プロローグ
追加で投稿します。
「……ふぅ」
目覚めると、私の目の前には白い天井が広がっていた。それは懐かしくも見慣れた景色だった。
あれからどれくらい経っただろう。
時間の概念のない天界では、時の流れが曖昧だ。
体の傷も癒え、力の源である信仰力も回復している。と思う。
私は天界に連れ戻されると治療を受け、すぐにここに放り込まれた。
この部屋は、禁を犯した者を放り込むために作られた、いわゆる独房というやつだ。しかも、放り込んだ者の力を封じる術式が組まれた特別製だ。
しかし、天界に独房があると言うのもおかしな話だ。禁を犯した者は天界から逃亡するか、処罰を受け消滅するのが常だ。もしくはコキュートスに落とされ、罪が償われるまで氷漬けにされる。
その為、ほとんど使用される事のない施設と言える。
私のように抵抗を諦める者がいない限り、使うことはなかっただろう。
「皆は無事だろうか」
皆を護るためとはいえ、力を振るってしまった。その所為で見つかり連れ戻された。
私は間違ったことをしたとは思っていない。後悔もない。
しかし、気掛かりなことがある。
残してきたあの娘の事……。
私の所為で、天罰を下されないかと不安で押し潰されそうだ。
そうさせない為、私は抵抗せず戻ったのだが……。
コンコン
扉がノックされた。
「面会だ」
面会? 一体誰だ?
独房に入って来たのは、ウエーブのかかった薄ラベンダー色の長髪、程よく筋肉を纏ったすらっとした体躯、一際目を引くのは6対12枚の翼を背負った男だった。
その男は、私を捕えるために部隊を率いていた男だ。
「お前か。皆は、あの娘は無事なのか!?」
「心配は無用だ。神は慈悲深きお方。無為に命を奪ったりはしない。無論、娘の心配も無用だ」
「そうか、よかった……」
私は心の底から安堵した。
「私は、どうなるのだ?」
「厳しい処罰は免れないだろう。あの娘と再会することは二度とないかもしれない」
「そんな!?」
「当然だろう。お前は堕天したのだ。本来なら存在の消滅もあり得る」
「くっ……」
「とはいえ、お前は貴重な存在だ。消滅という事はないだろう」
「……俺の能力故、ということか?」
「そうだ」
我々はお互いの能力を知っている。そして、その優位性も。だからこそ、この男の言葉が真実なのだとわかる。
「しかし、お前をそのままにしておくことも出来ない。記憶を消され、浄化されることも考えられる」
「記憶を!?」
「あくまでも私の推測だ。審判は神が下される」
「そう、だな……」
「……覚悟だけはしておくことだ」
男はそれだけ言うと、独房を出て行った。
あの男が言うのならそうなのだろう。あの男は私に最後通告をしに来たのだろうか。
どんな審判が下ろうと、神の意思に逆らうことはできない。もし逆らえば……。
私の命運もここまでか。
「しかし、私は……」
◇◇◇
―――神の間
床は白一色で壁はなく、頭上には青空が広がっている。
目の前には太陽を背に神が立っている。陽の光で表情を見ることはできない。
その両脇には5人の天使が立ち並んでいる。
神は私に言い放つ。
「お前は記憶を消され、新たに生まれ変わる。異論がなければ沈黙をもって答えよ」
「……」
「うむ」
神は私の額に触れた。
「同じ未来を辿らぬようにな、ラミエル」
私は神の慈悲の光に包まれ、肉体は光に融け込んで行った。
神は……私に罰を下した。