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ローゼと一緒にいる彼女は、とても幸せそうだった。

仕事帰りや妻との外出中にあいつと出掛けている姿を何度も見掛けた。

二人で手を繋いで微笑み合う姿に純粋に友を祝福する喜びと、それと

同時にどす黒い何かを感じていた。


あいつから彼女の話しを聞いたとき、あいつが彼女を気に入ってるのはすぐに分かった。

だから二人がうまくいくように、そう願っていた。

あいつはすごく良い奴で俺の大切な友人だ。人が困っていると放っておけないお人良しだが、悪いことをすればちゃんと叱ってくれる。

そんなあいつだが、一度も夫に選ばれたことがない。

話せばあいつの良さが分かるのに、見た目だけでどの女性もあいつの内面を知ろうとはしてくれなかった。

俺は妻にローゼを紹介して「夫にしてやってくれないか」と打診したこともある。だが結果は「私には無理だわ」だった。

友人として一人の人間として、俺はあいつに幸せになって欲しいと思っていた。

理解してもらえない...そのことがずっと歯痒かった。


けれど彼女はあいつと一緒に暮らしている。

それならきっとうまくいくと信じていたし、実際彼女はあいつを夫にした。


・・・それも、ただ一人の夫に。


沢山の感情がせめぎ合う中で、祝福する気持ちも確かにあった。

でも、それを覆い隠すほど圧倒的に、このどす黒い感情は大きかった。






別の世界から来たという彼女を初めて見たとき、その変わった顔立ちに驚いた。

また、彼女と接していくうちに此方の女性とのあまりの違いにも驚いた。


彼女は良く笑う。

必死に媚びなくても他愛ない話しで笑ってくれるし、誰に話し掛けられても嬉しそうにニコニコしている。

道端で偶然会ったときも、目が合うと嬉しそうに微笑んでくれる。


その一瞬だけ、彼女が自分だけを見てくれている気がして嬉しくて、偶然を装って何度も会った。

俺だけじゃなくて他にも同じことをしている奴がいたが。...それは仕方ないだろう。

だって会うだけであんな可愛らしい笑顔を向けてくれるのだから。


褒め言葉に慣れてなくて、少し褒めただけで赤くなって恥ずかしそうにしている姿は可愛い。

相手が老人でも醜男でも嫌な顔一つしないで照れているのは、正直腹も立つがそれも彼女の良さだ。

差別をしない人、けれどローゼだけは特別...


ざわっと、何かが俺の中で蠢いた気がした。




そんな彼女が可愛いくて仕方ない。

妻がいるのに、毎日彼女のことばかり考えていた。


・・・この感情が、恋なのか。


「恋」という言葉はあるが、実際にそれをしている男はどれだけいるのか...

ローゼは確かに彼女に[恋]していると思う。あの目もあの態度も、恋しているからだと言われればしっくりくる。


俺も彼女に恋しているのだろうか。


...そう思ったとき他の男達が彼女に向ける感情も、自分と同じものなんじゃないかと気付いた。


それからは感情が大きく傾く。


他の男も、ローゼもみんな、ただただ邪魔だと思った。

彼女の笑った顔を見れるのは俺だけでいい。他の奴なんていなくなればいいのに、そうすれば彼女は・・・


何時からかこの感情は、彼女の言った恋とは別のものになっていたと思う。

黒く、黒く、黒く塗り潰されたこの感情は、なんなのだろう。


ローゼを殺して、他の男も殺して...彼女をひたすら貪る。

そんな夢を何度も見た。

彼女の子も纏めて消したい...そんな考えが頭から離れない。そんな自分に驚いた。

女子は国の宝で、それを殺すなんて決して許されない禁忌なのに、その妄想は甘美で俺を誘う。









そんな時だった。悪魔の誘いを受けたのは。






ショカという名の俺の部下の男は、いつも彼女に辛く当たっていた。

会う度に自分の妻と彼女を比べて罵倒するんだ。


「君と違って僕の妻は美しい」

「彼女は君みたいに誰にでも媚びを売るようなことはしない」

「ローゼローゼって、君にはローゼしかいないの? 可哀想な人」


もちろんそれが本心ではないと分かっている。ショカの妻は悪妻で有名だったからだ。

女性の悪口を言うようなことは出来ないが、すぐ怒り暴力を振るい、気に入らないと即離縁する。

女子が生まれた場合処分してしまうことがある、そんな恐ろしい女性だ。

本当はそんなこと許されないが、妊娠しないよう避妊したり妊娠していたら隠れておろす女性がいるのも事実だ。

女子を多く産めば地位が上がるが、あまり多く産めば女性が増えていい男が取られると考える女性もいる。


しかし、離縁されることを恐れそれを密告しない夫も多い。

あいつもいつ離縁されるのかとずっと怯えて妻の悪事を隠し、必死に妻のご機嫌取りをしていた。


だが、それはあいつだけの問題ではなくて男なら誰でも思っていることだろう。

俺だってもう26でいつ離縁されてもおかしくない年だ。毎日いつ離縁されるのか怯えながら暮らしていた。

そんな男達の前に、23歳の高齢で、顔も体も仕事さえ救いようのない男を夫にする女性が現れたのだ。


そんな彼女に惹かれないわけない。


あいつは昔酒の席で、酔った勢いで言っていた。

「醜女でも性病持ちでもいい! 年老いてもずっと側においてくれる、そんな妻がほしい!!」と。

「女性に失礼だぞ!」とショカと取っ組み合いの喧嘩を始める者もいたが、それは俺の中にもあった願いだった。

そんな女性がこの世にいればどれ程いいだろう。しかし、そんな女性がいるわけない。

そう思っていたら実在して、そして自分よりずっと醜男を夫に選らだのだ。...しかも唯一人の夫に。

あいつがローゼに嫉妬するのも仕方ないことだろう。だって誰もが嫉妬していたのだから。




数ヶ月前に、ショカは妻に離縁された。

最近の弛みきった態度に加え、紅茶をその女性の服に掛けてしまったことから激怒させ片腕を切り落とされ追い出された。

片腕では騎士はできぬと仕事も辞めさせられて引きこもり、発狂して暴れ回るあいつに最初は同情していた者も、次第に嫌気がさして誰も関わろうとしなくなった。

俺が時々様子を見に行っていたが、あいつの落ち込みようは酷いものだった。

そんなある日、いつものように俺があいつの部屋に行くとそこには彼女がいた。

部屋の扉の前でこっそりと様子を窺う。

ドアについた小さな窓からベッドにいるショカと彼女と、その後ろに控えるローゼが見えた。

今のあいつは彼女に危害を加えるかもしれない。片腕とはいえ元騎士だ、ローゼには荷が重いだろう。


彼女は愚痴って物を投げて暴れるあいつの側で、ただ話しを聞いて、一緒に怒って、一緒に泣いていた。


そんな彼女の優しさに後輩を気遣ってもらえた嬉しさと、またあのドロドロした黒い感情が湧く。

そんなとき、ショカが思わず溢した言葉に俺の時が止まった。

いや、俺だけじゃなく彼女の後ろで待機していたローゼも。


「俺も貴方の夫になりたい」


言うつもりなんてなかったんだろう。ハッとした顔をして慌てて彼女を見て固まっていた。

言われた彼女は苦しそうに顔を歪めて、か細い声で答えた。


「ごめん...なさい」


それを聞いたショカは不安気な顔からみるみる顔を歪めて奇声をあげ、彼女の肩に手を置き壁に押し付けた。


「なんで駄目なの! ローゼはよくてなんで僕は! なんでなんでなんで!!」


ショカの力は強くて、ローゼと二人掛かりでも引き離すのは大変だった。

彼女はその間もずっとショカに謝り続けていた。

それは、俺が言われたわけでもないのに、深く心に突き刺さった。



そうして壊れたままのショカが俺に、ローゼの殺害に協力してほしいと言ってきた。

もちろん俺は断った。友人を殺すことはできないと。


あいつは憎い男だけれど、それでも大事な友人だったから。







そうして暫く経ち、ローゼは亡くなった。


仕事帰りの道で、数十ヶ所も刺されて死んでいたらしい。

誰がやったのか俺は知らない。

ショカがやったのかとも思えたが、それなりに人通りのある道で犯人が見付からないことを考えると女性が関わっている可能性が高いと思えた。

彼女は男性の地位向上の為に色々な女性に働きかけていたので、賛同者は増えたが目障りに思っていた女性も多かった。

そういった女性も協力していたのだろう。




そうして夫を亡くした彼女だが、やはり新しい夫を選ばなかった。

夫をもたなければ罰則があると何度警告を受けても「私の夫は生涯ローゼだけです」と信念を曲げなかったのは、とても彼女らしい。


優しくて残酷で傲慢な。



もしかしたら俺を・・・と、ありもしないことを想像して落胆した男は多かっただろう。


そうして最後の期待は無惨にも散ったのだ。







数日後、俺と7、8人程の男が彼女の家に押し入り彼女を襲った。

正確な人数は知らないし興味もないが、俺と同じように彼女に[恋]していた者だと思う。

夫を選ばなかった彼女に拒否権はないのだから罪悪感なんてものはない。これは彼女の選んだ結果だ。

しかし、さすがにこんなに早く、しかもいきなりな事態は異例といえよう。

普通は王の使いが数人で来て城に連行し、それから女性用の牢に入れレイプが始まる。

彼女もその時が来るのを家でじっと待っていた状態だ。


だが今回は王が連行を告げた途端、使者やそれ以外の男も家に押し入った。

今まで散々見せ付けられてストレスも欲望も溜めていたのだ。今の男達を止めることは王をもってしてもできないだろう。



「やめて!」と泣きわめく彼女の口を自らの口で塞ぐ。

一瞬聞こえた「アルス!」と言う俺の名に、興奮が抑えられそうにない。

口付けたまま手早く服を脱いだ。


わあわあと煩い子供は、残念ながら保護しなければいけない。

女子の二人と違い男子のミロなら殺しても問題ないが、彼女に似ているその容姿を傷付けることは、俺には出来ない。

多分、他の者も同じだろう。

いつもなら珍しいもの好きの女性の夫にされるだろうが、今回は面白いことになりそうだ。


・・・それにしても煩いのでどうにかしてほしいのだが誰も行かない。理由は分かっているし、俺も同じなのだから文句も言えないが。


彼女を貪るのに忙しい。

初めて触れた彼女の唇から、身体から、離れるなんてできない。


薄紅色の小さな唇に吸い付き舌を奥まで押し込むと、こちらの人間より体の小さな彼女には俺の長い舌が奥まで届くため時々嘔吐く。

だが、俺はそんな彼女に構わず奥へ奥へと舌を押し込んだ。


吐いてしまえばいいのに、そう思いながら。


そうしながらずっと憎くて堪らなかった黒の喪服を彼女から剥ぎ取る。

ビリビリと、同じように辺りで響く音に笑いが込み上げる。


辺りにはローゼの作った家具や小物が転がる。

このテーブルも椅子も、この部屋にあるほとんどの物をあいつが作った。

嬉しそうに愛しそうに彼女が見ていたそれが、床に倒れていることを喜ぶ俺がいる。

宝石箱から飛び出した安物の指輪やネックレスが、キラキラと輝き彼女を引き立てている。


その中で、涙を流す彼女は本当に美しかった。


蓋の開いたオルゴールから、彼女の大好きな曲が流れる。

その穏やかな曲を聴きながら、俺達は愛し合うのだ。



俺の口の中で甲高い声をあげて彼女から力が抜けると、呼吸が苦しいだろうから渋々口を離した。

「はぁはぁ」と粗い息遣いをする彼女に、その場にいた誰もが釘付けになる。


ゴクン・・・と、誰かの喉が鳴った。


挿れたい。と、誰もが思っただろう。


最初が俺でないことが悔しい。

ショカが彼女の中に挿れるのを、憎悪の籠った目で見ていた。



これで物語は完結です。

後はおまけの設定集で登場人物の説明などです。

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