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ブレインムーブ  作者: トミー③
第一章 爆睡候補生は誰が為に夢を見る?
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受付嬢4

 ヒルダの家を見て、俺は言葉を失った。

 もっとこじんまりとした家を想像していたが、意外と大きな屋敷だった。

 それをヒルダに言うと、「無駄に大きいだけよ」と興味なさげに返された。住み慣れた屋敷だから、特に何も感じないのだろうか?

 屋敷に入ると、来客の応対をしていた母親に「こんな時間まで何してたの! そんなだから嫁の貰い手がないのよ!」と怒鳴られていた。客人がいるのにいいのだろうか?

 ヒルダは「仕事よ! 仕方ないじゃない!」と嘘をついていた。

 実際には酒場で晩飯を食べ、男達に言い寄られ、一人の男の人生を狂わせていたのだが。あと、強姦魔を叩きのめしてたな。

 俺がそれを言うと、「(うるさい黙れ!)」と一蹴されてしまった。口の悪い女だ。これでは嫁に行けないのも頷ける。母親の苦悩が良く分かるというものだ。

 そのやり取りを見ていた客人が口元に手を添え上品に笑いだした。


「うふふっ、ヒルダは相変わらずね」

「え? お姉ちゃん!? 戻ってきてたの?」

「ええ、今度ゆっくりお話ししましょうね」

「うん!」

(うんって子供みたいだな)

「(うるさい黙れ!)」

(こいつ……)


 お姉ちゃんとやらは、挨拶をするとどういうわけか外に出て行ってしまった。 

 聞くと、ヒルダの家族は父、母、年の離れた兄、そしてヒルダの4人家族だった。

 先ほどのお姉ちゃんは本当のお姉ちゃんではなく、従姉(いとこ)のレインという人らしい。旅好きで、各地を旅して回っているらしい。昔はよく遊んでもらっていたそうで、旅に出るようになってからは、帰ってくる度に土産話を聞かせてもらっているそうだ。

仕事は何をしているのだろう? 行商人とかだろうか?

 父と兄は国の兵士をしているそうで、ヒルダはその二人から戦い方の基礎を教えられたそうだ。その後は友人と競い合うように修行していたが、その友人がとんでもないバケモノらしい。一緒に修行をはじめたはずが、あっという間に差をつけられてしまったそうだ。ヒルダも強いが、そのバケモノと称される友人は一体何者なのだろう? 少し興味はあるが、会うことはないだろう。

 ヒルダの部屋は意外と可愛らしいものだった。棚には乙女チックな小物が並べられ、なんとも違和感がある。ヒルダの性格からして、もっとこう、小ざっぱりした部屋を想像していた。

 それを言うと、ヒルダは「私だって女の子なんだから!」と怒り出してしまった。性格はともかく、可愛らしい部分があると言うことだろう。

 ヒルダが部屋でくつろいでいると、俺は気になっていることを聞いてみた。


(それにしても、お前強かったんだな)

「フフン、まあね」

(あの男が弱かったって事かもしれないけど)

「なっ!? 失礼ね! だったら証拠見せてあげるわよ!」

(ほほう、自信ありそうだな。見せてみ?)

「見て驚きなさい! ウインドウオープン! ステータス表示!」


 ヒルダがそう告げると、目の前に半透明のスクリーンが現れ、表が映し出された。と言っても、目の前の空間にスクリーンが現れたわけではない。視覚に直接映し出されているのだ。なので本来、本人以外見ることは出来ないのだ。

 とはいえ、今の俺はヒルダと視覚を共有しているから見ることができる。

 ドヤッ! 俺の巧みな誘導でステータスを開かせることに成功したぞ。俺の目的はこれなのだ。

 この世界の住人はウインドウを開くことで自身の能力を確認することができるのだ。開くときは「ウインドウオープン」、閉じるときは「ウインドウクローズ」と言えばいい。

 そして、能力値を見たい時は「ステータス表示」、スキルの場合は「スキル表示」だ。

 表には、レベルやら、力、素早さなど、こと細かく能力値が記されている。

 しかし、人間の能力がいまいちわからない俺は数値を見てもピンと来なかった。

 とりあえずヒルダのレベルは25となっている。これは高いのだろうか?


「どう? 私の能力値は! 人に見せるのなんてはじめてなんだから、心して見なさいよね」

(おう、ちゃんと見てるぞ。でも人間の能力値を見ても良くわかんないんだよなぁ)

「比較できないからわからないってこと? ん~私を襲ってきたあの変態は、私の見立てだとレベル10前後だと思うわよ。あの程度で私を襲おうだなんて100年早いわよ」

(へ~)

「なに、その気のない返事は」

(あんな瞬殺されるような男のレベルなんて知る価値ないだろ。まず興味がない)

「それもそうね」

(それよりスキル見せてくれよ)

「何よそれ! 見せろって言ったのそっちじゃない! ちょっとは私の能力値に興味持ちなさいよ! ったくもう……スキル表示!」


 ヒルダは不貞腐れたのか、半ば投げやりに表示させた。

 見せてみ? とは言ったが、先に見せると言い出したのはヒルダの方だ。不貞腐れるのは筋違いというものだろう。

 しかし、そんなことは言わない。なぜなら機嫌を損ねてウインドウを閉じられては困るからだ。人のスキルを見られる機会などそうそうない。この機会を逃す気は俺にはない。

 つまり、俺が気になっていたのはヒルダの能力値ではなく、スキルの方なのだ。

 俺は、ステータス表の下にズラッと表示されたスキルに目を通して行く。


(それにしても、ステータスとかスキルって、言わば自分自身だろ? よく見せてくれる気になったよなぁ。これってさ、裸を見られてるのと同じようなものだろ? 余程自信がないと人に見せられないだろう……まあ確かに、見事なものをお持ちのようで、ふむふむ)


 俺はヒルダのスキルを見ながら、雑談的にそんなことを口にしていた。

 他人には見られないステータスやスキルは、服で隠されている裸体と同義だと俺は考えている。裸はヒルダがOKを出せば誰にでも見るチャンスはあるが、ステータスやスキルは本来本人以外は見ることは出来ない。

 そう考えると、なんだか感慨深いものがあるな。よくわからないからと言って目を背けるのも失礼だろう。折角見せてくれているのだ、ステータスにも目を向けることにしよう。もちろん、スキルを見終わった後だが。

 ん? ヒルダが自分の体を抱きしめてワナワナしている。どうしたのだろう? 冷えたのか?


「は、裸って……ば、バッカじゃないの! 変な事言わないでよね! やっぱりエロ妖精だわ! 平凡妖精からエロ妖精に改名したら!」

(誰がするか!)


 と断固として否定したが、ウインドウを閉じられないかとヒヤヒヤしていた。

 まさかボソッと言ったことでここまで狼狽えるとは思わなかった。男を品定めしていたわりにはウブなところがあるようだ。

 とりあえず、ウインドウを閉じられる前に見てしまおう。

 

 【身体強化Lv2】

 【自己治癒力Lv2】

 【状態異常耐性Lv2】

 【料理技能Lv3】

 【武器召喚】

 【偽装】


 魔法系は覚えていないようだ、根っからの戦士タイプなのだろう。この性格では仕方がないのかもしれない。それは関係ないか。

 それにしても、俺よりもスキルを持っているとはな。

【身体強化】、【自己治癒力】、【状態異常耐性】はその名の通りのスキルだな。最大レベルは10だったな。【状態異常耐性】はレベル10に達すると【状態異常無効】に変化するはずだ。

 【料理技能】はまあ、これもそのままだろう。レベル3でどこまでのモノが作れるのかはわからないが。

 後の二つはなんだ? ヒルダの固有スキルなんだろうけど……。


(なあ?)

「何よ!」

(この、【武器召喚】と【偽装】ってどんなスキルなんだ?)

「え? ああ、【武器召喚】はその名の通り、武器を召喚できるのよ。もちろんなんでもってわけじゃないけど、マーキングした武器なら召喚できるの。だから結構便利なのよね」

(ああ、さっき鎖鎌をどこに隠し持ってたのかと不思議に思ったけど、このスキルで出してたのか)

「うん、そうよ。だって武器なんて持ち歩いてたら重いじゃない。だからみんなから羨ましがられるのよねぇ」

(お前、自慢してるのかよ)

「してないわよ! 武器を出すところを見られちゃったの!」


 ヒルダはそういうと、マーキングした武器を見せてくれた。まさか部屋のクローゼットの中にあるとは思わなかったが……ここは武器庫か!? と言いたいくらいに多種多様な武器が収納されていた。先程使用した鎖のなくなった鎌もちゃんとここにあった。それぞれの武器の柄に何やら模様のような文字のようなモノが描かれている。これがマーキングなのだそうだ。このマーキングがすべての武器に描かれているらしい。

 それにしても、これだけの武器を使いこなせるヒルダって、実はすごいのではないだろうか。

 それを言うと、「器用貧乏なだけよ」と声を沈ませた。

 なんでも、例のバケモノと称される友人に修行につき合わされた挙句、中途半端に扱えるようになってしまったのだそうだ。

 それでも扱えるだけすごいと言うと、少し照れていた。

これらすべての武器を持ち歩くことはないにしても、武器一つとっても重量があり、一般女性が持ち歩くにはきついだろう。持ち歩く必要がなく、自由に召喚できるのは確かに便利だ。状況に応じて使い分けることができるのも利点だろう。戦士には是非ともほしいスキルだろう。

 ……ヒルダって、どうして受付嬢やってるんだろ? 戦士とか兵士の方がスキルを有効に使えるのに。女だからか? ていうと差別発言と取られそうだな。黙っていよう。

 しかし、便利だとわかると、気になることも出てくる。


(これって、人とかには応用できないのか? 人じゃなくても、何か他の生物を召喚できないのか?)

「さあ、どうだろ? 試したことないから。でも、同系統のスキルで、魔獣を召喚できる人がいるって噂を聞いたことがあるわね…………」


 そういうとヒルダは黙り込んでしまった。


(ん? ヒルダ?)

「え? ああ、ゴメンゴメン。あんたを召喚できるか試してみたんだけど、やっぱりマーキングしてないから無理だったよ。あはは」

(あはは、じゃねぇ! 俺で試すな! ていうか、マーキングしてたらできるのかよ!?)


 この女、たまに怖いことをする。気をつけないと知らないうちに何かの実験台にされかねない。中にいるのが怖くなってきた。

 自由に出られない今、それを考えるのはよそう。ストレスで禿()げてしまう。

 そんな事よりも、問題なのはこのスキルだ。


(じゃあ、【偽装】ってなんだ? なんかヤバイスキルなのか?)


 名前からしてヤバ目な気配がする。なにかの不正に使われてやしないだろうか。


「ああ、大したものじゃないわよ。それは…………」


 大したものではないと言いつつ黙り込んでしまった。言い難い事なのか? 言えない事なのか?


(お、おい。ヒルダ?)

「え!? えっと……その、あれよ、あれあれ!」

(は?)


 ヒルダは急に狼狽えはじめた。怪しすぎる。やはりこのスキルには何かあるのか? 不正のニオイがプンプンする。犯罪に手を染めたのか? 染めちゃったのか?

 ヒルダよ、責めたりしないから素直に話してくれ。ちょっとお仕置きをするくらいで勘弁してやる。

 俺は寛大な心でヒルダの告白をじっと待った。もちろん、口封じとか、何かされないかと警戒しながら。


「えっとね……そう! ほら、私の仕事って受付でしょ? 受付は笑顔が大事なのよ。嫌な客相手でも笑顔でいなきゃいけないのよねぇ。その時にこのスキルよ! このスキルがあれば、どんなにムカツク客が来ても笑顔で接客できる優れもの! これがなかったら私、今頃クビになってるわ」

(つまり、表情を偽装するためのスキルってことか? 確かに今日の受付の時の鉄仮面ぶりには驚いたな、それが崩れた時はさら衝撃だったけど)

「え!? 見てたの?」

(そりゃあ、お前の中にいたからな。あれは人に見せられたものじゃないな)

「今すぐに忘れなさい!!」

(別にいいだろ、あのイケメン騎士だって見たんだから気にするなよ)

「そうだった!? 忘れてたぁ、なんでよりによってあんな……」


 ヒルダは俯いてブツブツと何やら言っている。そこまで落ち込むことだろうか? 確かに鬼の形相ではあったけれど。


(まあ、犯罪紛いなスキルじゃなくてよかったよ)

「私が犯罪に手を染めてるとでも思ってたの!? ひ、酷いよ、私そんなことしないのに……グスッ」


 ヒルダはこれ見よがしに泣き出した。


(あ、いや、疑ってたわけじゃないんだ。今のは言い過ぎた。すまん)

「グスッ、本当に反省してる?」

(ああ)

「それなら許してあげる。グスッ」


 どうやら許してもらえたようだ。

 これでも今日一日ヒルダを見て来て、そんなに悪い娘ではないとわかっている。性格は悪いが、比較的いい娘だ。嫁の貰い手はないかもしれないが、一人でも生きていける娘だと俺は思うぞ。頑張れ、ヒルダ!

 俺は心の中でヒルダを応援した。

 すると、階下からヒルダの母親の声が聞こえて来た。


「ヒルダ! いつまでも騒いでないで、早くお風呂に入ってさっさと寝なさい!」

「わかってるってば!」


 ヒルダは年頃の女の子のように反抗的に返事をする。

 そういえばヒルダはずっと声に出して話していたな。母親からすれば気味が悪かったことだろう。

 ていうかこの女、泣いてなかった。


(泣いてねぇじゃねぇか!)


 俺は思わず素で突っ込んでしまった。

 ヒルダは笑いながら「男は女の涙に逆らえないものよ」とか抜かし、ウィンドウを閉じて部屋を出て行った。

 なんて女だ! ああやって今まで、男を手玉に取ってきたんだな。いつか刺されるぞ! まあ、返り討ちにしてそうだけど。

 俺が一人憤慨していると、ヒルダは一階へ下り、お風呂に入ろうと脱衣所へ入った。

 こ、これは……どういうことだ!? これはちゃんと言うべきか、それとも黙っておくべきか。

 ヒルダの服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえてくる。

 俺がいることを忘れているのか?

 もはや猶予はない、決断の時が迫る。

 どうする? どうする俺! それともこれはさっきの泣き落としのお詫びなのか? 見てもいいと言うことなのか? これは何というご褒美なんだ!!

 俺は戸惑いの中、目が泳ぎまくっていた。

 よし! そのご褒美、しかと受け取ろう! ではいただきます。

 あ……。

 俺が一人苦悩し、この目に収めようと決意すると、目の前が真っ暗になった。

 ヒルダが瞼を閉じたようだ。


「残念でした~見せませ~ん。期待しちゃった? しちゃった?」


 ヒルダは悪戯が成功したかのように楽し気にしている。それが逆に腹が立つ。


(こいつ、俺をおちょくって楽しんでやがる!)

「あはははっ、だって、あんた必死に黙り込んでるんだもん。鼻息荒かったわよ? 興奮しちゃったのかな? ププッ」

(ム、カ、ツ、ク、な、この女! 性格ワル! 性格ワル!! 性格ワルッ!!!)


 と、子供の様な反抗をする俺。この女と関わると人格が崩壊していく気がする。

 そんな俺をよそに、ヒルダは鼻歌交じりに体を洗う。ワシャワシャと音をさせながら洗い進める。

 ―――なんだかいい匂いがする。

 俺は、無意識に聴覚と嗅覚に意識を集中していた。視覚を奪われればこうもなろう。仕方のない事なのだ。別に変なプレイに目覚めたとかそういうことではない。

 ただ……そう! どこを洗っているのか気になっただけなのだ。

 いやいや、それもどうかと思うぞ。

 俺は何を言っても言い訳になると思い、黙って集中することにした。

 が、それがかえって気になったらしく、ヒルダが声を掛けて来た。


「あれ? ラミー? いるよね?」

(……)

「いないの?」

(……)

「帰ったのかな? いないんなら目開けてもいっか」

(っ!?)


 黙ると言う行為の思わぬ副産物に、俺は鼻息を荒くしてしまった。


「やっぱりいるじゃない! 鼻息でわかるんだからね!」


 鼻息で気付かれるとは、なんと情けない話だろうか。

 しかし、音と匂いに意識を向けていたと悟らせてはならない。変態だと思われるからな。

 というわけで、一つとっておきの話をしてやることにした。


(いやいや、風呂と聞いて一つ思い出したおもしろい話があるんだが、聞きたいか?)

「え? 何よ、そんな言い方されたら聞きたくなるじゃない」

(よし。ヒルダ、今髪洗ってるか?)

「え? うん、それがなに?」

(実はな、ある女性が髪を洗っていた時の話なんだが、いつも通り目を瞑り、前かがみになって髪を洗っていると、耳元で、シューシューと風の音が聞こえて来たんだそうだ。女性はただの隙間風だと思って、そのまま気にもせず髪を洗っていたそうだ)


 俺が静かな語り口調で話していると、ヒルダが焦ったように話を遮ってきた。


「ちょっ、ちょっと待って! それっておもしろい話なのよね? なんだか全然おもしろい雰囲気じゃないんだけど」

(まあまあ、話はここからだから。で、その女性が、今のヒルダみたいにワシャワシャと髪を洗っていると、後頭部に何かに引っ張られるような違和感がしたそうだ。女性は少し強く洗いすぎて髪を引っ張ったのだと思い、力を弱めた。すると、スーッと女性の髪が()かれたそうだ)

「ゴクリ……」

(不審に思い、女性が髪を洗う手を止めると……ガシッ! と……)

ガシッ!

「キャァァァァァッ!?」

(うわぁぁぁぁぁっ!?)


 ヒルダは振り返り目を見開いた。

 そこにはヒルダの手を掴む、怒りの形相の母親の姿があった。


「か、母さん……」

「ヒルダ! 何一人で騒いでるの! もう、こんなに石鹸使って! 貴重なんだから、いくら(いただ)き物だからって無駄遣いしないの!」

「え、あ、い、いいじゃない、私が貰ったんだから……」

「ダメよ! 感謝して使わなくちゃ! わかった?」

「……う、うん」

「わかったら、さっさと上がって寝なさい。いいわね!」


 母親はそう告げるとお風呂場から出て行った。


「びっくりした~」

(びっくりした~)

「なんであんたまでびっくりしてるのよ!」

(お前が急に悲鳴を上げるからだろ)

「あんたが変な話するから、あっ!?」

(ん? ……あ)


 ヒルダはすぐさま瞼を閉じた。

 驚き動揺していた所為で、気付くのが遅かった。何かチラッと見えた気がしたんだが、ヒルダめ、素早い反射神経をしてやがるな。

 おっと、口が悪くなってきているぞ。気をつけなければ。

 ヒルダは溜息を吐き項垂れている。怒られてばかりでは仕方なかろう。

 俺は楽しめたがな。


(ドキドキして楽しかっただろ? ぷぷっ)

「どこがよ! もう、絶対おかしな娘だと思われたじゃない」


 部屋で騒いでいた時点でおかしな娘だと思われてるだろうから大丈夫だぞ。と思ったが、言うのはやめておこう。とどめを刺すのも可哀想だ。

 ヒルダはブツブツ言いながら泡を流し湯船に浸かると、早々に出て行ってしまった。そんな行水では体が温まらないだろうに。

 まあ、目を閉じたままというのは、落ち着かないのだろう。俺のおもしろい話の所為かもしれないが。

 手早く服を着て、歯磨きなどをすると部屋に戻った。

 ヒルダは髪を乾かすとベッドに潜り込んだ。

 そして、今日一日を振り返るようにボーッと天井を見つめている。


「ハァ~、今日は散々な一日だったわね。全部夢だったらいいのに」

(そうか? 夢だったとしても、俺は結構楽しかったけどな)

「そ、そう? ま、まあ、私も楽しかった、かな。あ、あくまでも夢だったらの話よ!」

(あはは、そうだな。寝て起きたら俺もいなくなってて、夢オチかよ! って、なるんじゃないか?)

「そうかな? ……それはそれで寂しい気も……」

(とにかく、もう寝よう。明日も仕事だろ?)

「うん……ねぇ、明日本当にいなくなっちゃうの?」

(さあ? それはわからないけど、ひょっとしたらまだいるかもな)

「ふ~ん、そっか。ふふっ」

(なんで嬉しそうなんだよ)

「う、嬉しくないわよ! 明日いなくなってたら清々すると思っただけよ!」

(そうかい、じゃあ早く寝ないとな)

「……うん」

(おやすみ、ヒルダ)

「おやすみなさい、ラミー」


 ヒルダは余程疲れていたのか、すぐさま眠りに落ちて行った。

 俺は暗闇に包まれると、光が射し目を覚ました。


ここまで、のんびり来ました。少しずつ動いて行きますので、読んでくださっている方、のんびりお付き合いください。

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