3話
私とローゼは期限のぎりぎりまで恋人として過ごした。
お付き合いと言っても一緒に住んでるし二人で出掛けるとき手を繋ぐのも変わらないけど、デートなんだって意識したら一人で恥ずかしくなってしまった。
ただ、お付き合いを理由に彼のお弁当を作ったり、彼へのプレゼントを作ったり色々できるようになって良かった。
だってローゼはお付き合いの意味をしらないし、こういうことするものなんだよって言えばそうなんだ、って納得してくれるし。
でもなんか恋人っていうより、新婚さんぽくない?
そう思って一人で赤面したりして、ローゼを心配させてしまった。
そうして私達は結婚して、それを機に新しい家に引っ越した。
小さな家なんだけど庭付き一戸建てだ。
今まで住んでた場所は独身専用だったらしいから。確かに、そんな所に住んでたら迷惑だよね。
これからここで子供を産んで、家族3人...もっと増えるかな? 想像するだけで幸せでドキドキ、ワクワクしてしまう。
「幸せな家庭にしようね」って手を繋ぎながら言ったら、ローゼってば顔を真っ赤にしちゃうんだもん。可愛いな。
そんな幸せな生活だけど、色々な人から他にも夫を選べと言われた。
それでも私は断り続けた。
申し訳ないとも思ったけど、私の母は若くして夫を亡くしてからも死ぬまで再婚しなかった。
私はそんな母に憧れていたし、そういう恋愛がしたいと思っていたから。
何度言われてもそこだけは譲らなかった。
そうやって我が儘を言っているから私への悪口は酷かったけど、女であるからか男性から表立って言われることはなかった。
ただ女性を通して嘲笑されることは多かったけどね。
「ねぇ余所者さん、なぜあなたの夫は一人だけなの? やっぱりあなたに魅力がないからかしら?
その顔じゃそんな醜男しか相手をしてくれないのもしょうがないわね。あなたみたいな醜女じゃ」
女性がそう言えばその夫達も笑っていた。
男性は女性のご機嫌伺いをしなければいけないから、しょうがないとは思うけどムカつくのも確かだ。
後で謝罪してくれる男性もいれば、妻の言う通りだと私を見下す男性もいる。
ローゼもアルスさんも笑う人々を睨み付けてくれているが、彼女達が言うのは本当のことだ。
こちらの女性は私より背が高く170cm前後だろうか、それでいて皆美しくスタイルもいい。
少しポッチャリしているがそれは甘やかされた環境なんだから仕方ないのだろう。
それにポッチャリしてる分、胸がボインッとしてるから凄まじい。私の胸Dカップあるんですけど... この世界だと貧乳...
...ただ、お年がお連れの男性より大分召した方が多いのが気になる。
女性の少ない国だからそれも仕方ないとは思うが、若い...それも複数の男性にベタベタしているのはちょっと、かなり気持ち悪い...
だが、そんなことより何より驚いたのは、この世界でローゼが醜男だということだ。
確かに道行く人も日本でイケメンだと持て囃されている芸能人並の顔の良さだし(女性達もそれくらい美人だ)、女性が連れてる男性などはアルスさんと同じ位で、人形かと思う程整った顔とスラリとした長身をしている。(その分女性のポッチャリが際立つが)
ただ、男性は皆若くてお年を召した方がいないのに対して、女性は10代から60代くらいの人まで様々だ。
夫は10代から20代くらいの人しかいないので、女性の方が年上な夫婦が圧倒的に多い。
それを疑問に思って聞いたことがあるが、男性は28歳を過ぎれば老人だと言われて驚いた。
どうやら女性達は男性が老いてくる(20代後半になる)と離縁して新しい夫を迎えるらしい。
これは本当に、凄いカルチャーショックだった。
この世界の男性の扱いがあまり良くないことは分かっていた。
外に出れば他の女性を見掛けることがあるし、最初は甲斐甲斐しい男性達に関心していた。
それほど奥さんが大切なんだろうな、と。
でも、一方的に怒られたり時には暴力を振るわれる姿を見て考えが変わった。
どうしても我慢できずに口出ししたのは一度や二度じゃない。
この世界のことに余所者の私がでしゃばるのは良くないと思ってたけど、見てみぬ振りをするにも限度があった。
「そのくらいで十分じゃないですか」
そう言って止めれば女性に激怒され突き飛ばされたり、ぶたれたこともある。
でも私の言葉に耳を貸し、賛同してくれる女性もいた。
ある日、私は自分がした軽率な行動に後悔することが起こった。
また一方的に夫を罵倒し暴力を振るっている女性を見掛け、止めに入った。
だが、あろうことかその女性は怒りに任せてその夫を離縁したのだ。
あのときは、予想もしていなかったことに言葉を失くした。
離縁されたシュー君はまだあどけなさを残す顔をしていて、年齢を聞けば13歳だと言われ驚いた。
そんな子供を夫にしていたことも、そんな子供に暴力を振るっていたことにもゾッとした。
やっぱりこの国に私は馴染めそうにないと心から理解した瞬間だった。
とにかく大変なことになってしまったと私は何度も彼に謝った。私が余計なことをしたせいで彼は離縁されてしまったのだから。
私はあんな女性と別れられて良かったとも思ったけど、この国ではどんな女性だとしても男性に拒否権はなく、男性側もどんな女性だろうと妻をもつことは素晴らしいことだと思いこんでいる。
どちらの考え方も私には理解できなかった。
「あはは、まぁいいですよ。お詫びなら次はユーカさんの夫にしてもらおうかな」
笑ってそう言ってくれたシュー君に、私は何も言葉を返せなかった。
痛々しいガーゼが貼られたその頬に、この世界を少しでも男性に優しい世界に変えたいとそう思った。
私がローゼと結婚して1年後には女の子が生まれた。
名前はミーゼ。
黒い髪にエメラルドの瞳でハーフだからか、すっごく可愛いの!(親馬鹿なのは認める)
ローゼも私に負けず劣らずの親バカで、へにゃっとした顔をして可愛いがっている。
女の子を産んだことで周りからも凄く褒められたし、アルスさんもシュー君もミーゼをすごく可愛いがってくれる。
それでもまだ夫を増やせって声はあったけど、次の年に男女の双子を生んでからは言われなくなった。
女性の身分というか位は女児を産んだ数で決まるらしくて、一人産むだけでも凄いことなのに、私は二人も生んだからね。
みんな文句を言えなくなったのだ。
これでやっと夫はローゼだけだって言い分が通るようになったし、文句を言われなくなってホッとしてる。
ちなみに双子の名前はミロとユーゼ。
男の子のミロは黒髪黒目で私に似てる。
元気が良いというか破天荒で暴れ回ってて大変。10ヶ月で歩けるようになり、どこに行くのも目が離せない。
逆に女の子のユーゼは茶色の髪にエメラルドの瞳でローゼそっくり。
この子は大人しい子で手が掛からない。まだはいはいをし始めたばかりだ。
そんな二人をお姉さんなミーゼが見てくれる。...って言っても一歳お姉さんなだけだからこっちも見てないとね。
ローゼがお仕事の間は、彼が作ってくれた勉強机で子供達に勉強を教えたりしている。
この国には学校がないらしくて、お父さん達が自分の知識を子供に教えるらしい。だから子供によって持っている知識はバラバラ。
それってどうなんだろうね。
この世界の字は見たこともない字だったから覚えるのに苦労したのを思い出す。
なんで言葉だけ通じるんだろ?
ローゼには今でも毎日愛妻弁当を作ってるよ。
人に見られると危険だからこっそり食べてるらしいけど、アルスさんとか知ってる人もいるらしい。
この間おかずを取られたって怒ってて、それくらいいいじゃない? って言ったら「ユーカが俺の為に作ったんだから全部俺のなの!」って怒ってたのは可愛かったな。
そうそう、そうやってローゼが仕事でいないことも夫を持てと言われる原因なんだけど、そういうときはアルスさんやシュー君、ショカっていうツンデレの美形や色んな人が来てくれる。迷惑だろうからいいって言っても女性一人では危険だって言われちゃって断れないし・・・
ローゼもね、嫌みたいだけど私一人じゃ心配だってみんなが来ることは了承してる。
なんかローゼってば結婚したら独占欲強くなったな。
それ以前は「嫌だけど、俺以外にも夫をもった方がいい」って説得してきたのに、今は他の人が私に近付くと威嚇してる。
私を抱き込んで他の人から見えないようにしたり過度なスキンシップしてきたり...
可愛いけど、人前で深いキスや変な所を触るのはよしましょうね?
でも彼等も子供達に色々教えてくれてすごく助かってるのよ。
だから威嚇は、めっ!
お昼を食べた後、子供達と一緒にローゼが作ってくれた沢山のオルゴールを聞きながら歌うのが日課になっていた。
ローゼってば私が口ずさむ歌で次々オルゴールを作っちゃうんだもん。
ピアノみたいな[ピノ]っていう小さな楽器も作ってくれたから、それからはオルゴールを聴いたり、ピノを弾きながらの演奏会。
私も教わったから弾けるけど、やっぱり指導してくれたシュー君の方がずっと上手。
こうやって毎日幸せな日々を過ごしていた。
子供達と夫と、いつも気にかけてくれる優しい友人達と。
この穏やかな時間がずっと続くんだろうと、そう思っていた。
でもある日突然、ローゼは死んでしまった・・・