取り巻きのアホ共、それから……それだけだった。

 あれ? アホ共の態度と言い、この友達のいなさ加減と言い、俺って嫌われてる? 少し不安だ。


「お前も寝てばかりいないで、アインスを見習って導く者を見つけに行けよ。お前だけだぞ、そんなにのんびりしているのは」

「ん? てことは、みんな出払ってるのか? 学院は?」

「お前、本当に学院の生徒か? 今休校中だろう。ウリエル先生の話聞いてなかったのかよ。ゼウス様の話の後、しばらく休校になるって教室で聞いただろ? 要は俺達に、導く相手を探して来いってことだよ」


 なるほど、それで食堂に生徒がいないのか。納得だ。

 それにしても、こいついろいろ教えてくれるな。いいヤツなのか?

 それに、ウリエル先生の話と言っていた。そしてこの馴れ馴れしい態度、やはりクラスメイトで間違いないだろう。いや、話したことがないのなら他所他所しい感じになるはずだ。ということは、まさか友達!?

 いやいや、俺が友達の顔と名前を忘れるはずないじゃないか。えっと、こいつの名前は確か……そう! ランバルディだ!


「お~い、カルバス! そろそろ行こうぜ」

「おう!」


 惜しい! 「バ」だけ合ってた! ……惜しくもなんともなかった。


「じゃあな、ラミアス」

「ああ」


 カルバスは友人と共にブツブツと話しながら食堂を出て行く。


「お前アイツと友達なわけ?」

「はぁ? 何言ってんのお前? あれだよ、落ちこぼれと話すと優越感に浸れるだろ?」

「うわっ!? ひでぇなお前」

「お前も今度試してみろよ」

(……)


 今ハッキリした。俺に友達はいねぇ!

 それにしても、あんな奴まで天使候補生とは、天界はそこまで人員不足なのか? 天界、大丈夫か? まあ、俺も人の事は言えないが。

 ……とにかく飯にしよう。あのバ何とかの所為でまだ飯を食えていない。邪魔しやがって、あのバ何とかめ!

 俺はメニューから適当に選び、テラス側の席に着くと食事を摂りはじめた。適当に選んだつもりだったが、夢で食べたものと似た物を選んでいた。

 しかし、なんだろう? 味気ない。まずくはないが、何か物足りない気がする。今までそんなことはなかったんだが、なぜだろう?

 俺が首を捻っていると、再び声を掛けられた。


「どうしたんだい? そんなに難しい顔をして? 口に合わなかったのかい?」

「あん?」


 俺は無意識に凄んでいた。

 いかんいかん、さっきのバ何とかの所為で、人当たりがキツくなってるぞ。一応謝っておこう、俺はバ何とかと違って、人を色眼鏡で見たりはしない。

 俺は声を掛けて来た者の顔を見て、心臓が止まる思いをした。

 

「ゲッ、ウリエル先生!?」

「……ラミアスはいつも私の顔を見るとその反応をするね。少し傷つくぞ」

「す、すみません。まさか先生とは思わなかったので」

「だからって、ゲッ、はないだろう。それにキミは私の生徒なんだから声を掛けてもおかしくはないだろう?」

「あははは、そうですね~」


 確かにウリエル先生はクラスの生徒には、分け隔てなく平等に接してくれる。もちろん俺の事もだ。それどころか、クラス以外の者にも声を掛けていたりする、人望の厚い先生だ。

 そんな事を考えていると、先生は俺の正面の席に腰を下ろした。話す気満々のようだが、俺は飯が食べ難くなってしまった。


「それで? 何を難しい顔をしていたんだい?」

「あ、いえ、なんだか味気ないなと思いまして……」

「ああ、それは一人で食事を摂っていればそう思えるだろうね。誰かと一緒に食卓を囲むと、同じ物でもおいしく感じるものだよ」

「そう言うものですか?」

「ああ、ここの料理はおいしいはずだからね。今までそれを感じなかったキミが、それを感じるようになったと言うことは……誰かと食事をしたのかな?」

「え?」


 ウリエル先生は見透かしたようなことを言う。

あくまでも夢の中での話だが、確かにヒルダとした食事はおいしく感じた。そう言うものなのかもしれない。しかし、以前は夢の中で味などしなかったのになぜヒルダと食べた食事では味がしたのだろう? 会話をして打ち解けたから? そんなことで? ん~謎だ。

 俺が考え込んでいると、ウリエル先生は俺の様子を窺うような視線を向けていた。


「な、なんですか?」

「いや、一人でいることの多いキミが、アインス以外の誰かと食事を摂ったのかと思うと、なんだか嬉しくてね」

「はあ……」

「フフッ。それで、例の件は進んでいるかい?」

「は?」


 俺は何の事だかわからず首を傾げた。

 ウリエル先生に何か頼まれ事なんてされただろうか? そもそも、俺には頼まないだろう。頼むならアインスあたりに頼むはずだ。……いや待て。さっきバ何とかも、そんなようなことを言ってなかったか? 課題がどうとか。つまりクラス全員に出した課題か? しかし、俺は聞いていないぞ……あ、寝てたからだ。

 ヤバイ、今は課題の内容を丁寧に教えてくれるアインスもいない。寝ていて聞いてませんでした、では怒られてしまう。どうしよう。


「は? って、まさか、何もせずに寝ていたわけじゃないだろう? ゼウス様が直々に下した任務なんだから」


 俺は心臓が止まりかけた。天使に昇天する前に、命が昇天してしまうところだった。が、どうやら俺の心配していたようなことではなかったようだ。しかし、結局俺は寝ていて何もしていない。

 この先生、知ってて言ってるだろう。絶対そうだ。

 文句を言いたいが事実なだけに言い返せない。


「えっと、アハハハ……」

「やっぱり寝てたんだね」


 ウリエル先生は俺の乾いた反応を見て肩を落としてしまった。なんだか申し訳ない気分になってしまう。

 しかし、大した能力もない俺に何を期待しているのだろう? 俺の取柄と言えば、どこででも眠れる事くらいだ。まったくもって役立たずだ。自分で言っていて悲しくなるな。


「私はね、キミのスキルには期待しているんだよ」

「え? こんな何に使うかもわからないスキルがですか?」

「ああ、未知のスキルというのは、そう易々とは発現しないものなんだ。それが発現したと言うことは、今の世界に必要なものなんだと私は思う」

「そんな大層なものなんですか?」

「あくまでも私の持論だけれどね」


 ウリエル先生がなぜ俺のスキルを知っているのかと言うと、以前俺のスキルについて相談したことがあるからだ。

 俺のスキルは、固有スキルの【ユメミノユリカゴ】これ一つだけだ。

 しかしこのスキル、何の役に立つのかさっぱりわからない。だから相談したのだが、先生にもわからないと言われてしまった。調べてくれたみたいだが返事は同じだった。

 結果、何の役にも立たないスキルを一つだけ持つ俺は、落ちこぼれとなったわけだ。

 一つ言えることは、このスキルが発現したころから、あの夢を見るようになったということだ。

 あの夢は、人間界を舞台にした夢。その夢に登場する人物の中に入り、その人物の物語を見守ると言うものだ。しかも、夢と夢とにつながりがあるようでなかなか面白い。ヒルダとあの機能不全男のようにな。

 ヒルダと言えば、久々に話し掛けてしまったな。入っている人物と普通(・・)に話すというのもなかなか貴重な経験だったな。対応は難しかったが、妖精と名乗っておけば丸く収まるみたいだ。これからもこれで行こう。

 たまによくわからない単語が出てきたりもするが、きっと講義で先生が言っていたことを頭のどこかで記憶していたのだろう。睡眠学習的に。

 なんにせよ、あの夢のおかげで人生を二倍楽しんでいる気分だ。その所為で寝てばかりなんだが。

 しかし、あの夢と、このスキルに一体どんな関係があるのだろう? 使い道もわからないし、本当に謎である。


「ルシフェル先生の【明けの明星】もそう言うものだと私は考えている。一度ルシフェル先生と話してみるといい。未知のスキルを持つ者同士、アドバイスが貰えるかもしれないよ」

「はあ、機会がありましたら、その時に」


 とは言ったものの、俺はあの先生が苦手だ。人当たりもよく、他の生徒たちからも評判はいいのだが、どうにも苦手なのだ。ほら、誰にでも苦手な先生の一人や二人いるだろう? もちろん理由はあるが、今はいいだろう。だから、学院では遭遇しないように避けている。この先も自分から話し掛けることはないだろう。

 と、そんな事を考えていると、先生が席を立った。


「私はキミを失うのは惜しいと考えている。だから少し頑張って見ないか?」

「はあ」

「確か、ルゼリオ王国で勇者選抜武闘大会が開かれるそうだよ」

「え?」

「アインスもそこに行っているみたいだし、キミも行ってみてはどうかな? じゃあ、私は失礼するよ」


 ウリエル先生はそう告げると、食堂を出て行った。

 ルゼリオ王国の勇者選抜武闘大会って……夢の話だろ? 現実でもやっているのか? いや、きっとどこかで誰かが話しているのを小耳は挟んだのだろう。それで夢に反映された。そこでヒルダが受付嬢として登場したのだろう。だったら、もう少し性格を何とかしてあげてもよかったんじゃないか? あれでは嫁の貰い手がなくて可哀想だろう。

 おっと、夢の話はいいか。どうも夢に入ると、のめり込み過ぎる所為か、夢だと言う認識が薄れて現実とごっちゃになるんだよな。気をつけないと夢と現実の境界がなくなってしまう。

 さて、問題はアインスがルゼリオ王国にいると言うことだ。

何が問題かだって? うむ、問題は特にない。俺は行くつもりはないから、かち合うことはないのだ。

 何も問題がない事にホッとした俺は、食事を済ませ食堂を出て行った。


◇◇◇


 俺は折角だから学院へ寄ることにした。人気のない学院を満喫しようと思ったのだ。

 学院内はひっそりとし、予想通りなんとも趣のある不気味な雰囲気だった。生徒がいないだけでこうも印象が変わるとは、なかなかに面白い。

 俺は適当にブラブラすると、自分の教室も見たくなり教室に向かった。もちろん教室には誰もいない。休校中の学院に来る者などいないだろう。

 俺は自分の席に腰を下ろすと、いつものように突っ伏した。寝るつもりはないのだが、席に着くとどうしてもこの体勢になってしまう。習慣とは恐ろしいものだ。

 腹も膨れ、散歩で丁度いい感じに体は疲れ、気持ちよくなったのか瞼が下りてくる。人のいない教室はとても静かで、邪魔をしてくる者はいない。

 俺はいつもの習慣に倣い、そのまま眠りに落ちてしまった。


「グゥ……」


爆睡候補生、また寝ます。

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