-日本昔風作り話-「大虎狩りの和尚さん」
戦国の世に各地で暴れまわった“国盗り将軍”と言われた男が居た。
ある国を落とした時、天下の3分の2を手中に収めた時、
将軍の前に人徳の高い和尚さんが現れた。
猛暑が過ぎ、ようやく日差しと風が優しくなってきた秋口のことだった
この国ではとても信頼の厚い和尚さんが
将軍さまに突然に呼び出された
それは忍びを使い誰に見られる事もなく
密かに和尚さんに伝えられた
和尚さんは、無言でコクリと頷くと
すぐに出かける準備をはじめた
お寺を出た時は日が昇る前だったが
すでに城門に着く頃には日が傾きかけていた
和尚さんが門番に城内へと通されると
案内役が一人待っており、将軍さまの居る庭園へと案内した
和尚「お久しゅうございます。将軍さま」
将軍「よう来たッ!和尚ッ!」
和尚「今日は何の御用でございましょうか?」
将軍「ん?なんだ!以前の事をまだ根に持っているのか?」
和尚「そんな事はございません。・・・ただ」
将軍「ただ?なんだ?」
和尚「今回も無理難題を申されるのでは無いのかといささか、
肝を冷やしております。」
将軍「無理難題か?しかし、和尚ッ!貴様は見事やってのけたではないかッ!」
和尚「だからこそ、この体にいまだ頭がくっ付いております」
将軍「ふふふッ!その通りだッ!」
和尚「ところで、目の前にある2枚の屏風、
1枚には今にも襲ってきそうな迫力のある虎が一匹!
もう1枚は何も書かれていない屏風でございますな?」
将軍「さすが和尚ッ!実はこの屏風には虎が2匹居たんだが
いつぞや消えてしまっていた。そこで和尚ッ!
貴様に消えた虎を探して参れッ!」
この将軍、たいそう変わり者で
人に無理難題を出しては出来ない者は罪に問い
見事に解いた者には莫大な金銀財宝を与え役職に就けた
過去にも和尚さんは問題を出されたが解いてみせた
しかし、仏様に仕える身であり一切の報酬は受け取らなかった
将軍はそれを認めて帰したが、
『いつか欲に眩んで受け取らせてやるッ!』
と、逆にあの手この手で攻めては
国中から集めた名品と言われる品を出すも受け取らなかった
そして、また呼び出された訳である。
和尚「将軍さま、本当に虎は屏風から消えたのですか?」
将軍「ん?おれの言う事が嘘いつわりだと申すのか?」
和尚「いえ、ただ虎は消えたのでは無く、盗まれたのではないでしょうか?」
将軍「ほう!なぜ貴様にそんな事がわかる?」
和尚「“虎"だけに“盗ら”れたのでは無いかと思いまして・・・」
将軍「虎だけに・・・盗られたか?んふふふッ!まぁ、いいだろうッ!」
和尚「恐れ入ります」
将軍「ならば、その虎を捕まえる事はできるか?」
和尚「捕まえる?」
将軍「貴様に3日間の猶予をやろうッ!
必要なものがあれば自由に使え!
その代わり、今回は失敗すれば貴様の首が飛ぶと思えッ!」
和尚「わかりました」
このウワサは国中に広まり、和尚さんを慕う人たちがお寺に沢山つめかけた
勿論、この国には野生の虎など居ないし、飼う者など尚更いない!
ましてや屏風に虎の絵を描いたところで盗まれた虎だと認められなければ終わり
果たしてどうするのか大騒ぎ!
だが、肝心の和尚さんというと冷静沈着
むしろ他人事か、はたまた覚悟を決めたのか
落ち着いた面持ちでいつも通り、お経を読んだり、写経したりと
集まる人をそっちのけで働いていた
期限の3日目の早朝、和尚さんはお城へと出向いた
そして昼ごろになり、深酒をしていた将軍さまがお目覚めになって来た
将軍「和尚ッ!今日が期日だぞ?
おれにその首を差し出すのが惜しくて命乞いにでも来たか?」
和尚「いえいえ、仏門に入った時からこの命は自分の為に使わず
将軍さまに首をはねられた所で極楽浄土で修行が出来る
と思えば悪くもございません」
将軍「ふんッ!では虎も居らぬが何しに来た?」
和尚「虎の居場所を探すのに手間取ってしまいまして
肝心な準備を怠ってしまいました」
将軍「虎を見つけただと?して、準備とは何だ?」
和尚「虎はとても獰猛で私ひとりではとても手が付けられません
そこで将軍さまのお力を少しばかりお貸し頂け無いかと思いました」
将軍「言うてみよ!」
和尚「虎を捕まえるには人手が要ります。
そこで力自慢の者たちを多数集めたものの、何せ無骨で荒くれ者ばかり
もし将軍さまに何かあってはと思いまして・・」
将軍「どういうことだ?」
和尚「虎の居場所はこの城内に居ります。そして荒くれ者たちは以前、
将軍に国や家族を奪われ恨みを持つ故に、危険かと」
将軍「わざとそんな奴らを集めたな?んふふふっ面白い!
だが、残念ながら不審な者は城内へと通させぬ・・・が、
それでは貴様が不利になってしまう。」
和尚「それならば、将軍の兵士を幾人かお借りするというのは?」
将軍「おれに代わって天下の兵を操るか?
これは傑作だッ!いいだろうッ!好きなだけ使って見せよッ!」
その日の夜、
お城は大火に襲われた
前日の深酒のお陰で気持ちが大きくなったのか
期限に間に合わずに和尚さんが困る姿が観れると勝ち誇ってしまったのか
将軍は快く和尚さんに兵権を渡した事で、城内を守る兵士だけではどうにもならなかった
そして将軍は捕らえられ、国は以前に治めていた城主へと返された。
和尚さんは言った
「平和な国を襲って築いた平和など仮初めに過ぎない。
心から民百姓を安んじる人こそが国を治めるべきである
力は所詮は力によって滅ぼされる良い例になった」
そして以前にも増して良い国づくりが行われた
こうして和尚はその行いを讃えて『大虎狩りの和尚』として信頼され続けた。
数年後、和尚さんが亡くなった時、再び国は乱れる
国盗り将軍は捕らえられるも処刑される前に仲間の手引きによって逃亡
そして後に大国を築きあげるが天下統一は遂げられなかった。